トヨタ傘下の日野が、欧州や中国の自動車メーカーと相次いで提携を結んでいて、業界に衝撃が走っています。じつはアメリカのテスラもトラック事業に乗り出しており、巷では「テスラ対抗か」とも噂される状況ですが、果たして真相はどうなっているのでしょうか。

テスラのお株を奪うのは日野? 相次ぐ提携の理由とは

 トヨタ傘下の日野自動車による、相次ぐ事業連携発表で、自動車業界に衝撃が走りました。提携先は、ドイツと中国の企業で、トヨタとの関係もさらに深めるといいます。

 そのような状況を受けて、業界の一部からは「ついに、テスラ対抗でトヨタが本気モードになったということでは」という声もあります。今後、トラック業界はどのような状況になっていくのでしょうか。

 まずは、テスラの現状をチェックしてみましょう。主力モデルは、1000万円級の「モデルS」「モデルX」。次いで、500万円級から700万円級の「モデル3」「モデルY」をラインアップ。

 さらに、トラック分野にも進出しています。全長約6mのピックアップトラックとして2019年11月に「サイバートラック」を発表。ロサンゼルスで開催された記者発表会のデモンストレーションで、割れないはずの防弾ガラスが割れてしまう“ハプニング”が世界的に大きな話題になりました。

 その他、テスラのトラックには、商用大型トラックの「セミ」があります。一般的に、トラック業界でのセミ(米語では、セマイと発音)とは、トレーラーの荷室や荷台をけん引する駆動車の部分、トレーラーヘッドを指します。

 テスラのセミは、航続距離480kmのベースモデルが15万ドル(約1620万円)と、ディーゼルエンジンが主流の他社モデルと比較しても、十分に価格競争力があります。

 こうしたテスラに対して、日野とトヨタはどのような動きを見せているのでしょうか。

 まず、2020年3月23日に発表したのが、トヨタとの燃料電池大型トラックの共同開発です。両社は2015年から燃料電池車「MIRAI」のシステムを使った燃料電池バスの実証試験を始め、量産車「SORA」は、2020年に開催予定だった2020東京オリンピック・パラリンピックに合わせて都内を中心に走り始めています。

 燃料電池トラックでは大型トラック「プロフィア」をベースに、航続距離600kmの量産モデルを目指すといいます。
 
 続く3月24日には、ドイツのTRATONと、商用車での電動プラットフォーム・電動部品の共同企画を発表しました。日本では聞きなれないTRATONとは、フォルクスワーゲングループ内で各種事業を融合させた企業で、2015年に設立されました。

 ブランドとしては、フォルクスワーゲンバス・トラックのほか、ドイツのMANと、スウェーデンのSCANIAを従える商業車界の超大手です。

 さらに提携話は続きます。

 4月23日、中国のBYDと商用EV開発で協業する戦略的パートナーシップ契約を結んだと発表したのです。じつは、トヨタとBYDは4月2日、EVの研究開発企業「BYDトヨタEVテクノロジー」を設立しています。

 BYDは1995年に、香港に近い深センで誕生。EVを主力製品として、中国政府が2000年代から展開したEV施策「十城千両」によって一気に有名企業へ成長しました。

 2010年から量産している大型EVバス「K9」は、日本を含めて世界約50か国で累計5万台を販売しています。日本のバス事業者は「日本製だと、中型バスの日野『ポンチョEV』が、標準モデルのポンチョの4倍近い8000万円もするのに対して、BYDのK9は大型でも割安感がある」といいます。

凄まじいスピードで進化する「モビリティ」の未来とは

 このように、ほんの数か月間で日野を取り巻く環境は一変しました。

 傍からみると、日野からみてTRATONとBYDはライバルに思えます。日野は2社との関係をどうやって調整していくのでしょうか。また、トヨタと同調する長期ビジョン「環境チャレンジ2050」を打ち出している日野ですが、なぜタイミングで、こうした大型連携に至ったのでしょうか。やはり、テスラ対抗なのでしょうか。

 日野もトヨタも、テスラはもとより、三菱ふそう、ダイムラー(トラック・バス)など想定ライバルを念頭に、一連の事業連携を決定したとは、筆者(桃田健史)には思えません。

 事業連携の背景にあるのは、トヨタの豊田章男社長が近年、常々いう「自動車からモビリティへの転換」だと思います。

 筆者は、モビリティという文脈で世界各国で定常的に取材していますが、モビリティとは「移動そのもの」だと考えています。 

 人、モノ、こと、それぞれが単独、または複合的に動くこと。このなかで、公共交通や物流の在り方が大きく変わるという議論が、世界各国で急激に進んでいます。

 また最近、EVや燃料電池車など次世代電動車についても、世界の国や民間企業での考え方が変わってきました。これまでの「規制ありき」から、「環境に対する企業姿勢」を明確にすることの重要性が一気に増してきた印象があります。

 日野による一連の事業連携は、こうした世界規模での社会変化の証明だと思います。

 日野は、バスやトラックなど、いわゆる“はたらく車”の会社です。そのため、一般ユーザーとしては、たとえ新型車が出たとしても自身で購入することは極めて少ないので、あまり関心を持たないでしょう。

 ですが、これからの日野の動きは、さまざまなモビリティを通じて今後、あなたの日常生活に大きな影響を及ぼすかもしれません。