昔から中国の自動車メーカーから出てくるモデルは、他国メーカーのパクリが多いといわれていました。一見、モラルや文化の違いも考えられますが、じつはもっと大きなビジネス的な問題が理由にあったようです。

単純にモラルの問題ともいえない理由

 中国で走っているクルマ、あるいは中国のモーターショーなどで展示されているクルマを見ると、どこかで見たようなクルマと感じることが少なくありません。しかし、単なる「パクリ」ばかりかというと、そういうわけでもないようです。

 なぜ、中国車にはパクリが多いといわれているのでしょうか。

 まず、はじめに注意しておかなければならないのは、「パクリ」の定義は非常に曖昧ということです。クルマに限らず、あらゆるデザイン上の評価は主観に依存する部分が大きく、司法の判断を仰いだとしてもその類似性を厳密に証明するのは難しいとされています。

 また、海外も関わる内容については、双方の国で司法の判断が食い違う場合もあるため、何が「パクリ」で何が「パクリ」でないのかを判断することは非常に困難です。

 自動車業界でいえば、ランドローバーが同社SUVの「イヴォーク」に似たモデルを発売した中国メーカーに対して訴訟を起こした例はありますが、それ以外に海外メーカーが中国メーカーを「パクリ」で訴えたことはそれほど多くありません。

 訴訟まで発展することが少ない理由には、コストやどれだけ実害があるかといった面もありますが、ひとつは確実に勝訴できるだけの根拠が乏しいということもあるでしょう。
 
 とはいえ、一般的な感覚でいえば、諸外国のクルマと似ているクルマが、中国メーカーから発売されていることは疑いのない事実です。では、なぜそのようなクルマが生み出されてしまうのでしょうか。

 常識的にいえば、当然「パクリ」は好ましいことではありません。では、単に中国自動車メーカーにモラルがないのかというと、必ずしもそういうことではないようです。

 もちろん、他社のクルマと似通ってしまう原因は、技術力が欠如しているという部分は間違いなくあります。

 中国には数え切れないほどの自動車メーカーが存在していますが、上述のイヴォークに酷似したモデルを発売したメーカーは、非常に小規模なメーカーです。

 こうしたメーカーには、オリジナルのデザインを提供するだけの能力がありません。一方で、世界最大の市場である中国で弱小メーカーが生き残るためには、「とにかく多く、そしてとにかく安く」新車を提供する必要があります。
 
 その結果、他社を真似るという安易な方法を選択してしまうと考えられます。こうしたクルマは、一般的にはもっとも「パクリ」と判断されやすいものになります。

 しかし、中国でもグローバルレベルの技術力を持つ自動車メーカーも増えてきました。そうしたメーカーでもパクリと思われるようなクルマが登場する理由は、現在の自動車のデザイン方法そのものに原因があります。

 現在では、多くの自動車メーカーが自動車デザインにデジタル的手法を導入しています。システム上でデザインを設計できるだけでなく、空力や荷重についても計算可能であるため、試作車を作る手間が最小限に抑えられ、結果としてコストも抑えられるなどのメリットがあります。

 しかし、そうしたデジタル手法の弊害として、多くのクルマのシルエットが似てしまうという事態が発生しています。

 運動性能や燃費性能を考慮して設計すると、物理法則的にもっとも効率のよいボディラインが決定しますが、そうなると必然的に他社との差別化が難しくなってしまうのです。

 上記で述べた「技術力の欠如」と「デザイン手法の画一化」は、本質的にいえば中国だけに限って起こることではありません。しかし、もうひとつ、中国車が他社と似てしまう決定的な理由があります。

合弁制度による海外技術の導入

 中国のモーターショーなどを見ると、たとえばホンダのクルマが展示してあるブースが複数あることに気がつきます。

 そのひとつは、グローバルブランドとしての「ホンダ」ブースですが、より多くのクルマが並べられているのは、「広汽ホンダ」や「東風ホンダ」のブースです。

 これは中国の自動車メーカーである広州汽車および東風汽車とホンダの合弁企業によるブースを意味します。

 中国では、これまで国内で自動車を販売する外資系企業には、国内企業と合弁企業を設立し、合弁企業によって生産、販売することを義務付けてきました。

 もし合弁企業を設立せずに輸入車として販売すると、25%という高額な関税がかかることになります。そのため、ホンダやトヨタ、VWやGMといった日欧米の大手自動車メーカーは、圧倒的な中国国内市場を見据え、中国自動車メーカーと組んで中国でクルマを生産・販売しています。

 中国がこのような制度を採用しているのは、当然、自国の自動車メーカーの技術力向上が目的であり、ひいては国力を強化するためです。

 つまり、中国政府は、いまや世界最大となった自国の市場を提供することと引き換えに、世界中の自動車メーカーの技術やデザインを吸収しているといえます。

 なお、欧米のメーカーと組む合弁企業のなかには、独自ブランドの車種を別に生産している企業も存在する状況です。

 なかには技術流出を恐れて、合弁企業では旧モデルの生産・販売しかおこなわないというメーカーもありますが、多くの自動車メーカーは、リスクとメリットを天秤にかけたうえで、中国でビジネスをおこなっているといえます。

 おそらく、「パクリ」が訴訟問題に発展しない要因のひとつには、自らも参戦している「中国市場」という大きな果実の前では、それほど大した問題ではないという各自動車メーカーの判断もあるのかもしれません。

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 中国政府の後押しを受けて、中国の自動車メーカーの技術力も向上してきました。その結果、合弁制度や関税政策にも緩和が見られつつあります。

 そういった意味では、今後「パクリ」といわれるようなクルマは少なくなることが予想されます。しかし、中国の自動車メーカーがグローバルレベルの技術力を備えたとき、日欧米の自動車メーカーにとってほんとうの意味で脅威となるかもしれません。