官民で支援が広がる「就職氷河期世代」。同じ世代で正社員ではないけれど、そうした社会の動きと距離を置きたいと思う人たちがいる。不安定な雇用環境などで繰り返しつまずいた末に引きこもり状態になると、「何が何でも正規雇用」とは思わないケースもあるという。支援団体や専門家は「最初に心の傷をどう癒やすかも課題」とし、就労とは分けた支援が必要と指摘する。(小谷千穂)

 昨年、兵庫県宝塚市が全国に先駆けて行い、1635人が受験した氷河期世代限定の職員採用試験。400倍を超える競争率となり、40〜45歳の男女4人が正規採用された。試験会場では「ようやくこの世代に光を当ててくれた」と喜ぶ声が上がった。

 一方で、「自分は関係がない。注目もしなかった」と語る男性がいる。同じ宝塚市を拠点に、引きこもりの人や家族の交流などに取り組む市民団体「こもりむしの会」に通う神戸市の男性(44)もその一人。採用試験の対象年齢だったが「正規で働いても、うまくいかないだろう」と応募はしなかった。

 男性は40代になるまで6社を渡り歩いた。部署が廃止されたり、人間関係が難しくなったりして職場を転々。2年半前に関東の会社を辞め、神戸の実家に戻って新しい仕事を見つけた。しかし、トラウマ(心的外傷)が残る中で無理に働き、体調が悪化。体を休めることにした。

 「正規雇用ではなくパートとか、今の自分に合った働き口を見つけたい」と男性。正社員化だけを前提とした社会の空気に「自分は外れている」と焦りを感じているという。

 こもりむしの会のメンバーで約20年間、外に足が向かないでいる神戸市の男性(47)も「関心がないというか、諦めている」と就労に現実味を持てていない。

 職を転々としたが、上司との関係などから人と会うのが怖くなり、仕事が続かなくなった。気分が落ち込むこともあり「仕事どころじゃない。何から手を付けたらいいか分からない」。最近は外に出るきっかけをつくろうと、スマートフォンのゲーム「ポケモンGO(ゴー)」に「前向き」に取り組んでいる。

 こうした長く引きこもり経験のある人は、就労に引け目を感じることがあるという。精神科医でもある筑波大大学院の斎藤環教授は「引きこもり状態の人に就労をゴールとして押し付けると避けられてしまう。対話ができる環境をつくり、信頼関係を築いてから社会参加につなげるべきだ」と話す。

■中高年の引きこもり 国や自治体、支援に本腰

 政府が力を入れる就職氷河期世代の支援は、「中高年の引きこもり」という問題も浮かび上がらせた。いまや若年層に限った課題ではなく、自治体も支援に本腰を入れ始めている。

 内閣府の調査では40〜64歳の引きこもりは全国で61万3千人(2019年3月)と推定され、50代の当事者と80代の親が困窮する「8050問題」も懸念される。KHJ全国ひきこもり家族会連合会(東京)によると、約7割が就職の失敗や就労先での挫折が原因。伊藤正俊理事長(67)は必要な支援として、(1)当事者の居場所づくり(2)家族会の設立(3)当事者でもある「ピアサポーター」による訪問活動−を挙げる。

 兵庫県明石市は昨年7月、「ひきこもり相談支援課」を新設し、保健師や精神保健福祉士、弁護士を配置した。半年間で約170人から相談があり、青木志帆課長は「『ここに来たら話を聞いてくれる』という分かりやすさが効く。居場所づくりは民間の力を借りながら、行政も責任を持って支援したい」とする。

 兵庫県も昨年12月、「ひきこもり総合支援センター」を神戸市中央区の県精神保健福祉センターに開設。神戸市は2月3日、同区の市立総合福祉センターに「神戸ひきこもり支援室」を立ち上げた。国も個別に訪ねて相談に乗る「アウトリーチ支援員」を各地の自立相談支援機関に置く。(小谷千穂)