燃費規制が日々強まる現代において、生粋の4WDスポーツと呼べるモデルがトヨタ「GRヤリス」です。実際に購入した自動車研究家の山本シンヤ氏が語るGRヤリスの魅力と気になる部分とはどのようなところなのでしょうか。

GRヤリスを購入! 魅力と気になる部分とは

 筆者(山本シンヤ)はトヨタの「GRヤリス」を購入しました。

 古くはいすゞ「ジェミニ・イルムシャーR(JT191S)」やランチア「デルタHFインテグラーレ」などを所有していたこともあり、WRC直系のスポーツ4WDの興味はありましたが、実際に購入するとは夢にも思いませんでした。その決断をしたのは2019年12月のプロトタイプ試乗のときです。

 開発途中ということで荒削りの部分もありましたが、直観的な「パフォーマンス」とトヨタの「志」に惚れました。

 それは2007年にモリゾウ(豊田章男氏)とマスタードライバーの成瀬弘氏が発足した“元祖”GAZOO Racingの「モータースポーツ活動を通じて量産車を鍛える」のひとつの答えが、トヨタの独自開発・生産によってカタチになったこと、「勝つためにトヨタが一から作ったスポーツカー」というモリゾウの想い、トヨタのルール/基準を超えた「設計」。

 データとドライバーコメントを紐づけした「評価方法」、その場で直してすぐに乗ってもらうといった「スピード感」、「プロドライバー」の積極的な起用、スーパーカー並みの「高精度」を量産ラインで実現、少量でもコストを上げない「工夫」など、従来のトヨタの常識を覆した数々の「挑戦」に対してです。

 GRの活動を長年追いかけきた筆者としては「俺が買わずに、誰が買う」と後先考えずに“勢い”だけで注文しました。

 10月上旬の納車から約2か月で3000kmを走りましたが、実際に所有してリアルワールドを走ってわかったことが色々とありました。

 もちろん惚れて買ったので、オーナー的には“痘痕もえくぼ”な部分があるのも事実ですが、今回はあえて第三者的に俯瞰しながら自分の愛車を冷静に分析してみたいと思います。

 購入グレードは初回限定のファーストエディション「RZハイパフォーマンス」ですが、専用装備のマーブル柄カーボンルーフとエモーショナル内装はあえて未選択。

 メーカーオプションは「予防安全パッケージ(TSS)」と「シートヒーター&ステアリングヒーター」をセレクトしました。

 色々な考えはあると思いますが、筆者はスポーツカーでもロードカーである以上、快適装備は必要だと思っていますので、この充実装備ぶりには満足しています。

 実際にリアルワールドを走らせてみて、サーキットやクローズドコースで感じた印象よりも良かった点がいくつかありました。

 ひとつ目は「パワートレイン」です。1.6リッター直列3気筒ターボはハイスペックかつ回すほどに力強さが増す性格ですが、1500rpmくらい回っていれば十分使えるフレキシブルな特性でスポーツエンジンらしからぬ扱いやすさが備わっています。

 筆者は途中でGRパーツのスポーツマフラーを装着しましたが、アクセル操作に対するエンジンのツキが良くなったのと、3000rpmから4000rpmくらいで僅かに感じていたトルクの谷間が滑らかになり、さらに乗りやすくなりました。

 ちなみに100km/h時のエンジン回転数は約2500rpm、120km/hだと約3000rpmですが、想像以上にフレキシブルなエンジン特性なので、もう少しワイドなギア比があってもいいように感じました。

 サウンドはノーマルでも回すと3気筒の倍音つまり6気筒のような豪快なサウンドですが、さらに重厚なサウンドを奏でます。

 実は燃費も想像以上で、一般道でも10km/Lを切ることはないうえに、高速道路での定速走行なら15km/Lは軽く超えます。一度エコランに挑戦したら18km/Lが出てビックリ。

 クラッチは最近のクルマのなかでは重い部類に入るかもしれませんが操作性はまったく問題ありません。

 6速MTも軽いタッチながらカチッと決まるフィーリングは横置きFFトップレベルです。ほかのオーナーからは「ヒール&トゥがしにくい」という声もありますが、筆者はあまり気になりませんでした。

 ちなみにブリッピング機能は使っていませんが、半クラッチ時に回転をわずかに上げる機能や坂道発進時のブレーキホールドはありがたく使っています。

 ふたつ目は「フットワーク」です。サーキットでは「軽さが武器」であることを実感しましたが、リアルワールドでは逆にサイズを感じさせない重厚な印象を受けました。

 とくに高速道路では、ヤリスとは思えないドッシリとした4輪の接地性の高さを感じました。

 ステア系は比較的重めですが直結感が高く信頼できるフィーリングです。ノーマルモードは安心、スポーツモードは自然でスッキリと違いがありますが、これは駆動配分の差でしょう。

 途中でGRパーツのエアロを装着しましたが、直進安定性はTSSの機能のひとつであるLTA(レーントレーシングアシスト)の性能が変わったと思うくらいの変化がありましたが、空力バランスが前寄りになってしまったことでワインディングではフロントタイヤの依存度が上がってしまった感も。

 個人的にはリアのダウンフォースを上げてノーマルのバランスに戻したいなと思っています。

 ボディとサスペンション取り付け部は日本車ではあまり感じることのない強靭さで、ポルシェのそれとよく似ていると感じました。

 サスペンションセットはスポーツ走行を想定した設定ですが、スムーズな足の動きとミシュランパイロットスポーツ4Sの吸収性の高さ、BBS鍛造アルミホイールによるバネ下のスッキリ感なども相まって、リアルワールドでの快適性は想像以上に高いです。

 ナラシのために長距離走行もかなりおこないましたが、その間の疲労も少なかったです。

 ナラシもほぼ終わったので、次はサーキットで全開チェックもしてみたい所です。

実際のオーナーが気になった点はどこ?

 その一方で、現状で困るほどではありませんが、「もう少し●●だったらいいのに」と思う部分もいくつかあります。

 ひとつ目は「視界の悪さ」です。運転席から左前方を見るときにルームミラーとディスプレイオーディオが邪魔をするので上下方向が狭く見辛いです。

 GRヤリスはノーマルのヤリスよりも全高が低く、フロントウィンドウも上下方向が短いのも原因のようです。

 個人的にはリアの視界はそれほど気にならないのですが、ハッチバックなのにリアワイパーがないのは気になります。

 開発者に聞いてみると「ウィンドウも上下方向に短いので、リアワイパーが物理的にレイアウトできません」といいます。

 ふたつ目は「振動」です。運動性能のために各部のマウントは硬めの物を使っているのは重々承知ですが、アイドルストップからのエンジン再始動時の「ブルン」という振動や、低い回転数のときにルームミラーが見え辛くなってしまう振動などは通常のトヨタクオリティでは考えらないレベルです。

 どちらも実用上困るレベルではありませんが、ルームミラーはちょっとしたカイゼンで振動は抑えられるような気がしています。

 みっつ目は「音」です。軽さのために防音材や吸音材は必要最小限に抑えていると思いますが、せっかくの「JBLサウンドシステム」の能力が活かし切れていないのが勿体ないです。

 個人的には少し重量を使ったとしても、遮音性能を高めた仕様もしくはオプションがあってもいいと思います。

 例えば、ポルシェ「911」のGT3に対する「GT3ツーリングパッケージ」のようなイメージでしょうか。

 よっつ目は「ブレーキ」です。効き、タッチ、フィーリングなど、性能面ではまったく問題はありませんが、とにかくブレーキダストが出ます。カタログにも「ブレーキ性能を高めたため、ブレーキノイズやブレーキダストが出やすく……」と記載されていますが、欧州車のそれと比べても凄いです。

 ただ、BBSホイールはシンプルな形状なので洗いやすい所は非常に助かっています。

 最後は「細かいアイテム」です。シートのホールド性は高いですがシートクッションが少々硬すぎるのでフィット感に関してはカイゼンの余地があると思っています。シートポジションは気持ち下げたい所ですが、この辺りは視界性能との兼ね合いもあるようなので悩ましい所です。

 メーターはシンプルで見やすいですが、センターのマルチインフォメーションディスプレイに表示が集中しすぎなのが気になります。せっかくいい位置にディスプレイオーディオがあるので、ここに日産「GT-R」のように水温/油温/油圧やブースト、駆動力配分などが表示できるといいのかもしれません。

 色々挙げてみましたが、これらのほとんどは許容できるレベルの話であり、それらを差し引いても筆者は「GRヤリスを購入して良かった」と思っています。

 ただ、開発陣も「ここがスタートライン」と次に向けて動き始めていると聞いていますし、サードパーティの動きも活発で早くも育てられています。

 個人的にはGRには軽量のRCにRZハイパフォーマンスの機能系アイテムをフル搭載した「RCハイパフォーマンス(仮称)」を追加してもらい、各地のサーキットでタイムアタック行脚をおこなってユーザーの指標を作ってほしいなと。

 世の中にはさまざまなスポーツカーが存在しますが、軽くて、コンパクトで、速くて、楽しいスポーツ4WDと、筆者にとってGRヤリスは「下町のスーパーカー」といっていい存在です。