日産「セレナ」のカスタムモデルとして2020年8月に追加された「セレナ e-POWER AUTECH スポーツスペック」。スポーティさを重視した同モデルは、スゴイ走行性能の持ち主でした。

セレナ AUTECHの人気グレード「スポーツスペック」にe-POWER追加!

 日産グループ内の特装車開発の機能と人材を集結し、1986年に生まれたのが「オーテックジャパン」です。

 設立当初はトラック架装がメインでしたが、そのノウハウを活用して量産車をベースにしたカスタムカーの開発もおこなっています。

 他メーカーのそれと異なるのは、「より多くの人に“特別”なスペックを」という思想で、ノーマル車と同じく日産ディーラーで普通に購入できるうえに、すべての保証内容がノーマルに準ずるという点でしょう。

 オーテックが「ファクトリーカスタム」と呼ばれる理由はここにあるのです。

 これまで「ライダー」や「ボレロ」、「モードプレミア」といったサブブランドが各モデルに展開されてきましたが、2017年4月に発表された日産自動車の「NISMOロードカー」事業の拡大に合わせてブランドを再編。

 サブブランドを集約して「AUTECH(オーテック)」に統一されました。その立ち位置はモータースポーツ直系の「NISMO」に対し、「カロッツェリア」を彷彿とさせるプレミアムスポーツです。

 その第一弾が、2018年に登場した「セレナ AUTECH」です。専用の内外装に加えて、「ミニバン=走りはガマン」というユーザーの悩みを解消させる走りのアップデートが施された「スポーツスペック」もラインナップされていますが、このスポーツスペックはセレナ AUTECH全体の約4割強を占める人気グレードとなっています。

 その後、ベースとなるセレナはe-POWERを追加。もちろん、セレナ AUTECHにもe-POWERが追加されましたが、スポーツスペックは用意されませんでした。

 当時、オーテック関係者に話を聞くと、「ガソリン車とe-POWER車は見た目は似ていますが、中身は別物です。つまり、走りに関しても一からやり直す必要あります。e-POWERのスポーツスペックは市場からの声が多ければ…」とのことでした。

 あれから2年、セレナ e-POWER AUTECHに待望のスポーツスペックが追加されました。それはつまり、市場からの声が多かったことを意味しています。

 セレナ e-POWER AUTECH スポーツスペックで注目なのは、専用フットワークチューニングです。

 ガソリン車のセレナ AUTECH スポーツスペックは、兄弟モデルである「セレナ NISMO(生産終了)」とタイヤ以外の部分は共通スペックでしたが、セレナ e-POWER AUTECH スポーツスペックは、このモデルだけの特別なスペックが与えられています。

 まず、開口部が大きく剛性的に不利なボディに専用の補強を実施。具体的には床下にブレースやメンバーが追加されています。

 これはガソリンモデルのスポーツスペックでもおこなわれていますが、e-POWER車の剛性や床下レイアウトに合わせた専用チューニングが施されました。

 体幹を鍛えたボディに組み合わされるサスペンションも専用チューニングされています。

 具体的にはスプリングはバネレートアップ(フロント約25%/リア約30%)、ショックアブソーバーは減衰力アップ(約30%から50%)に加えて、板厚/外径がアップしたストラットを採用。もちろん電動パワーステアリングの制御も変更されました。

 タイヤはe-POWER初採用の17インチで、いくつかの銘柄をテストしてなかでベストマッチのミシュラン パイロットスポーツ4をセレクト。

 さらに、ガソリン車に対して重量が増加したe-POWERに合わせて、ストラットスタビライザーブラケット強度アップやトランスバースリンクの補強も実施。細部まで抜かりのない点はファクトリーカスタムならではの配慮です。

 パワートレインは専用チューニングコンピューター(VCM)の採用により、ノーマル/Sモードの特性が変更されています(ECOはノーマルと同じ)。

 スペック上の変更はありませんが、実用域の力強さや高応答、レスポンス向上など、電動化のメリットをさらに活かしたセットアップになっています。

「これがセレナなのか?」 ミニバンらしからぬ走行性能とは

 エクステリアは、AUTECHの顔となるドット柄のフロントグリルを中心に、メタル調フィニッシュがプラスされた専用エアロパーツなどはガソリン車と同じです。

 その一方で、17インチアルミホイールはダークスパッタ処理がおこなわれるe-POWERスポーツスペック専用品。細かい違いですが、外観がより引き締まって見えるでしょう。

 ただ、ひとつ気になったのは、ガソリン車よりもタイヤとフェンダーのクリアランスが広いことです。もう少し狭いともっとカッコいいと思います。

 インテリアについてはガソリン車との変更はありませんが、今回試乗した車両はこだわりのインテリアを実現する「プレミアムパーソナライゼーションプログラム」から選択可能なタンレザー仕様のコーディネイト。

 このプログラム、お値段的にはなかなかのプライス(約65万円)ですが、バックオーダーを抱えるほどの人気だそうです。

 セレナ e-POWER AUTECH スポーツスペックの走りはどうでしょうか。

 ノーマルのセレナは日常域の扱いやすさや乗り心地を重視しているのはわかりますが、ボディやサスペンション、そしてステアリングなど、走る/曲がる/止まるという部分に頼りなさを感じるのと、“無味無臭”な乗り味など気になることばかりでした。

 しかし、このセレナ e-POWER AUTECH スポーツスペックは、「これがセレナなのか?」と思うくらいの変貌っぷりです。

 具体的には、高速道路ではプロパイロットの制御を変更したかと思うくらいの直進安定性の高さ、ワインディングでは機敏ではないが操作に対して素直な応答性とクルマの動きに攻めたくなるくらいの安心感を持ったハンドリングが味わえます。

 街中ではノーマルよりわずかに硬めながらスッキリした足の動きと無駄な動きが抑えることでむしろノーマルよりも快適に感じる乗り心地の良さなど、バランスよくレベルアップされているのです。

 そういう意味では、スポーツスペックというよりも、「ツーリングスペック」もしくは「ハイパフォーマンススペック」のほうがふさわしいかもしれません。

 この辺りはノーマルの良し悪しをもっともよく知り、最小限の変更で最大限の効果を生むオーテックの「匠の技」が光っているといえます。

 パワートレインは、ノーマルモードのゼロ発進時のスッと前に出る感覚や高速道路などでの追い越し時の余裕などは、たとえるならば眠いパワートレインがシャキッと目覚めた感じです。

 それもスロットル早開きのような演出的なものではなく車速の伸びや加速Gが長く続くので、一般道はもちろん高速道路でも余裕が増すのが嬉しいところ。

 一方、Sモードはワインディングではワンペダルドライブでリズミカルに走れて楽しいのですが、AUTECHのキャラクターを考えると少々機敏すぎるかなとも感じました。ここはちょっとNISMOが顔を出てしまったようです。

 また、ノーマルより静粛性が高いように感じましたが、これはアクセル開度が減ったこととオプションの吸遮音機能付フロアマットが効いていると思います。

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 セレナ e-POWER AUTECH スポーツスペックは、国産ミドルクラスミニバンで最良なのはもちろん、欧州のミニバンと比べても良いと感じる一台で、思わず「乗り味を語りたくなる」ミニバンだと思いました。

 個人的には走る場所を選ばない「ミニバンのGT」と呼びたいです。

 ちなみに、スポーツスペックではないセレナ e-POWER AUTECHと比べると、価格アップは約28万円の419万2100円。この値段であの走りが味わえるのなら、選ばない理由はないでしょう。

 ただ、ひとつ厳しいことをいわせてもらうと、「これがノーマルであってほしい!」ということです。

 次期セレナの開発チームは、まずはセレナ e-POWER AUTECH スポーツスペックをベンチマークにして、それを超える気持ちで作り込んでいってほしいと思います。