シェル、テキサコ、モービル、アジップ……など、カッコいいブランドロゴがすぐに思い浮かぶ石油会社。これらのブランドロゴを見かけるガソリンスタンドにこだわった博物館がイタリアに存在する。そのマニアな知られざる世界をご紹介しよう。

ギネスにも登録されている収蔵数を誇る、ガソリンスタンド博物館

 ミラノから車で1時間弱、50kmほど北西に向かったところにトラダーテという街がある。そこに、ギネスにも登録されているという「ガソリンスタンド博物館」が存在する。先日この博物館を訪れた。

 この博物館のオーナーは、グイド・フィゾーニ氏。まずは、グイド氏がどうしてこの博物館を作ってしまったのかという経緯からお話しよう。

 グイド・フィゾーニ氏は1941年生まれ。家具の製造業が密集する地「ブリアンツァ」で木材を取り扱う仕事が家業であった。1950年代末になると市場は「ブリアンツァ」地方の家具から徐々に、価格が低いベネト地方へと推移してしまった。

「この先、木材関連の仕事はどうなっていくのだろうか?」という危機感を持っていたグイド氏は、20歳を迎えようとした頃、家業を継がず、将来性がある「石油の世界」へ飛び込んだのである。

 1960年代から1970年代にかけてイタリアには、3万5000を超えるガソリンスタンドが存在していた。そこで彼が注目したのが、ガソリンスタンド関連の事業だった。20歳になったばかりのグイド氏は数名の社員を抱え、SIRM社を設立。

 ガソリンスタンドの建設、備品の提供、ガソリンポンプの修理、メンテナンスなどをおこない徐々に事業を拡大し、イタリアだけにとどまらず、フランス、スペイン、イギリス、アルバニア、チェコ……等々へと事業を広げていった。

 グイド氏がガソリンスタンド関連グッズを集めだしたのは、仕事を始めて間もない1961年。たまたま砂採掘場に放置されていたBERGOMI社製のガソリンポンプを発見してからだ。

 その見捨てられたボロボロのガソリンポンプを見て心が傷んだグイド氏は、「これからは用無しになって捨てられてしまったガソリンポンプを集め、丁寧にレストアをして新たな命を甦らそう」と思ったそうだ。

 思いついたらすぐ実行。グイド氏は、社内にレストア部門を創設し、レストアだけをおこなう職人を常時させた。

 自らもハンドルを握り、ガソリンスタンドの建て替えや店じまいなどにも立ち会う機会が多かったグイド氏は、ガソリンポンプをはじめ、広告看板やガソリン缶、石油会社のオフィシャルグッズなど、捨てられていたものを大切に持ち帰った。そしてすでにその頃から、ガソリンスタンドミュージアムをつくる決心を固めていたという。

 そして1966年、社屋の中に小さなミュージアムを開設した。会社を訪れたお客様へガソリンスタンドの歴史を知ってもらうため、もちろん会社の宣伝にもなる、と。

 2000年、会社を売却し、40年間に集めた膨大なコレクションは現在のミュージアムがあるトラダーテに移転。1700年代の古い屋敷を2年かけて改装したというミュージアムは、250年の歴史が建物に宿り、ガソリンスタンドコレクションたちも居心地よさそうだ。

 レストアのポリシーはオリジナルを尊重すること、とグイド氏は語る。当時のオリジナルの資料、写真を元に、できる限りオリジナルに近い形、色を残している。

 ミュージアムの案内役は、グイド氏自らがひとつひとつのアイテムを歴史背景と共に丁寧に説明してくれる。ガソリンスタンドの歴史は、自動車産業の歴史であり、人々の暮らしの歴史そのものだ。またこのミュージアムには、「ガソリン」をテーマにした大変貴重なデザインの変遷も見ることができる。

 展示してあるガソリンポンプは、1892年のスイス製Brevoから始まり1990年までの約190点が展示されている。その他すべてのアイテムを合わせると6000点以上にも及ぶ。自らの足で集めたコレクションばかりだ。

 特にグイド氏のお気に入りは、バッキンガム宮殿構内にあったガソリンスタンドのポンプだ。なんとポンプの先には、王冠が付いている。壊れた時のためにと王冠のスペアもある。こんな貴重なものまで集められる、世界を網羅している彼のガソリンスタンドネットワークには脱帽だ。

 また、ムッソリーニ政権時のガソリンポンプも面白い。当時は外国語の表記は禁じられていたので、ブリティッシュ・ペトロリアム(BP)はBenzina Puraとイタリア語表記になっている。こんなところにも隠れた物語が残っている。

 グイド氏は物静かな外見だけれども、ガソリンスタンドワールドの中に立つとがらりと変わり、メモなしで熱く熱く語ってくれる。

 それは、人生の大半をガソリンスタンドに関わって暮らしてきたグイド氏だからこその、愛情と経験に溢れたストーリー。

 アメリカではじまったモータリゼーションは、ヨーロッパにも波及して、ガソリンスタンドが必要不可欠なインフラになった。そして時代が進むにつれて、小さなスタンドは合併・吸収されて規模が大きなガソリンスタンドへと変わっていく。

 その間に、ガソリンポンプ、看板、オイル缶、スタンドのデザインなども、ものすごいスピードで変化していったのだが、その変遷が、「Museo Fisogni」で見ることができるのだ。特に、日本でもおなじみのビバンダムのかつての置物や看板などは、葉巻を吸う仕草をしていたりと、現在の愛らしさとはまったくキャラクター設定が異なっていて興味深い。

 ちなみに、2階はパーティ会場になっていて、ケータリングでかなり大きなパーティも開くことができるという。これまで、自動車やバイク関連の発表会やイベントに使われただけでなく、結婚式が行われたこともあるそうだ。

「最近の人は、少し変わった歴史ある空間に興味を持つようになった。皆ここに来ると楽しんでくれるよ。物の形、デザインには必ず”理由”がある。実際にここで時代を追って、展示物を見ていくと、その”何故”を知ることができる。そこが大切なんだ。このミュージアムを作るにあたってお金がかかっているから少しは回収しないとなぁ(笑)」と、笑ってグイド氏は語ってくれた。

 しかし、見学は無料である。

 世界で唯一のガソリンスタンドミュージアムは、グラフィックに興味ある方も必見だ。ただし、見学の際は、事前に連絡してから訪れることをオススメする。

MUSEO FISOGNI
ガソリンスタンド博物館
http://www.museo-fisogni.org/
住所:Via Giacomo Bianchi, 25b, 21049 Tradate VA, イタリア
TEL:+39 335 6777118