2020年2月に発売されたトヨタ新型「ヤリス」は、走りの良さが特徴だといいます。さらに、ハイブリッド車ではなくガソリン車を積極的に選びたくなると筆者(清水和夫)はいいますが、いったいどんな走りを実現しているのでしょうか。

実はライバルではない? 「ヤリス」と「フィット」 2台の違い

「コロナのバカ野郎!」と恨んでしょうがないが、今年(2020年)は、自動車が面白くなるはずだった。長年の願いがかなって、トヨタとホンダが同時期に欧州でも通用するコンパクトカーを発表し、今年の春から市販されている。

 自動車メディア的には「トヨタ・ヤリス VS ホンダ・フィット」という企画で、従来の延長線の燃費競争ではなく、走りの楽しさや気持ちよさの勝負ができるはずだった。

 しかし、すでに自動車メディアはこの2台を「キャラクターが大きく異なっている」と評価している。だから、ユーザーは迷うことはないだろうと私(清水和夫)も感じている。すでに新型フィットにも試乗しているが、乗り心地が良いという点ではヤリス以上である。

 まさかホンダがしなやかな大人っぽいクルマを作るとは、意外なことだった。これに感動した。付け加えるならフィットは絶対にハイブリッドがオススメで、できればハイブリッドの4WDがベストチョイスだ。

 では、ヤリスはどうなのか。従来の名前は日本では「ヴィッツ」だったが、新型は欧州で使われていたヤリスの名前で国内市場でも販売される。すでにダイハツがトヨタの一部門となったことで、新興国向けの安価なコンパクトカーはダイハツが担当することになった。

 トヨタはTNGAというプラットフォームでBセグメントのコンパクトカーを開発したが、ダイハツはDNGAというプラットフォームだ。ダイハツがトヨタのポートフォリオに組み込まれたことで、トヨタのBセグメント車は、もっと基本性能を高める方向にシフトできるようになった。安いコンパクトカーではなく、ひと昔前のCセグメント車に匹敵する充実した機能をもたせている。

 しかもヤリスシリーズの頂点には、WRCで活躍するラリーカーを彷彿するスポーツハッチの「GRヤリス」が君臨し、その下には「ヤリススポーツ」、そして4ドアのヤリスとピラミッド構造ができている。

 しかし、ヤリスはグローバルカーなので、地域最適化の戦略も進められている。2019年のニューヨークショーで発表された北米ヤリスの中身は「マツダ2」をベースにしたトヨタ向けOEM車だ。メキシコにあるマツダの工場で生産され、北米市場で市販される。

 もともとサイオンというブランドを北米で展開していたが 人気がなく、ポストサイオンとしてマツダ2のOEM車にシフトした。つまり、北米のヤリスはボディもエンジンも内装もマツダ2なのである。

 他方、タイなどのASEANでは、中国とタイ向けの別のヤリスも存在する。ASEAN地域はインドネシアの「キジャン」という1970年代から続くトヨタのスピンオフブランドもあるし、インドで市販し、失敗した「エティオス」の後継をどうするのか、という課題もある。

 ASEANを挟んでインドから中国までの広大な地域で多くの人口を抱える地域は、それぞれニーズが異なるので、現地最適化のモデルを投入する必要があるだろう。

 トヨタは自前で開発するモデルと、ダイハツやスズキと連携するコンパクトカーに戦略を分けて開発するはずだ。日欧はトヨタのTNGA、北米はマツダのプラットフォーム、インドは今後、スズキと連携したモデルが開発されると予測できるし、インドネシアはダイハツのDNGA、タイと中国はまた別のプラットフォームになりそうだ。

新型「ヤリス」はホットハッチを思わせる走りの良さ

 トヨタのコンパクトカー向けのTNGAプラットフォームは新型ヤリスから始まった。その第2弾が「ヤリスクロス」としてサイバー空間で2020年4月23日にデビューした。コンパクトなクロスオーバーSUVで、紛れもなく写真をみただけで「売れる」と思わせる、素敵なデザインだ。

 エンジンは3気筒のダイナミックフォース(高速燃焼)がハイブリッドにも使われるので、パフォーマンスは文句ない。

 ヤリスのプロトタイプの試乗は、昨年(2019年)に袖ケ浦サーキットでおこなわれた。サーキットは路面もフラットなので、サスペンションの弱点がでにくいが、意外にもマイルドで乗りやすい。

 エンジンは2リッターの4気筒をチョップ した1.5リッターの3気筒が中心だが、私的には1.5リッターガソリンのCVTモデルを買って、全日本ラリーに数戦参加するつもりなので、ガソリン車に興味を持つ。

 その後、試乗車を借り出して、一般道路でもテストした。

 ハイブリッド車とガソリン車は、一般的にはハイブリッド車が上位でガソリン車がその下と位置づけられるが、それは価格と燃費の話である。実際に乗り比べると、新開発のCVTを装備するガソリンエンジンとの組み合わせは、イタリア車のようなホットハッチを思い出した。

 ハイブリッド車で気になるのは、エンジンがパワフルだが、3気筒なのでエンジンが始動したときの音や振動が気になる。フィットのエンジンはパワフルではないが、4気筒なのでモーター走行からエンジンが始動しても音や振動に違和感はない。

 私が、フィットではハイブリッド車を推し、ヤリスでは1.5リッター+CVTのガソリン車を推すのは、その理由があるからだ。

 ヤリスの採用された新開発のCVTは従来と異なり、有段ギアを持っている。発進時はギアで駆動し、スピードが40キロくらいになるとベルトCVTに切り替わる。サーキットでは気づかないが、市街地走行では有段ギアのCVTはなかなかのダッシュだった。

 TNGAの新規プラットフォームは重量が従来比マイナス50kgと軽いが、車体剛性は高そうだ。

 なお、ヤリスのベースモデルは1リッター3気筒(自然吸気)+ベルトCVT(ダイハツ製)がラインアップされる。

 試乗はガソリン車を中心におこなった。出だしは有段ギアのおかげで、鋭くダッシュ。40キロくらいからベルトCVTに切り替わるが、3気筒エンジンはパンチがあり、エコを忘れて運転が楽しくなってしまう。

 そのままカー用品店に行って、クルマをいじりたくなったのは私だけではないだろう。ブレーキパッドを変えて、ブレーキの利きを高めたり、タイヤもすこし贅沢なレスポンスがよいタイプに替えたい、などなど。インプレッションしながら改造計画も頭に浮かんだ。

 ハンドリングの楽しさではヤリスのガソリン車。これが私の一押しなのだった。