腸管出血性大腸菌感染症は、5月以降、患者発生の増加傾向が続いています。例年8〜9月にかけて、腸管出血性大腸菌感染症の患者発生はピークを迎えます。今後もさらに患者数が増加する可能性がありますので、注意が必要です。特に、牛肉などの生肉を食べない、取り箸やトングの使いまわしをしないなど注意し、また食事をする前は必ず流水せっけんで手を洗うことを心がけましょう。

 腸管出血性大腸菌感染症の主な感染経路は、腸管出血性大腸菌によって汚染された食材(加熱が不十分な肉など)や水分を経口摂取することによる経口感染です。

 例年、腸管出血性大腸菌の感染者の報告数は、0〜4歳児が最多です。5〜9歳がこれに次いで多い状況です。特に重症化すると命にかかわる場合があるので、注意が必要です。

患者数の動向

 IDWRの速報データによると
 2020/7/6〜7/12(第28週)は、全数把握疾患、報告数が66件
 2020/7/13〜7/19(第29週)は、全数把握疾患、報告数が108件
 2020/7/20〜7/26(第30週)は、全数把握疾患、報告数が82件

概要

 大腸菌は、哺乳類や鳥類の主に大腸に生息している細菌で、菌の表面にある抗原(O抗原と呼びます)によって約180種類に分類されます。殆どの大腸菌は、例えヒトの大腸内にあっても無害ですが、一部にヒトに対して病原性を示すものがあります。

 腸管出血性大腸菌(EHEC:enterohemorrhagic E. coli)とは、ベロ毒素(VT:Verotoxin、VT1とVT2があります)を作り出す能力を持った大腸菌のことです。

 腸管出血性大腸菌の感染によって血便を伴う激しい下痢や、重篤な合併症である溶血性尿毒症症候群(HUS:Hemolytic uremic syndrome)や脳症となり、生命に関わる場合もあることはよく知られています。O抗原で分類される大腸菌O157は、腸管出血性大腸菌として有名ですが、たとえO157であってもベロ毒素を産生できなければ腸管出血性大腸菌ではありません。

 O157の他に、O26、O121、O111などが腸管出血性大腸菌としてよく知られています。

症状と合併症

 感染後3〜5日間の潜伏期間を経て、激しい腹痛を伴う頻回の水様性の下痢が起こり、その後で血便となります(出血性大腸炎)。発熱は軽度です。血便は、初期段階では、少量の血液の混入で始まりますが、次第に血液の量が増加し、典型例では血液そのもののような状態となります。

 発病者の6〜9%では、下痢などの最初の症状が出てから5〜13日後に溶血性尿毒症症候群(HUS)や脳症などの重篤な合併症をきたすことが知られています。HUSを合併した場合の致死率は3〜5%といわれています。

衛生管理

 腸管出血性大腸菌は75℃で1分間過熱で死滅するので、食事はしっかりと過熱したものを供することが基本です。

 また焼肉などでは、生肉を扱った箸やトングなどは生食用のものと必ず使い分けましょう。過去の事例として、野菜類(生野菜はもとより浅漬けなど)やそれ以外の加工食品(最近ではお団子の食中毒)での集団発生がありました。施設に提供され、そのまま加熱処理等が行われないままに供される食材の衛生管理は、納入業者と連携してしっかりと行われなければなりません。

 牛の生肉や生レバーなどの内臓は、腸管出血性大腸菌の感染の可能性があるので食べるべきではありませんが、特に保育所に通っている年齢群の乳幼児では厳禁です。高齢者や乳幼児と日常的に接触する職業や立場の人(家庭も含めて)、あるいは免疫力の低下した人と接触する職業・立場の人は厳に慎むべきです。



監修:大阪府済生会中津病院感染管理室室長 国立感染症研究所感染症疫学センター客員研究員 安井良則氏