全国の市区町村別での交通死亡事故件数において、2019年では岡山市がワースト1位でした。交通量でいえば東京の中心や大阪のほうが多いのですが、なぜ岡山市で事故が多いのでしょうか。地域特有の「ローカルルール」が原因となっている可能性が高いようです。

「ローカルルール」がある地域は死亡事故も多い!?

 全国の交通事故を調査・分析している専門機関「交通事故総合分析センター」が2020年7月、令和元年(2019年)の全国市区町村別での交通死亡事故件数が発表されました。

 2019年の交通事故件数は全体で38万1237件、そのうち死者数は3215人、負傷者数は46万1775人でした(出展元:交通事故総合分析センター イタルダインフォメーション No.135)。

 また、この調査結果では、東京や大阪、名古屋、福岡といった交通量が多い大都市圏で事故が集中して起きている様子はなく、ある特定の地域での死亡事故などが多いことが分かりました。

 発表された統計のなかで注目なのは、「東京都区部・政令指定都市別死者数」です。

 東京都区部や横浜市、大阪市、名古屋市における、人口1万人に対しての死亡者数は「0.10人から0.14人」に対し、政令指定都市の死者数でワースト1位になった岡山市では「0.37人」と3倍以上を記録しています。

 東京都区部の約948万7000人に対して、岡山市は70万9000人と、単純に考えても交通量も全然違うはずなのに、岡山市で人口1万人当たりの死者数多いのはなぜなのでしょうか。

 そこで思いつくのは、地域ごとにあるといわれるローカルルールの存在です。道路交通法とはまったく違う、地元ならではの走り方や暗黙の了解が横行しており、これが重大事故を引き起こしている原因のひとつだと考えられます。

 人口1万人に対する死者数を政令指定都市別に見ていくと、前述のようにワースト1位の岡山市は0.37、熊本市は0.30人、静岡市は0.24人と、ワースト3は意外な結果でした。

 また、JAFの調査による「住んでいる交通マナーが悪いと思う」ランキングでは、地元の人が自分の件の交通マナーが悪いと感じているワースト1位は香川県(80%)、次いで2位が徳島県(73.5%)、3位が茨城県(67.2%)と、これまた意外な結果となっています。

 この結果を踏まえると、交通死亡事故の比率が高い地域や運転マナーが悪いと認識している地域の多くには、その地域ならではのローカルルールが存在しているのです。

 今回、ワースト1位になった岡山市などには「岡山ルール」というご当地ルールが存在します。

「岡山ルール」とは、「右左折の意思表示を示すウインカーを直前にしか出さない」というものです。

 ウインカーを出すタイミングが遅いということは、岡山市民も認識しているようで(2016年のJAFアンケートでは91%もの岡山市民が認識)、全国ではあまり見かけない、方向指示器を出すための道路標識として「★(ウインカー)合図」が車道に描かれて注意喚起しています。

 岡山在住者は次のようにいいます。

「岡山が神戸や大阪と比較して都会でないことはみんな認識しているんです。その分、舐められたくない、初心者や運転が下手と思われたくない気持ちが強く、ウインカーを長く点灯させたくないのかもしれません。たいていのドライバーは、ウインカーはギリギリ1回点灯させるくらいで右左折しています」

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 なお、ご当地ルールのなかでもっとも有名なのは、愛知県名古屋市発祥の「名古屋走り」です。

 これは、渋滞などで詰まっていると、後続車が突然脇から追い抜いて先頭に割り込んだり、信号無視をする行為です。最近では減少傾向のようですが、一部は健在していると思われます。

 名古屋には道幅の広い国道が多く、また交通量も多く、さらにはクルマを利用する機会の多い土地柄が大きく影響しているようです。しかし名古屋市在住者の認識は違うようです。

「名古屋の人はみんなマナーが悪いようにいわれるけど、実際はごく少数です。ただほかの県と比べて圧倒的にクルマ好きな人も多く交通量も多い。流れが速いだけです」

 愛知県はカスタムカーや旧車、アメ車ファンが多い土地柄ともいわれており、クルマ好きが高じて、ついヤンチャな運転をする人が多いのかもしれません。

ほかにもある! 全国の危険なローカルルール

「岡山ルール」や「名古屋走り」以外にも、全国には危険なローカルルールが存在しています。そのなかからいくつか紹介します。

●茨城ダッシュ

 交差点で右折車が、信号が変わった途端に直進車より先に右折する特別ルールです。

 ちなみに直進車の通過を待っていると後続する右折車からクラクションを鳴らされることもあるようです。

●香川ルール

 前出のJAFの調査のように、全国でもっとも運転マナーが悪いと自覚している香川県では、ウインカーを出さずに車線変更や進路変更は当たり前。

 信号のない交差点で歩行者がいても一時停止しない、信号が青になる前に見切り発車と、かなりワイルドです。

●阿波の黄走り(徳島県)

 これは黄色信号を「進め」と誇大解釈したローカルルールで、黄色信号では停車せず、むしろ加速して通過しようとする傾向を指しています。

 その理由も「停車すると後続車に迷惑がかかるから」という配慮だとされていますが、危険な行為だといえます。

●赤信号3秒ルール(福岡県)

 JAFのアンケート結果によると、本来は違反である「運転中に携帯電話の操作をしてしまう」運転者が多いといわれるのが福岡県です。

 運転中に携帯電話の画面を見ながらのため、信号が変わっても平気で交差点に突っ込んでくるクルマが多いともいわれています。

「走行車線の信号が赤になり交差する信号が青に変わるタイムラグ(約3秒)以内ならセーフ」という交通事故を誘発しかねないルールです。

●栃木ルール

 まだメジャーではないものの、栃木県にもローカルルールが存在します。

 栃木ルールとは「信号が変わる直前に突然右折」や「ウインカーなしで車線変更」という行為で、右折レーンでは誰も事前にウインカーを作動させないのだそうです。

 ちなみに近隣の茨城や群馬でも同じ傾向の運転が見られるようです。

●松本走り(長野県)

 長野県の松本市で頻繁に見られるローカルルールで、直進より先に右折、スキあらば右折、赤信号でも右折、ウインカーを出さず右折といった右折特化型です。

 もともと城下町だった松本市は細い道の交差点が多く、右折車での渋滞が多かったため、右折を先にする意識が強くなったとされています。

 類似のローカルルールとして、お隣の「山梨ルール」や、愛媛県でも「伊予の早曲がり」と呼ばれる右折優先ルールがあります。

●播磨道交法(兵庫県)

 実際の道路交通法ではなく、姫路ナンバーなどのマナーの悪さから皮肉られたものです。

「先に入った(クルマのフロントを突っ込んだ)クルマが優先」「対向車が左折なら右折は一緒に」「自転車や歩行者はクルマが来なければ赤信号も青扱い」「右左折時、通れるスペースあれば歩行者がいてもすり抜け可能」など。

 さらには、「歩行者はクルマが途切れるまで待て」「狭くてもスペースあれば割り込み可能」「ウインカーは曲がると同時」「前に人がいればクラクションで空けさせる」といった、ワイルドの極みのようなローカルルールです。

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 ほかにも知られていないその地域特有のローカルルールはありそうですが、そのほとんどが道路交通法違反です。

 地元の人でないとわからないルールも多く存在するため、旅行などで出掛けた際は十分注意しましょう。