気仙沼市唐桑町でカキ養殖を営む畠山重篤さん(76)のエッセーを収録した「牡蠣(かき)養殖100年 汽水の匂いに包まれて」(マガジンランド)が出版された。カキの漁場である汽水域から見いだした世界観、半生を平易だが芯のある文で記した。孫で養殖業を継ぐ紘一さん(18)=石巻専大1年=の挿絵も収録、次代へつなぐ一冊でもある。
 全国共済水産業協同組合連合会の隔月機関誌「漁協の共済」で、2001年4月号から19年6月号まで連載したものをまとめた。1回600字、111編。
 川が海に注ぐ舞根湾の汽水域で育った畠山さん。「汽水域の匂いは記憶の奥底に刻まれている」という。
 著書では汽水域を、生活に関わる全てのものが川から流れ込む「人間世界の縮図」と記す。1989年から続く植樹活動「森は海の恋人」も、汽水域から川、森を俯瞰(ふかん)する漁師ならではの視点から生まれた。
 重視するのは子どもの頃からの教育。京都大フィールド科学教育研究センター社会連携教授として講義をした際の記述が印象的だ。
 「森は海の恋人」を紹介した畠山さんの文章を中学時代に教科書で学んだ複数の学生が聴講したのだ。感想文に「一番、現実を実感できた講義」とあった。畠山さんは「こうして世の中が変わっていくと思った」と感慨深げに振り返る。
 「しげぼう」と呼ばれハゼ釣りに興じた幼少期、海外の産地旅行記、夏の収入源として畠山さんが宮城県で初めて始めたホタテ養殖、カキ養殖に欠かせない鉄を巡る考察、東日本大震災からの軌跡なども収めた。
 畠山家のカキ養殖は、47年に畠山さんの父が始めた。4代目となる孫の紘一さんで、100年を迎える。紘一さんの挿絵は約50点。小学2年から描いており上達の過程が分かる。
 表紙のカキの絵は、一つ一つの形や色の微妙な違いを伝える。「海の色も反映させた」と紘一さん。家業について「人口が減る中でどう発展させていくか、少しずつ考えたい」と話す。
 奥付には9人の孫の名がある。畠山さんは「おじいちゃん冥利(みょうり)に尽きるよ」と笑いつつ、「今の時代に養殖業をするとはどういうことか。この本を通じ理解し自信を持ってほしい」と紘一さんを見守っている。
 四六判、455ページ。1500円(税別)。