仙台うみの杜水族館(仙台市宮城野区)は7月、2015年のオープンから5年を迎える。同年閉館したマリンピア松島水族館(松島町)の後継として、仙台港背後地に誕生した東北最大の水族館は、昨夏に来館者数500万人を突破した。三陸の海の魅力発信に知恵を絞り、希少動物の繁殖や健康管理に心を砕くスタッフの奮闘を追った。
(報道部・三浦夏子)

 次代に種をつなぐための旅立ちだった。
 仙台うみの杜水族館(仙台市宮城野区)が開館1年を迎えようとした2016年6月、当時5歳のイロワケイルカの雌「サクラ」が繁殖のため、横浜・八景島シーパラダイス(横浜市)に引っ越した。
 付き添ったのは獣医師の田中悠介さん(35)。「共に東日本大震災を乗り越えた。寂しさはあったが(繁殖して)多くの人に生態を知ってほしい気持ちの方が強かった」と振り返る。
 だが、願いはあっさり絶たれた。繁殖がうまくいかないまま、サクラは約1年後に死んだ。当時、国内のイロワケイルカはわずか9頭。現在はさらに減少し、5頭だけとなった。
 少子高齢化は人間社会だけでなく、全国の水族館が直面する深刻な問題。動物の繁殖や高度医療を支える獣医師の役割は、必然的に大きくなる。

 世界規模で広がる動物福祉の考え方や法規制で、展示動物の確保が年々難しくなっている現状もある。
 うみの杜の前身で、15年に閉館したマリンピア松島水族館(松島町)は、サクラの祖父母に当たるイルカを1986年、南米のマゼラン海峡で捕獲した。
 当時のチリ政府は松島、サンシャイン(東京)、鳥羽(三重)3水族館の合同チームに捕獲を許可したが、その後、同国内で鯨類の愛護思想が強まり、同じようなイルカの確保が今は非現実的となった。
 血統が近い個体間の繁殖はリスクが伴い、日本国内の繁殖は困難を極めつつある。「水族館から動物がいなくなる未来もあり得る。展示動物を維持するため、世界中の水族館が協力すべきだ」と危機感を抱く。
 高齢化する動物たちの健康管理には情報が欠かせない。全国の獣医師によるネットワークに所属し、最新の知見を取り入れる。
 ペンギンの餌をアジからシシャモに変えたのは、その一例だ。体調を崩したペンギンにイワシを与え、元気を取り戻したという他水族館の情報をキャッチ。イワシに成分が近く、新鮮な状態で仕入れることができるシシャモを選んだ。
 動物は来館者に野生を伝える「親善大使」。だからこそ、水族館にいることが不幸であってはならない。「動物の幸せな姿はみんなを幸せにする。そのために手を尽くす」。これからも医療で人と動物をつなぐ。

[イロワケイルカ]黒と白の模様が特徴の小形イルカ。平均体長135センチ、平均体重40キロ。主に南米のマゼラン海峡に生息する。国内では仙台うみの杜水族館に1頭、鳥羽水族館(三重県)に4頭いる。うみの杜の前身、マリンピア松島水族館(松島町)が1989年、国内で初めて繁殖に成功している。