障害者の希望に沿って困りごとに対応する「合理的配慮」が民間事業者に義務付けられた。先月施行の改正障害者差別解消法で、従来の国や自治体から対象が広がった。企業はもとより、店舗などの個人事業主も対応を急がなくてはならない。

 視覚障害がある女性がデパートでクレジットカードを作ろうとしたら、家族と一緒でないと作成できないと断られた。電動車いす利用者がタクシーに乗車拒否された―。

 いずれも京都府の相談窓口に寄せられた事例だ。障害者が日常生活で不利益な対応を受けたとの相談は2022年度に200件を超えている。

 改正法で事業者側は過度の負担にならない範囲で対応し、「建設的対話」で合意点を探ることが求められる。「特別扱いはできない」などと一律に拒むことは認められない。

 府や内閣府のホームページには、さまざまな障害のある人たちや難病患者が日常で直面した悔しさと、事業者側がどう対応を改め、設備面を改善したかの例を紹介している。差別された側の痛みや悔しさを社会でしっかり受け止め、現場の努力や工夫を広げたい。

 京都では半世紀前から、車いすと仲間の会代表の故長橋栄一さんらが公共交通のバリアフリーを要求して声を上げ、全国的な市民運動へと広げてきた先駆的な歴史がある。地下鉄駅のエレベーター設置、昇降リフト付き路線バス、駅ホームの転落防止柵設置などへとつながった。

 府の関係条例では、障害のある女性が「障害と性別」という複合的な差別で困難に置かれることへの配慮も盛り込まれている。「女性の入浴介助を男性職員が行うのは避けてほしい」といった声が反映された。京都から先駆的な取り組みを続けたい。

 改正法では、違反の線引きで曖昧さも残る。話し合いで解決できない場合は自治体や関係省庁が事実確認の上、調整に入るとし、内閣府には「つなぐ窓口」も開設された。事例を積み重ねて共有し、周知や啓発を強める必要があろう。

 一方、国土交通省は今月から、障害者バリアフリー法施行令の改正に向けた意見募集を始めた。劇場の車いす利用者席や建物のバリアフリートイレなどの設置を義務化する内容だ。なぜコンサートや映画館、スポーツ観戦で車いす席は見にくい端にあるのかといった当事者の訴えにも耳を傾けてほしい。

 都市部では店舗の省人化が進み、過疎化する地方では無人駅が増加している。社会の変化が新たなバリアを生んでおり、不断の見直しが欠かせない。

 壁は社会の側にあり、少数者が声を上げるには勇気がいる。民間事業者は障害当事者と向き合うことで豊かな気付きを得ることもあろう。バリアフリー社会実現への原動力としたい。