減少傾向のMT車ですが、多くの車種に設定し続けるマツダとスズキの想い。そして、近年MT車を増やしているトヨタの狙いとは、なんなのでしょうか。

MT車減少といわれるものの、いまでもMT車を多く設定するワケとは

 新車販売において減少傾向にあるMT車ですが、マツダとスズキでは現在でも比較的多くのMT車をラインナップしています。その背景にはどんな想いがあるのでしょうか。

 クルマのトランスミッションには、大きく分けてマニュアルトランスミッション(MT)とオートマチックトランスミッション(AT)があります。

 近年では無段階変速機であるCVTや、ダブルクラッチトランスミッション(DCT)なども増えており、機構的にはそれぞれ異なった特徴がありますが、ドライバー視点でいえば、AT限定免許で運転できるかできないかの2種類しかありません。

 ATのほうが後に開発されたということもあって、MTがクルマの基本だという意見も少なくありませんが、日本自動車販売協会連合会(自販連)の統計によると、日本の乗用車販売(軽自動車と輸入車を除く)におけるトランスミッションの構成比は、2016年の時点で98.4%がAT車となっているなど、AT車がMT車を圧倒しているというのが現状です。

 こうした現状もあり、新車でMT仕様が設定されているモデルは少なくなりました。例えば、スバルでは、2018年のフルモデルチェンジで「フォレスター」からMT仕様がなくなったことで、MT仕様を持つ現行モデルが「BRZ」のみとなりました。

 そのBRZも現行モデルの販売が終了しているため、「サンバー」などのOEM車を除くとスバルが自社開発したMT車を購入できない状態になっています。

 日産やホンダについても、一部スポーツモデルや商用車を除いて、MT仕様を選べるモデルはほとんどありません。

 トヨタでは「ヤリス」や「カローラシリーズ」、「C-HR」にMT仕様を設定していますが、それでもラインナップ全体から見るとごく一部のモデルに限定されているといえます。

 そんななか、マツダとスズキは、乗用車のほとんどにMT仕様を積極的に残しています。例えばマツダの場合、SUVの「CX-3」「CX-30」「CX-5」、セダンやハッチバックの「マツダ2」「マツダ3」「マツダ6」、スポーツカーの「ロードスター」などと、OEM提供を受けるモデルを除くほぼすべてのモデルでMT仕様を設定しています。

 スズキでも、「ジムニー/ジムニーシエラ」、「スイフト/スイフトスポーツ」、「アルト/アルトワークス」、「ワゴンR」など、主力モデルのほとんどでMT仕様を設定。

 MT車を積極的に採用する理由として、マツダもスズキも「お客様のニーズに合わせた」と説明します。

 マツダは「マツダでは『走る歓び』を大切にしています。走りが好きな人の多くに、MT車を好む方の割合が高いことから、そうしたニーズに対応するため、グローバルで展開するモデルには基本的に設定しています」と話します。

 実際に、マツダでは「Be a driver.」をタグライン(企業の想いやメッセージを表したもの)として、ブランドの訴求を図ってきました。

 ロードスターのようなスポーツカーはもちろん、それ以外のモデルでも「走る歓び」を表現する手段として、MT仕様を設定しているのでしょう。

 一方のスズキも、「スイフトスポーツ」のようなスポーツモデルではMTを選択するユーザーの割合が高いようです。

 マツダと異なる点は、スズキの場合、廉価モデルとしてMTを選択するユーザーが一定数いることでしょう。

 あるいは、高齢者などでMTしか運転する機会がなかったユーザーも顧客として抱えていることも、MT仕様を残している理由といえます。

 スズキでは「地方の生活の足」として機能することを最優先としていることから、操る喜びというよりも、「MTでなくてはならない」ユーザーへのニーズを満たすことを企業の責任と捉えているのだと思われます。

MTを残す理由は「操る歓びを感じてほしい」だけじゃない?

 カローラにMTが設定されたことについて、開発者は「『自分でクルマを操る』というところを感じていただきたいと考え、その思いを伝えたかったので、MT仕様を残した」と話しています。

 このように、MT車の最大のメリットとして、「操る歓び」が強調されることが少なくありません。

 さらには、このAT全盛の時代において、あえてMT車を設定することは、スポーツカー文化を継承することであるとして、美談としてとらえられることもあります。

 もちろん、カローラの開発者がいうような面もあることでしょう。しかし、そういったごく少数のマニアのためだけにMT仕様を設定しているのでしょうか。

 とくに、最近では販売するラインナップの「選択と集中」が進んでおり、合理的にラインナップを整理する傾向が高まっています。

 そのため、一部のマニアに向けてMT車を設定している余裕はないようにも思えます。MT車を設定するビジネス上のメリットはほかにもあるのでしょうか。

 自動車業界の関係者は次のように話します。

「実は日本は世界的に見てAT比率が高い国といえます。そのため、日本国内にだけ向けてMT車を設定していてはとてもビジネスになりません。

 一方、マツダが主戦場としている欧州では、いまだに新車販売の半数以上がMT車といわれています。

 そのため、欧州でクルマを販売するためにはMT車を設定する必要がありますが、製造業の大原則として、生産量が多ければ多いほど1台あたりのコストを下げられることから、日本向けのMTと合わせて生産しているといえます。

 日本専売モデルとしてスタートしたCX-8にはMTが設定されていないことから見ても、マツダのMT仕様が欧州をメインとしていることは明らかです。

 スズキについても、モデルにもよりますが、海外でも展開しているモデルは、マツダと同様の事情と思われます。

 ハスラーなどの国内向けモデルにMT仕様がある理由は、数少ない需要を総取りするためでしょう。

 反対に、北米はAT優勢の市場となっているため、スバルのように北米と日本を主戦場としているメーカーでは、一部の『インプレッサ』や『クロストレック(日本名XV)』などにMTを採用しているものの、ATが優先されています。。

 また、とくに日本では『アイサイト』の需要が高く、現時点ではアイサイトとMTが共存できないことから、MT仕様が撤廃されたといわれています」

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 マツダやスズキがMT車を設定し続ける背景には、海外、特に欧州市場での販売比率の高さが影響しているようです。

 しかし、今後自動車の電動化が進めば進むほど欧州でもMTは減少していくことが予想されます。

 スーパーカーや欧州のスポーツカーでは、2ペダルを採用するモデルも続々と登場しているほか、スポーツカー自体の電動化も進んでいます。

 そうしたときに、各メーカーがどのようにして「操る歓び」をアピールしてくるのか、注目です。