SUVブームといわれて久しいものの、販売台数ランキングでは上位にSUVがひしめき合っている状況ではありません。しかし、国内外のメーカーは続々と新型SUVや既存車のフルモデルチェンジを相次いでおこなっています。なぜ、世界中のメーカーはSUVに注力するのでしょうか。

SUVが続々と投入され続ける背景とは

 毎月、公表される登録車の販売台数ランキング上位には、常にコンパクトカーやミニバンが位置しており、ブームといわれているSUVは意外にも多くありません。
 
 しかし、トヨタやマツダでは多くのSUVをラインナップするほか、ほかの国産メーカーも続々とSUVやSUV風モデルを市場に投入しています。なぜ、各メーカーはSUVに力を入れるのでしょうか。

 2020年において、トヨタは2020年6月17日に「ハリアー」、8月31日に「ヤリスクロス」を発売。日産からは、2020年6月30日に「キックス」が発売されています。

 また、2020年秋にマツダは「MX-30」のハイブリッド仕様を、2020年度中にはEV仕様のリース販売を開始する予定です。三菱はすでに販売している「エクリプスクロス」に大幅な改良を加えたうえで、PHEV仕様を新設定し、2020年度中に導入するとしています。

 さらに、2021年初頭には日産は次期型「エクストレイル」を登場させるとみられているほか、同年中頃には電気自動車の「アリア」が出てくるなど、まだまだSUVの勢いは衰えそうにありません。

 しかし、直近の2020年8月の登録車販売台数ランキングをみると、トップ20にランクインしているSUVはトヨタの「ライズ(2位)」「ハリアー(6位)」「RAV4(16位)」の3車種のみです。近年大幅に拡大したSUV市場の規模を考えると、決して多いとはいえない市場動向です。

 SUVだけでなく、以前から安定して人気があるミニバンやコンパクトカーも含めて販売に力を入れた方が良いように思えますが、一体なぜそんななかでも各自動車メーカーはSUVに注力し続けているのでしょうか。

 その理由は、大きくふたつあります。ひとつめは、SUVが現在主流になりつつあり、とくに以前選ばなかった人が購入する流れが加速していることです。

 SUVブームの到来前は、ミニバンが主流のカテゴリーとして定番化していました。ミニバンの特徴は大きな車体サイズから、広いラゲッジスペースや3列シートによる多人数乗車が可能な点にあります。

 多くの荷物を運びつつ、大人数での移動が可能なことから、家族での移動手段としてファミリー層に支持されてきました。

 しかし、現代の日本では5人以上の家族構成が減少傾向にあり、大人数で乗車する機会が減ってきています。そのため、「ミニバンでなければいけない」という場面が減っていると考えられます。

 そのため、3列シートを必要としない一般的な4人以下の家庭で、ミニバンほどではないもののセダンなどに比べると、高い居住性を持つSUVはファミリー層からも選ばれるようになったのです。

 そんなSUVの販売動向について、トヨタの販売店スタッフは以下のように話します。

「ほかのブランドも同じかと思いますが、トヨタ車の販売台数のうち、SUVは多くの割合を占めているカテゴリーです。

 若い世代からはデザインが好評なことを理由に支持されています。一方で、シニア世代からの需要も高く、定年後の旅行や趣味に利用する人が購入します。

 加えて、最低地上高が高いことにより、座面も高い位置に配置されることで、乗り降りしやすいこともシニア世代には嬉しいポイントです。

 また、近年は大家族が減っており、5人乗れれば十分というお客さまも少なくありません。

 SUVは趣味のクルマとしても、普段使いでも利用できる使用用途の多さが特長です。こうしたことから、現在主流のカテゴリーとなっているのではないでしょうか」

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 国内でのSUVは、幅広い年代のニーズにマッチしたクルマです。2020年8月の新車販売台数トップ50のうち、トヨタは合計8万6197台を販売。そのなかで、SUVは2万2483台を占めており、ミニバンの2万7795台と大差の無い数字となっています。

ふたつめの要因は「世界で共通することのコスト減」

 SUVに注力するのは国産メーカーに限った話ではありません。昨今では、高級ブランドとして知られるランボルギーニやロールスロイス、ベントレー、アストンマーティンなどが続々と高級SUVを投入しています。

 これは、2002年に登場したポルシェ「カイエン」から高級SUVジャンルが確立され、その後多くの海外ブランドから大小さまざまなSUVが登場したのです。

 高級SUVが流行った背景には、従来の高級車はセダンやクーペが主流で、余裕のある移動には適していないことがありましたが、高級SUVが出てきたことでステータス性を保ったまま居住性が高い移動が可能になったことが考えられます。

 また、昨今の日本でもフォルクスワーゲンは「T-クロス」「T-ロック」を相次いで導入。さらに、メルセデス・ベンツは「GLA」をフルモデルチェンジし、新たに「GLB」を発売しています。

 一方で、トヨタは日本で発売したヤリスクロスやハリアーを欧州や北米でも展開。2019年4月に約3年ぶりに日本市場に復活した「RAV4」は先代モデルが北米市場で販売されていたなど、いまやSUVはほかのボディタイプと比べてグローバル展開されることが多いのです。

 SUVと逆転現象が起きているのが、セダンやミニバンです。北米市場ではセダンの販売台数が落ち込んでおり、2018年4月にはフォードが同市場でのセダンの販売から撤退すると明らかにしています。 

 また、ミニバンにおいても北米市場ではかつてほどの需要は無く、そのポジションを3列シートSUVが奪う形でシェアを伸ばしています。

 SUVは、グローバルで展開しやすいボディタイプといえ、自動車メーカーとしても「選択と集中」が求められるなかで、注力しやすいジャンルなのです。

 昨今のSUV事情について、国産自動車メーカーの関係者は次のように話します。

「軽自動車は日本がメイン、コンパクトカーは日本や東南アジア、欧州がメイン、セダンは東南アジアなどの一部で需要があるといったようにボディタイプによって、地域差が存在します。

 しかし、SUVに関してはどの国や地域でもある程度の販売台数が見込めるため、グローバルで展開しやすく、メーカーとしても力を入れざるを得ない現状があります。
 
 また、最近ではボディサイズのバリエーションやさまざまな性能・技術が進歩しているため、かつての『背が高く大柄なSUV=運転しづらい』ということは無くなっています。

 さらに、日本の道路事情から東南アジアの悪路、北米や欧州の長距離移動など、さまざまな路面に対応できるため、必然的に世界的に需要が高くなっているのも、影響しています」

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 このように、日本では年々変化する家族事情による要因が考えられましたが、世界に目を向けると各自動車メーカーが抱える「選択と集中」とは異なる、共通することでのコストの削減が実現出来るのがSUVなのです。

 2020年9月現在、日本では軽自動車のスズキ「ジムニー」の148万5000円からロールスロイス「カリナン」の4008万円(コーンズでの価格)とその価格差は3800万円以上もあり、身近な存在でもありつつ、憧れの存在でもあります。

 SUVは世界で定番化した無くてはならない存在だといえます。