スライドドアを備えたミニバンは、乗降性が良く、ファミリー層に人気です。スライドドアをより一層便利に使う機能として、センターピラーをスライドドアに内蔵して、ドアの開口部を大きく広げたモデルが存在します。しかし採用する車種が少ないのですが、それは一体なぜなのでしょうか。

大開口で乗り降りするのに便利! センターピラーがないクルマとは?

 ファミリー層をターゲットとしたミニバンや軽自動車などでは、後席のドアにスライドドアを備えているモデルが人気を得ています。

 先日、筆者(渡辺陽一郎)が自動車メーカーの商品企画担当者と話をしたときにも、「最近はスライドドアを備えていないクルマは売りにくい」という話題が出ました。

 スライドドアとは、いわゆる引き戸式に開閉するドアで、ミニバンや背の高いコンパクトカー、軽自動車などの後席に多く採用されています。

 いまではミニバンジャンルの先駆者ともいえるトヨタ初代「エスティマ」やホンダ初代「オデッセイ」などが登場してから約25年を経過したので、子育てをしているときにスライドドアのクルマに乗っていた経験のあるユーザーが増えました。

 スライドドアは開閉時にドアパネルが外側へ大きく張り出さないので、隣に駐車する車両との間隔が狭い場所でも使いやすいです。

 ヒンジ式ドアと違って電動タイプも普及しており、スイッチ操作でも開閉できます。子供を抱えて荷物を持っているときなど、乗降性が大幅に向上するわけです。

 この便利なスライドドアを一度味わってしまうと、なかなか手放せません。

 とくにいまの30歳以下の年齢層には、幼いときからスライドドアに親しんで育ったユーザーも多く、クルマの基本的な機能になっています。そのために「最近はスライドドアを装着していないクルマは売りにくい」といわれるのです。

 スライドドアの機能をさらに向上させたのが、センターピラー(天井を支えるボディ中央の柱)をスライドドアに内蔵させたタイプでしょう。

 一般的には、前後のドアを開いてもセンターピラーが残りますが、内蔵型ならスッキリします。ダイハツ「タント」では「ミラクルオープンドア」と呼んでおり、前後のドアを両方ともに開くと開口幅は1490mmに達します。

 2020年10月8日に発売されたマツダ「MX-30」は、スライドドアではありませんが、観音開きの「フリースタイルドア」を採用。

 リア側のドアにセンターピラーを内蔵し、前後のドアを両方ともに開くと開口幅がワイドに広がって乗降性を向上させます。

 ただしMX-30の場合、前席のドアを閉じた状態では、後席のドアを開閉できません。後席の乗員が乗り降りするときは、必ず前席のドアを開いておくことが必要です。これは不便で、事故などで衝突したときの脱出性も妨げてしまいます。

 その一方、センターピラーをスライドドアに内蔵する軽自動車なら前後席のドアを独立して開閉できて便利です。スライドドアの利便性もさらに向上していますが、装着車は増えません。それは一体なぜなのでしょうか。

 現在、センターピラーを内蔵したスライドドアを採用するのは、タントとホンダの軽商用車「N-VAN」程度です。以前はミニバンのトヨタ「アイシス」なども採用していましたが、生産を終えました。

 センターピラー内蔵型のスライドドアが少ない背景には、複数の理由があります。

 ダイハツの開発者に尋ねると、次のように返答されました。

「センターピラー内蔵型のスライドドアは、のボディ形状は開発に手間が掛かります。左右でボディ形状が異なるため、2台のクルマを開発するのと同等の作業が必要です。最初にこの方式を採用した2代目タントを開発したときは大変でした」

 ダイハツは2007年に登場した2代目タントで、初めてセンターピラー内蔵型のスライドドアを採用しました。

 現行型にも当てはまることですが、ボディ剛性を確保するため、両側をセンターピラー内蔵型にすることはできません。

 助手席側は内蔵型でも、運転席側はピラーを備えた一般的な形状になります。そうなるとボディの造りが左右で異なるため、開発にも2台分の手間を要するのです。コストも高まり、採用車種も少なくなります。

 ボディの補強も大掛かりです。タントのような軽自動車は、全高が1700mmを上まわり、開口幅も1490mmと広いです。大きな開口部は、乗降性を向上させる半面、ボディ剛性の確保では困難な課題になります。前述のコストに加えて、重量も増加します。

 タントの車両重量を見ると、2WDは900kg前後でホンダ「N-BOX」よりも少し重いですが、10kg程度の増加に留めています。つまりタントでは、軽量化にも力を入れて、センターピラー内蔵型の不利を抑えているのです。

ダイハツとホンダ、マツダ以外のメーカーが取り入れない理由は?

 ほかのメーカーがセンターピラー内蔵型を採用しない決定的な理由としては「メリットをあまり感じていないこと」も挙げられます。

 たとえばN-BOXはスライドドアの開口幅が640mmですが、電動開閉機能があれば十分だと感じているユーザーも多いでしょう。手間とコストを要する内蔵型を採用するには、明確な理由が求められるというわけです。

 軽商用車のN-VANには、採用する理由があります。N-VANは開発コストを抑えるために、N-BOXをベースに開発されたので、2名乗車時の荷室長は1510mmです。

 エンジンを前席の下に搭載して、車内を広げたスズキ「エブリイ」の2名乗車時の室内長が1910mmであるのに比べると、荷室長は大幅に短いです。

 この不利を挽回するため、N-VANは後席に加えて助手席も、床面へ落とし込むように畳める構造としました。乗員がドライバーのみのときは、運転席の周囲をすべて平らな荷室として使えます。

 そこで、左側にセンターピラー内蔵型のスライドドアを採用したことにより、助手席側のドアを前後ともに開くと、開口幅がタントを上まわる1580mmに拡大され、ボディの側面からも荷物を出し入れできます。

 たとえばたくさんの段ボール箱を積み降ろしするときなど、ワイドに開く側面とリアゲートを使えば、複数のスタッフによって作業を一気に進められます。

 センターピラー内蔵型のスライドドアは、軽商用バンのN-VANだからこそ、切実に必要とされる機能です。

 タントは以前から、子育て世代向けの軽自動車として開発されてきました。助手席を予め前側に寄せておけば、ワイドな開口部からベビーカーと一緒に車内へ入れ、雨天時などに便利です。

 さらに現行タントでは、運転席に540mmの長いスライド機能も採用しました。運転席を後ろへ寄せて、助手席は前側にスライドさせておくと、運転席と後席を降車しないで移動できます。

 ミラクルオープンドアからドライバーがベビーカーと一緒に乗り込み、子供をチャイルドシートに座らせた後、運転席へ移動するという使い勝手を一層便利にしました。

 逆にいえば、このような機能を組み合わせないと、センターピラー内蔵型のスライドドアはメリットを発揮できません。

 車両のコンセプトやターゲットユーザーを考えて、本当に必要な場合だけ装着します。そうなると採用する車種も限られるというわけです。