ここ一番という大勝負に、不調の部下や後輩にまかせる、やらせてみる。「信じる」のではなく「信じ切る」。言うは易しで、なかなかできることではありません。

「信じる」ことのできるリーダーといえば、記憶に新しいのが2023年のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で日本代表チームを世界一へと導いた名将・栗山英樹さん。自身の著書『信じ切る力 生き方で運をコントロールする50の心がけ』(講談社)も話題を集めました。

4月に新しいポジションに就いて、約1カ月。ウォーミングアップを終え、GW明けからいよいよ本腰を入れなければいけないと襟を正すすべてのリーダーに、あらためて本書を紹介します。

相手を信じるだけでなく、自分をも「信じ切る」ことの大切さを説いた本書は、リーダーだけではなく、どのポジションで活躍する人にも学びの多い一冊です。

「信じる」を「信じ切る」に変えることから

WBCで話題を集めたことといえば、現在は米メジャーリーグのロサンゼルス・ドジャースに所属する大谷翔平選手が発した「憧れるのをやめましょう」というフレーズ。

本書では「信じる」と「信じ切る」との違いを、「憧れる」を例にして紹介しています。憧れるとは「なりたい」であり、「なる」は憧れるのをやめたときに見えてくる着地点

憧れるのではなく、超えるイメージを持たなければ、そこには近づけない。ただ、みんな誰しも「そうなりたい」とは思っています。しかし、野球の世界でも「なる」と言い切れる選手は少ないのです。

(『信じ切る力 生き方で運をコントロールする50の心がけ』00ページより)

「勝ちたい」を「勝つ」へ「なりたい」を「なる」へ「信じる」を「信じ切る」へ。そう意識することで、取り組み方が変わり、毎日が変わってくると栗山さん。

いいリーダーになりたい、会社に貢献したい、部下の自己肯定感を上げてあげたいといった仕事にまつわることから、社会に貢献したい、家族や友人を幸せにしたい、自分が思うような生き方をしたいといった自分の人生の目標まで。

その「したい」を「する」に変えられるように意識することの大切さとその方法を、50の心がけと栗山さんの経験を踏まえながら紹介しているのが本書です。

信じていることを、言葉にしよう

「信じ切る力」を身につけると、毎日が変わり、生き方が変わる。そんな心がけを本書では50も紹介しています。そのなかから、すぐにでも取り入れられるヒントを3つ紹介しましょう。

1. 「できるか、できないか」から考えない

日々のタスクから、中長期的なプロジェクトまで。決断のフィルターの1つとして真っ先に検討してしまいがちなのが「できるか、できないか」ということ。

しかし、一流選手の場合は「できるか、できないか」よりも「こうやりたい」から始まる、と本書。「こういうボールを投げたい、こういうプレーをしたい」を最優先にし、確率やデータは疑ってかかってもいいとのこと。

この確率やデータとは、ビジネスでいえば前例や知見も含まれるのでしょう。

「できない」とあきらめて無難で妥当な道を選ぶことも1つの方法ですが、自分やチームを信じ切るならば「できる」と信じ切り、挑むという選択肢を捨てないという判断も、持っておきたいカードです。

2. 信じてもらえることで生まれるパワーがある

誰かを信じ切るということは、その相手に大きなパワーを与える行為でもある。そのことを栗山さんは自身の経験も交えて語っています。

栗山さんはプロ入りが決まり、入団前の自主トレで、チームメンバーの実力を見せつけられ、萎縮し、恐怖にさいなまれてキャッチボールすらまともにできなくなってしまったことがあったとか。

そんなとき、当時の二軍監督に声をかけられます。

「なあクリ、プロ野球っていうのは競争社会だよな。でもオレはそんなことはどうでもいいんだよ。お前が人間としてどれだけ大きくなれるかのほうが、オレにはよっぽど大事なんだ。だからまわりがどう思おうとオレには関係ない。明日の練習で今日よりほんのちょっとでもうまくなっていてくれたら、オレはそれで満足なんだよ。他の選手と自分を比べるな

この言葉は、僕の指導者人生の原点になりました。僕は、信じてもらえたのです。

(『信じ切る力 生き方で運をコントロールする50の心がけ』48〜49ページより一部抜粋)

誰かを信じるだけでなく、信じていることをちゃんと伝える。すべてのリーダーが、すぐに生かせる心がけではないでしょうか。

3. ダメな自分をどう信じるか

栗山さんが多くの挫折を味わい、また指導者として多くの選手たちと関わるなかでわかったのは、「人は絶対に変われる」ということ。

その人生の伸び代を左右するのは「これだけは絶対に負けたくない」というプライド。しかし、そのプライドは子どものときにはたくさん持っていても、年齢を重ねるにつれて減っていき、大人になるとすべてを捨ててしまう人も少なくないとか。それはプロの野球選手も然りです。

だから、それ(プライド)を持っている選手には、「これだけは捨てるなよ」と僕は伝えていました。「お前ができないと思っているだけだ。お前よりオレが信じてどうするんだ。少なくともオレくらいは信じてくれよ」と。

(『信じ切る力 生き方で運をコントロールする50の心がけ』72ページより)

自分のことを信じたい。でも信じ切れない。そんなときは、自分が絶対に誰にも負けたくないプライドを見つけてみるのはどうでしょう。思い浮かばなかったら子ども時代にさかのぼってみるのも有効。自分が自分にとって一番の味方であることほど、強いものはありません

今回は3つの心がけを紹介しましたが、本書には「信じ切る力」を育てる日常のルーティンも紹介されています。

「信じ切ろう!」と肩肘を張らずとも、栗山さんが教える心がけの中から1つでも「これだ」というものを、一度信じ切って実践してみてはどうでしょうか。

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Source: 講談社