自分の意思や要求、感情を相手に伝える「声」。病気や障害のため、その身近なコミュニケーション手段を奪われた人たちがいる。「失声」を受け入れ、共に生きる宮城の人たちの挑戦と決断の日々を追った。
(報道部・石川遥一朗)

 仙台市宮城野区の宮城県障害者福祉センター。1月中旬、会議室に秋田民謡の替え歌が響いた。
 「ドンドンパンパン ドンパンパン 声が出てきてうれしいな 喉を切られてがっくりだ」
 カラオケを熱唱したのは宮城野区の無職中尾善幸さん(69)。県内の喉頭摘出者でつくるグループ「立声会」の発声訓練合宿に初めて参加した。
 4泊5日の合宿最終日、長さ10センチの電気式人工喉頭を左手で喉に当て、右手にマイクを持ち、訓練の成果を発表した。
 人工喉頭は声のもととなる空気振動を口内に発生させる。装置で作る中尾さんの声はブザーのようで抑揚は少ないが、歌詞がはっきり聞き取れる。
 「もう一度歌える日が来るなんて夢のようだ」。仲間に大きな拍手を送られ、中尾さんは感慨に浸った。
 喉頭がんを患い、昨年5月に声帯とともに喉頭を全摘出した。咽頭と食道をつなぎ、肺に空気を直接送る気管孔を形成した。発声は全くできなくなった。
 喉に違和感を覚えて病院で検査し、ステージ4の喉頭がんと診断されたのはその1カ月前。医師に「喉頭摘出しか助かる方法はないが、声を失う」と告げられた。不安が募ったが、がんの進行は早く、悩む時間はほとんどなかった。
 手術後のコミュニケーションは筆談のみ。円滑な意思疎通が難しくなった。
 町内会長を務めるが、住民とすれ違っても会釈しかできない。電話に出られず、妻の不在時は留守番電話に切り替える。外出もあまりしなくなった。「人と触れ合う機会が減ってしまい、落ち込む一方だった」
 昨年11月の連合町内会の会合は、意見を紙に書いて出席者に回した。「面倒くさい」。話の流れが途切れると不満の声が漏れ、腹が立ったが、言い返す声が出ない。怒りにまかせ、机を手のひらで強くたたいた。
 物に当たることでしか感情を表現できない自分を情けなく思った。「どうにかしたい」。病院に紹介され、立声会を知った。合宿に参加し、人工喉頭で発声する方法を仲間に教わった。
 「これで友人と大好きなカラオケに行ける。町内会活動も続けられる」。中尾さんが手にした「第二の声」は自信に満ちていた。

[電気式人工喉頭]喉に当てて口の中に振動を響かせ、舌や口の動きで振動音を「あ、い、う」などの言葉に変えて発声する。健常者は肺から出た空気が喉頭にある声帯を振動させ、声のもととなる振動音をつくるが、喉頭を摘出し、声帯を失った人は振動音がつくれないため、電気式人工喉頭でブザー音のような振動を発生させる。