岐阜県で「水没車」ということを隠して販売した中古車販売店が問題となっています。2020年10月27日には名古屋地裁が同店舗の社長に支払い代金の返還を命じる判決をいい渡しました。中古車を安心して購入するにはどうしたらいいのでしょうか。

代金270万円を入金したのに納車されない?

 2020年2月、岐阜県岐阜市の中古車販売店で中古車を購入した際に、現金約270万円を支払ったものの、その後納車されず、その中古車自体が水没車だという詐欺事件が発生しました。
 
 10月27日には、名古屋地裁が同店舗の社長に支払い代金の返還を命じる判決をいい渡しました。「購入したクルマが実は水没車だった…」このような事例は、意外にも少なくないといいます。

 愛知県に住むAさんは、2020年2月に同県内の中古車販売店Kが中古車情報誌に掲載していた、走行距離3000キロの日産「セレナ」を見つけ販売店を訪れました。

 2019年3月に新規登録された黒いセレナは見た目もキレイで新車同様。270万円という予算で探していたAさんにとって、条件にぴったり合ったクルマでした。

 これまでホンダ「フィット」やトヨタ「アクア」などのコンパクトカーに乗って来たAさんでしたが、結婚して子どもが生まれたのでミニバンへの乗り換えを決めていたのです。

 Aさんは手付金を納め、2月末までに271万円全額を販売店Kに支払いました。

 そして納車を楽しみに待っていたものの、2か月近く経っても納車される気配はありません。

 何度も販売店に連絡をしましたが、準備を進めているというだけで具体的な納車日は知らせてくれません。

 そしてやっと4月中旬に納車ができるという回答を得て販売店に向かっていたところ、途中で経営者から「エラーランプがついたから今日の納車はできない」との連絡を受けてしまいます。

 結局、合計20回以上も納車を先延ばしされたAさん。さすがにこれはおかしいと購入したクルマについて調べることにしました。

 クルマの代金271万円を入金しているのに、なんだかんだとそれらしい理由を並べていっこうに納車される気配がないことを不審に思ったAさんは、見積もり書などに記載された車台番号と車両ナンバーを調べて、運輸支局で「登録事項等証明書(保存記録)」を取得しました。

 登録事項等証明書とは、車検証記載の内容に加えて、初度登録(新車)から現在までの所有者、使用者の氏名や住所が記載された書類のことです。

 そこで、Aさんは前所有者の住所と氏名を知り連絡をしてみたところ驚きの事実が発覚しました。

「私がお金を払って納車を待っていたクルマは2019年夏の九州豪雨で車室内にも水が入って来た水没車(冠水車)だということが判明しました。

 前のオーナーも『あのクルマが動くのですか? マフラーの上まで水が来ていましたよ?』ととても驚いていました。

 そして冠水した車両の写真も提供していただきました。車両は冠水して全損となり、車両保険で損害分が支払われていました」(Aさん)

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 Aさんの事件についてはテレビや新聞などで大きく報道されることになり、警察も捜査に動き始めました。

 271万円を入金したのに、納車されない、返金もされない、連絡もつかない。Aさんは中古車販売店の経営者を相手に裁判を起こし、前述のとおり名古屋地裁は10月27日に販売店Kの経営者に対して、271万円全額をAさんの返還する支払い命令を出しました。

 ちなみに、販売店の経営者はもちろん、代理人となる弁護士も一度も裁判の場に現れることはなく、現在も行方は分かっていないそうです。

 Aさんが調べたところ、最高800万円をだまし取られた被害者を含め、全国各地に60名以上の被害者がいることが分かりました。

 被害者が集まるコミュニティで情報交換が進んでいくうちに、水没車だけではなく、修復歴アリのクルマ、なかには盗難車と思われるものもあったとのことです。

 これらのクルマは納車されてもすぐに不調が現れて走れなくなったものが大半とみられますが、なかには、幸か不幸か調子よく乗れているものもあるといいます。

 中古車といえ高い買い物です。Aさんも当然、購入予定のクルマを確認していましたが、水没車だとはわからなかったそうです。もちろん、事故車をつかまされたほかのオーナーも同様です。

 なお、修復歴アリのクルマはもちろん、冠水や塩害、雹(ひょう)害を受けたクルマを販売すること自体は違法ではありません。

 ただし、きちんとそれらの履歴を明示し、ユーザーが納得してからの購入契約となります。

 Aさんのケースでは、冠水車であることは明示されていませんでした。もしかすると、購入時に確認したクルマと実際に販売しようとしたものはまったく別の個体だったのかもしれません。

 冠水車を一般のユーザーが見分けることは非常に難しいですが、同じ車種、同じ色の別の車(事故歴や冠水履歴がない車両)を持ってきていた可能性もありそうです。

 今回の事件について、Aさんは次のように話します。

「詐欺と判断されるハードルをもっと下げて欲しい。何も悪いことをしていない人が泣き寝入りをするのはおかしい。悔しいです。

 裁判で支払い命令が出ても相手に支払い能力がないと判断されれば、実際に支払われる可能性はほとんどないといわれています。相手は儲けたお金で好きなことをして遊んで暮らしているのでしょう。とても悔しく歯がゆい思いです」

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 悔しさをあらわにするAさんですが、今後は水没車であることの明示をはじめ、中古車のトラブル履歴に関して誰もがわかりやすく確認できるような表示を義務付けるなど、第2・第3の被害者を出さないために業界団体などに働き掛けていきたいとのことです。

購入した中古車が水没車だったら? 安心できる中古車を買うには?

 中古車を販売する業者は、修復歴の有無を明示する義務があります。ここでいう「修復歴車」とはバンパーやドアを板金塗装して修復したようなクルマは含まれません。

 事故やそのほかの要因でクルマのフレーム部分が損傷し、その部分を交換や修理した経歴があるクルマのことを意味します。

 全国最大級の業界団体である自動車公正取引協議会では、「品質や性能などについて『実際のものよりも優良であるかのように誤認されるおそれのある表示』を禁止」しています。

 また、経済産業省と国土交通省の指導のもとに設立された一般財団法人日本自動車査定協会(JAAI)は、次のように話しています。

「水没車は告知義務があります。室内フロア以上に浸水したり、浸水の痕が複数確認できたりするクルマと水没車を定義しています。

 水につかってしまったクルマは電気系統に影響を与え、エンジンがかからなくなったり、感電や車両火災を引き起こしたり、重大な危険性があります。

 ただし、消費者が納得して購入するのであれば販売することに問題はありません」

 安心して中古車を買うにはどうしたらいいのでしょうか。ひとつは、全国規模の協議会や販売店連盟などに入っていることも重要だといいます。

 また、少々高めであっても新車ディーラーが販売する認定中古車から選ぶのもおすすめです。

 加えて、前述の日本自動車査定協会が発行する「車両状態証明書」をつけて販売している中古車販売業者なら安心度も絶大です。

 車両状態証明書には、そのクルマの修復歴はもちろん、傷や凹み、補修跡等を記号と数字で表示されているので現車と照らし合わせて確認することができます。

 正確な走行距離をはじめ、冠水した形跡についても専門家による厳しい審査のうえ、証明されています。

 素人が見てもなかなかわからない修復歴や冠水歴ですが、信頼できる団体による証明書があれば、より安心して購入ができるでしょう。