ホンダ初のEV「ホンダe」は、バッテリー容量や航続距離といったスペック競争には一線を引き、シティコミューターとしての使い勝手を徹底的に追求しています。普段使いでの実用性はキラリと光るクルマとなっているのでしょうか。

継ぎ足し充電で長距離移動も意外とラク!?

 ホンダが間もなく発売する予定のピュアEV「ホンダe」がメディア向けに先行公開されました。世界中の自動車メーカーが続々とEVをマーケットに投入しているなかで、ホンダは思い切って、「街なかベスト」をコンセプトに掲げ、シティコミューターとしての新たなEVとしてホンダeを作り上げてきました。

 開発責任者の一瀬智史氏は、次のように語ります。

「世界的に、ガソリン車の能力をそのままEVで実現しようという流れになりつつありますが、そうするとバッテリーサイズも大きくなり、コストも重量も大きくなりがちです。

 ホンダeは“小ささも磨けばきっと大きな魅力になる!”と、都市部に特化して捨てるものを捨てて開発しました。長距離型EVがタブレット端末なら、ホンダeはスマートフォンのような、普段使いしやすいEVを目指しています」

 実際、ホンダeが搭載するバッテリー容量は35.5kWhで、航続距離はWLTCモードで283kmと、昨今のライバルたちと比べるとやや控えめなスペックといえます。

 たとえば国産EVの先行者、日産「リーフ」が40kWhバッテリー仕様でWLTCモード322km、62kWhバッテリー仕様だとWLTCモード458kmというスペックです。

 欧州コンパクトEVだと2020年7月に国内発売されたばかりのプジョー「e-208」では50kWhのバッテリーを搭載し、航続距離はWLTCとは少し異なりますがWLTPモードで340kmと、コンパクトEVにおいても航続距離300km以上というのが昨今のトレンドになっています。

 ホンダeの第一の特徴は、そういった表面上の数値競争に参入するのではなく、軽量・コンパクトな使い勝手に特化して設計されていることです。

 ホンダe専用に開発されたプラットフォームは、駆動用モーターを車体後部に搭載し、フロントには省スペースな充電システムを配置。

 その結果、前後の重量配分が50:50と理想的なレイアウトとなり、リチウムイオンバッテリーを床下に積んでいるため重心も低く、クルマとしての物理的・基本的な走行性能が優れていることは想像にかたくありません。

 さらにリアモーター・リアドライブのRRレイアウトとなったことで、前輪の切れ角を大きくすることが可能となり、ホンダeの最小回転半径は4.3mという驚異的な数値です。

 小回り性能でいうなら、現在日本で販売中のクルマを見てみると、国産車ではスズキ「ワゴンR」やダイハツ「タント」が4.4mで、欧州車だと同じくRRレイアウトのルノー「トゥインゴ」が同じ4.3m。

 片側1車線の道路でもラクにUターン可能で、日本やヨーロッパの狭い住宅街でストレスなく乗り回せます。モーターはV型6気筒エンジン並みのトルク、315Nmを発揮してくれるので、キビキビした走りが期待できそうです。

 そしてホンダeの第二の特徴は、急速充電性能の高さにあります。電力の出し入れ性能に優れたパナソニック製のリチウムイオンバッテリーは容量こそ35.5kWhですが、急速充電器(CHAdeMO/50kW以上)で30分で約80%、202kmの航続距離を稼ぐことが可能。

 大きなバッテリーを積んだEVはフル充電での航続距離こそ長いものの、車体そのものの重さもあって、30分の急速充電で航続距離は100数十km程度、モデルによっては100km程度しか伸びないことが多く、ホンダeの「継ぎ足し充電」性能の高さは特筆に値します。

 現在、テスラやポルシェといった大容量バッテリーEVを展開する一部ブランドでは独自の高出力充電ネットワークを整備している最中ですが、日本国内でこれから普及していくのは、当面は出力50kWh程度のCHAdeMO規格で間違いありません。

 地元を出てちょっと遠くへ出張や旅行に行く際には、各国産ディーラーの用意している充電スポットや、高速道路のSA・PA、道の駅などで充電することになりますが、そこでの急速充電は1クール30分が基本となりつつあります。

 ほかに待っているEVがいなければ2クール充電してもいいのですが、今後EVの急増に対して、急速充電スポットの整備がすぐに追いつくとは思えない現状を考えると、30分の充電でどれだけ走れるのかは切実な問題です。

 ホンダeは家庭用の普通充電(3.2kW)でもフル充電まで約10時間ですので、普段は職場までの通勤や近隣エリアでの仕事なら航続距離283kmで十分です。

 ちょっと遠出したときでも、急速充電スポットで30分だけ時間をつぶせば約200km、さらに走ることができるというわけです。

 長距離の移動をする場合でも、高速道路のSA・PAで30分急速充電すればさらに2時間から3時間を走れる計算ですので、トイレ休憩のついでに充電といった感覚で、EVだからといって旅の計画を変える必要がないのもうれしいところです。

 さまざまなEVが各メーカーから登場しているなかで、「1クール30分の急速充電でどれだけ走れるのか」という点は実用上とても大事なことだといえます。

居心地の良いスモールオフィスとしても使えそう!?

 ホンダeの第三の特徴は、先進的なテクノロジーと使いやすさを両立させた室内空間です。「水平基調」は近年のクルマのインテリアのトレンドですが、ホンダeは完全に水平なウッド調パネルがインパネの左右に広がり、その向こうに5スクリーンが水平に配置されている、未来感あふれるデザインとなっています。

 量産車として標準装備される世界初のサイドカメラミラーシステムのモニターを左右に配置。ドライバーの眼前のメータースクリーンは、運転に集中するようシンプルなデザインになっています。そしてセンターと助手席側に、12.3インチのHonda CONNECTディスプレーが2画面並んでいます。

 この12.3インチスクリーンには、それぞれナビ画面や車両の状態、オーディオなどを表示することができ、HDMI端子で外部デバイスから動画を移すことも可能。ふたつの画面はワンタッチで入れ替えができ、そしてマルチタスクに対応しているのが強みです。

 ドライブ中に、ドライバー側のスクリーンには車両の状態を表示しておいて、助手席の人がナビを操作することも可能なほか、ドライバー側にナビを表示して助手席側ではオーディオや動画を楽しむ、といった使い方も可能です。

 さらに車内Wi-Fiも用意されているので、ドライバー以外の同乗者が走行中にインターネットの動画を楽しむこともできます。

 出先で30分の急速充電している間の暇つぶしもできるし、停車中に仕事のやりとりも可能というわけです。

 とくに「3密」を避けたライフスタイルが推奨されている昨今では、リビングルームのように落ち着いた雰囲気の車内空間をスモールオフィスとして活用できるのは嬉しいところです。

 なお車内Wi-Fiを使うには、Honda Total Careへの加入が必要ですが、最初の1年間はデータ通信料は無料で、以降の年間料金も、まだ発表前なので書けませんが、びっくりするほど安価な設定になりそうです。

 逆に、これだけデジタル満載で多機能だと、デジモノが苦手な人は躊躇してしまうかもしれません。

 実際、なんでもかんでもデジタルのタッチスクリーンで操作するのは最近のトレンドですが、どこに何の機能があるのか分かりにくいクルマも多かったりします。

 しかしホンダeではエアコン操作は独立した物理スイッチとなっていたり、インフォテインメント機能でよく使う「ホーム」ボタンは物理スイッチとしているなど、何でもデザイン優先にするのではなく、「使い勝手」をよく研究しているのもホンダeの特徴のひとつといえるでしょう。

 理想のシティコミューターとしてのEVの在り方を突きつめて、シンプルさと先進機能を上手に両立させたホンダe。

 職場まで数十km以内の人なら、デイリーカーしてはもちろん、たまの遠出でも十分快適に走れるので、ファーストカーとしての採用もアリではないでしょうか。企業などの営業車としてもポテンシャルを発揮してくれそうです。