駐車したあとにクルマが勝手に動き出す「自然発車」による事故は、被害が大きくなる傾向があります。とくにドライバーが巻き込まれるケースが非常に高いことが特徴なのですが、それはなぜなのでしょうか。

「自然発車」の9割以上は操作ミスなどの人的要因で起こる

 クルマを停車や駐車させるとき、AT車なら「P(パーキング)」に、MT車なら「N(ニュートラル)」にしてから、パーキングブレーキ(サイドブレーキ)などをかけるのが一般的です。

 しかし、駐車したあとにクルマが勝手に動き出す「自然発車」によって、事故が起きることがあるといいます。それは一体どういうことなのでしょうか。

 愛知県津島市で2020年9月18日、会社員の女性が自宅の駐車場にワンボックスカーを停めて荷物を降ろしていたところ、クルマが急にバックで動き出し、止めようとした女性が塀に挟まれて、意識不明の重体となる事故が発生しました。

 全国の交通事故を調査・分析している交通事故総合分析センターによると、自然発車による事故では重大事故に発展する確率が非常に高いというデータが発表されています(出展元:交通事故総合分析センター イタルダインフォメーション No.134)。

 自然発車とは、警察が人身事故を取り扱うときに作成する「交通事故統計原票」(交通事故のデータ収集を目的とした調査票)で定義されている言葉のひとつで、「ドライバーの運転以外の原因でクルマが動き出したことによる交通事故」のことを指しています。

 交通事故総合分析センターの統計によると、2009年から2018年の10年間でこの自然発車による交通事故が2352件発生。絶対数こそ少ないものの、重傷事故が387件、軽傷事故が1803件、そして死亡事故は162件も発生しています。

 とくに2014年から2018年の5年間での死亡事故はその前の5年間より2.5倍も増加しており、交通事故全体の死亡事故率が0.8%なのに対し、自然発車による死亡事故率は約11%と格段に高いことがわかっています。

 交通事故の全体数も死亡事故数も減少傾向にも関わらず、この自然発車の死亡事故率が高いのは気になります。

 重大事故に発展しやすい自然発車は、どんな状況で起きるのでしょうか。

 まず自然発車による事故の特徴として、重傷者の約62%、死亡事故に至っては82%がドライバーと、クルマを運転して駐車した本人が重傷を負ったり死亡したりすることが、巻き込まれる歩行者より圧倒的に多いことが挙げられます。

 このデータに関して交通事故総合分析センターの想定では、ドライバーがクルマを降り、何らかの理由により動き出したクルマに気づき、止めようと努力したものの轢かれてしまう、またはそのまま電柱や壁などに挟まれてしまう可能性が高いとのことです。

 次にクルマのタイプを見てみると、自然発車するクルマは貨物車が多そうなイメージもありますが、実際は乗用タイプの普通車による死亡事故が36件ともっとも多く、軽自動車も19件あります(貨物車両では中型車が30件、軽貨物が29件)。

 重量の重い中型貨物車はもちろんですが、車両重量が重すぎるわけでもない乗用の普通車や軽自動車でも多いことが分かります。

 つまり自然発車は、一般のドライバーにも起こりうる交通事故の1種であるといえそうです。

 さらに交通事故総合分析センターの調査によると、自然発車による交通事故の原因は、車両整備不良などの車両的要因は1%、環境的要因があったのは4%にとどまり、約92%が不適切なブレーキ操作などといった操作上のミスによる人的なものだったことがわかっています。

 自然発車の事故を起こしやすい人についても、ある傾向が見られるといいます。

 自然発車は、免許取得10年以上のドライバーが約83%の割合を占めており、死亡事故や重傷事故になると90%前後になっています。

 交通事故全体では運転歴の浅い20代のドライバーが多いのに対し、自然発車の事故では熟練の60歳代ドライバーが約23%と、もっとも高い割合になっているのです。

 免許取得してすぐの初心者より運転に慣れたベテランドライバーだからこそ、気がつかないうちにブレーキ操作を誤り、動き出したクルマに慌てて対処しようとして事故になってしまうケースが多いようです。

 普段、日常的に運転しているからこその慣れによる不注意や誤操作が大きな事故に発展してしまうということなのでしょう。

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 自然発車の事故が発生した場所では、勾配がついている坂道で発生することが多く、3%の勾配でも重大事故につながるケースもあるとされています。

 ベテランドライバーでも、毎日利用している駐車場でサイドブレーキの引き忘れたことで自然発車事故も報告されています。この事故を調査した交通事故総合分析センターによると、0.9%の上り勾配がついていたそうです。

 この事故例から、普段使い慣れた駐車場でも必ずしも平坦ではない可能性もあり、サイドブレーキなどパーキング用ブレーキの重要性を改めて意識する必要がありそうです。

「P」レンジとパーキングブレーキの併用を忘れずに

 自然発車による事故を防ぐために我々ができることはなんでしょうか。交通事故総合分析センターは次のような防止策を提案しています。

●タイヤに動力を伝えるドライブシャフトをロック

 AT車なら「P(パーキング)」レンジに、MT車の場合はエンジン停止後、上り勾配ならギアを1速に、下り勾配ならギアをリバースに入れるというものです。

 また、アルファロメオなどに搭載される「セレスピード」のようなセミATでは、通常のPレンジが存在しないため、エンジン停止後にギアを入れておいたほうが安全です。

●パーキングブレーキの活用(&タイヤ止めの併用)

 パーキングブレーキには手動タイプと電動タイプがありますが、とくに手動タイプは人力でブレーキを引く必要があり、ゆるく引きがちにならないように注意が必要です。

 またフットブレーキと比較して効きが弱いということも覚えておきたいポイントだといえます。

 ただし寒冷地では、ブレーキ凍結防止のためパーキングブレーキを使用しないほうがいい場合もあります。その場合はできるだけ平坦な場所で駐車し、タイヤ止めなどを併用しましょう。

 対策を講じても自然発車が発生してしまった場合は、クルマの進行方向に出て無理に止めようとせずに、事故に巻き込まれないように注意することを優先して欲しいそうです。

 発生してしまった場合は、クルマが動き出してしまったことを周りに知らせ、2次事故を最小限にさせる行動を取るようにしましょう。

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 最近の新型車は電動パーキングブレーキが増えていますが、手動式のサイドブレーキ採用車もまだまだあります。

「カチカチ」と引き上げる力が弱いと動き出してしまう可能性もあることを覚えておきましょう。

 また、手動のサイドブレーキはワイヤー式が一般的で、このワイヤーが伸びてしまったり、「カチカチ」と鳴るプレートのギザギザ部分がサビによる腐食で減ってしまうこともあります。

 最近サイドブレーキの効きが悪いと感じたら、すぐにディーラーや販売店、整備工場などで点検してもらってください。