かつて国産自動車メーカーは、複数の販売チャネルを展開していました。しかし、販売店毎の特徴や車種の棲み分けなどが上手く行かなかった結果、現在ではトヨタを除いて単一の販売チャネルを展開しています。そんななか、最後まで複数の販売チャネルを展開していたトヨタもチャネル統合や全車全店舗で扱うことを発表。なぜ、トヨタはいまになって統合する動きになったのでしょうか。

トヨタ販売店統合の狙いは? 販売店の生存には「挑戦」が必須か。

 トヨタは、2020年1月時点で国内に4つの異なる販売チャネルを持っています。過去には、日産やホンダ、マツダなど国産メーカー各社も複数の販売チャネルを展開していましたが、専売車種や店舗特徴を上手く棲み分けることができず、2000年代半ばには統合をはたしています。

 そんななか、最後まで複数チャネルを展開していたトヨタも全店舗で全車を扱い、チャネルを統合させていくことを2018年11月に発表しました。なぜ、トヨタはこのタイミングで販売網を整理することになったのでしょうか。

 当初、トヨタは全車種の取り扱いや統合案の実施を2025年からとしていましたが、2019年6月に「統合開始は2020年春に前倒しする」とし、その後2020年5月から全店で全車を扱い始めることが明らかになりました。

 長い間、トヨタはその販売戦略として顧客に合わせたクルマをそれぞれ品揃えする販売店ネットワークを構築してきましたが、将来的にカーシェアや新たなモビリティサービスの普及で新車販売が激減することが予想されています。

 マーケティング会社のHISマークイットの予想では、20年後の2040年には日本の新車販売は現在の70%程度まで落ち込むといいます。そこで、トヨタが決断したのが販売チャネルの統合です。

 現在、展開されている4つの販売チャネルは、旗艦セダンである「クラウン」を扱うトヨタ店、そこから派生したセカンドラインで「マークX」などを販売してきたトヨペット店、比較的廉価な量販大衆車種を取り扱うカローラ店、若年層を取り込んできたネッツ店があり、ターゲットとする顧客によって各チャネルが専売車種を持つことで棲み分けを図ってきました。

 トヨタが発表した改革案は、この4チャネル体制を撤廃して、すべての店舗で全車種を販売できるようにするという計画です。実際に、2019年4月からは東京地区の販売店が「トヨタモビリティ東京」に統一されています。

 チャネル統合について、東京都内のトヨタ販売店スタッフは以下のように話します。

「とくに、昔からトヨタをご愛顧頂いているお客さまには、未だに統合が馴染んでいないようです。先日、近所にはネッツ店しかないため、新型『カローラ』を買うために遠くのカローラ店へ行くから住所を教えてくれという問い合わせがありました。昔ながらのトヨタ販売店の仕組みをきちんと理解している年配のお客さまからの問い合わせは、いまも多いです」

 以上のように昔からのトヨタユーザーにとっては混乱を招き得るチャネル統合ですが、どんな狙いがあり、何が起こるのでしょうか。

 明白なのは、これまで高級車などの販売で顧客を掴み、長い歴史を培ってきた老舗販売店と、利幅は少ないけれど量が売れる大衆車で稼いできた販売店、それぞれの個性がぶつかり合って競争に拍車がかかります。

 当然、今後20年で3割減が予想されている新車販売競争のなかで、疲弊する販売店も現れるでしょう。不採算販売店が露呈し、それらの撤退も考えられます。

 それを阻止するには、販売店にとって新車販売の次に収益源となる商品開発が必須といえます。全国のトヨタ系ディーラーの業績が悪化する前に先手を繰り出す、それがトヨタの大きな役目となりそうです。

 そのひとつが、2019年から打ち出している愛車サブスクリプションサービスの「KINTO」です。KINTOはクルマの定額リースサービスの一種で、自動車保険や税金などをパッケージ化した月額料金で新車に乗れるシステムです。こうしたサービスで稼ぐ力が必要になりそうなのです。

 なぜなら、販売店には整備部門という大きな収益の柱があります。販売店がKINTOや企業向けリース、レンタカー部門などを抱える新しい時代のシェアリングサービス会社として軌道に乗れば、そこで一手に稼働率の高いクルマの保守点検サービスが請け負えるという算段が成り立ちます。

 つまり、新車販売がメインの商売から、新しいサービスに挑戦して、そこでも収益が上げられる販売会社が、4チャネル統合後の軸になると考えられているのです。

 2019年10月に、トヨタはシェアリングサービスの主役となりそうなサービスを発表しました。スマートフォンでクルマの予約・返却計画・決済まで可能なサービスです。

 ユーザーの利便性をさらに高める観点から、シェアリング事業については、車両販売店だけでなくレンタリース店にも適用拡大し、トヨタ系販売店とトヨタレンタカーで協働して、準備が整った拠点から事業を開始する予定です。

 新規事業に積極的に参入しようという会社からサービスが始められる事業であり、やる気のある会社の参入が求められています。

チャネル統合により消える可能性があるクルマは…

 トヨタの販売チャネルの統合は、メーカーにとって製造する「車種の整理・統合」というメリットもあります。

 2019年に長い歴史を閉じた「エスティマ」やマークXは、車種の整理の第一段階だったのではといわれていますが、その先の本命ともいえるのが、5ナンバーミニバン3兄弟です。

 現在、ネッツ店で販売する「ヴォクシー」、カローラ店の「ノア」、トヨタ店&トヨペット店で扱う「エスクァイア」が、2021年のフルモデルチェンジで統合され「ノア」に統一されるという噂です。つまり、ヴォクシー/エスクァイアの両車は、現行型で役目を終えるわけです。

 新型ノアは、TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャ)プラットフォームに基づいて設計され、大きくクオリティを上げてきそうです。

 ボディは5ナンバーの「ハコ」というコンセプトは不変で、ノーマル版のほかにヴォクシー/エスクァイアのユーザーに対応したカスタムバージョンが存在すると噂されます。

 また、トヨタ車のカスタマイズパーツの開発・販売をおこなうモデリスタなどが積極的なパーツ供給に乗り出してくることも間違いありません。GRブランドの投入も十分にありそうです。

 さらにノアだけの単一通称名となれば、日産「セレナ」が現在持っている「ミニバン販売台数No.1」の称号奪取も難しくないでしょう。

 同様に上級ミニバンであるトヨペット店の「アルファード」、ネッツ店の「ヴェルファイア」にも統合の動きがあります。

 また、販売系列統合で必要が無くなりそうなモデルも存在します。2019年のモデルチェンジで新型モデルとなったカローラ/カローラツーリングが全店販売となるなら、先代カローラをベースにしたトヨタ店「アリオン」やトヨペット店「プレミオ」の存在に黄色信号が灯ります。さらに「ポルテ」「スペイド」兄弟、「ルーミー」「タンク」の統合もありそうです。

 車種の統合について、前述とは別のトヨタ販売店スタッフは以下のように話します。

「特定の車種は消えてしまうというのは、噂の範囲ですがささやかれています。一度、自動車業界に詳しいお客さまで『どうせなくなるだろうから別の車種にする』という人もいらっしゃいました。我々も、統合の可能性がある車種については、どう売っていくか模索しているところです」

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 トヨタは、クルマの変革スピード、CASEやMaaSなどの登場で変化する自動車市場で、国内約5000店舗というネットワークの変革と活用を模索しながら、一層スピードアップを図ります。

 東京都内の統合に関しては、トヨタによると「併売効果が出て、売り上げは伸びている」といいます。今後は、新車販売以外のサービス領域でどれだけの成果が出せるかがポイントです。

 自動車会社にとって開発部門やサプライヤーは製造において重要な部門ですが、その川下である販売店とそこに連なる整備・修理部門は、先人が築いた大きな遺産です。

 トヨタの豊田章男社長は、日頃から「トヨタのクルマは、コモディティ化しない(させない)」と語っていますが、その真逆ともいえるトヨタの販売店統合において、成功のためにはその“遺産”を生かせるかどうかにかかっているといえます。