iPadがメダル獲得に貢献? スポーツアナリストが目指すデータ分析と勝利への方程式

iPadがメダル獲得に貢献? スポーツアナリストが目指すデータ分析と勝利への方程式

2012年のロンドンオリンピック。全日本女子バレーボールチームは、28年ぶりに銅メダルを獲得しました。しかし、その偉業を成し遂げた背景に、スポーツアナリストによるデータ分析が大きく貢献していたことは、あまり知られていません。

世の中には、さまざまな業種でアナリストが存在します。では、スポーツアナリストという職業は、具体的にどのような仕事なのでしょうか。

そこで、2020年の東京オリンピックでのメダル獲得に向けて、勝つために、魅せるために、今注目されているスポーツアナリストについて、(社)日本スポーツアナリスト協会代表理事の渡辺啓太さんに話を聞きました。

渡辺啓太(わたなべ・けいた)

(社)日本スポーツアナリスト協会 代表理事。「ITをスポーツに活用すること」を志して大学在学中より独学でアナリスト活動を開始。在学中に全日本女子バレーボールチームのアナリストに抜擢され、北京、ロンドン、リオデジャネイロと3度のオリンピックを日本選手団役員として支えた。 2010年には世界で初めてiPadを用いた情報分析システムを考案・導入し、 32年ぶりとなる世界選手権でのメダル獲得、2012年のロンドンオリンピックでは28年ぶりとなる銅メダル獲得に貢献した。2014年からスポーツアナリストの連携強化及び価値向上を目指して日本スポーツアナリスト協会を創設し、代表理事として活動している。日本バレーボール協会ハイパフォーマンス戦略担当。総務省スポーツ×ICTワーキンググループメンバー。

数値化されたデータで、現実と課題、勝利への道筋を導き出す

Photo: ヨコヤマコム

—— まず、スポーツアナリストという職業、仕事について教えてください。

渡辺氏:世界で戦うチームやアスリートには、勝つこと、メダルを獲得することなど、大きな目標があります。私たちスポーツアナリストの仕事は、その目標を実現するために必要な情報を集めて、分析して、戦略や戦術のサポートをしながら勝利に貢献するのが主な役割です。

世界のスポーツ界でスポーツアナリストが台頭してきたのは、2000年を過ぎたあたりからです。80年代に「データバレー」という統計分析ソフトがイタリアで開発され、スポーツをデータ化して分析することが次第に普及してきました。

日本では世界に遅れること十数年、全日本女子バレーボールチームでは2003年にはじめて導入。バレーボール以外のスポーツで、監督やコーチ、トレーナー、マネージャーに加えて、専門的な分析を行うスポーツアナリストを本格的に配置するようになったのは、ロンドンオリンピックの少し前、2010年あたりからですね。

—— 具体的には、どのようなデータを集積・分析して、活用しているんですか?

渡辺氏:試合中であれば、コートにいる選手全員の動きすべての情報をスポーツアナリストがシステムに手入力して、たとえば、機械学習機能を活用してプレーをコントロールする相手セッターの行動を予測したりします。

また、テレビ中継の画面にチームや選手のスパイク決定率などが表示されていますが、そうした数字だけのデータでは選手を適切に評価できません。どの部分が足りなかったからポイントを取られたのか、課題をキチンと数値化して、ビデオなどでその裏付けを確認しながら日々の練習に生かすことが重要になります。

試合中に繰り広げられる、情報戦を制するためには

選手個人のスパイクだけを抽出して映像を再生したり、戦術として欠かせないローテーション(選手間の動き)も簡単に確認できる独自のシステム「VLabo」。 Photo: ヨコヤマコム

—— 現在、バレーボールは情報戦とも言われていますが、日本独自のシステムがあるそうですね。

渡辺氏:「データバレー」のソフトを導入した当初は、セット間で監督と選手が話し合う時間が3分しかないのに、入力したデータを印刷して届けるまで走っても2分程度かかっていました(笑)。

これでは、いくら精密なデータを集めて分析しても、コートで生かせなければ意味がないので、リアルタイムでデータを活用できる方法がないものかと考えていました。すると、光明が見えたんです。2010年1月にAppleから新製品のiPadが発表され、日本で5月に発売されるニュースです。

早速、データを可視化するアプリの開発をはじめ、当時の眞鍋監督が使いこなせるようにボタンの配置や操作性も考えてつくりました。

今も基本的なシステムは同じで、スポーツアナリストが選手のプレーを入力すると数値がリアルタイムで変わるので、iPadを手に持つ監督は戦況を見つめながら戦術の変更や選手交代も迅速に行なえるようになりました。

また、試合の映像と入力したデータを紐付けて、ネット動画を見る感覚で視聴できる専用のアプリもつくりました。たとえば、選手名とスパイクで検索すると、そのシーンだけが抽出され、再生、巻き戻しもや早送りもできます。移動中や空いた時間でも、スマホやiPadで手軽に利用できるのが特長です。

バレーボールは、監督がコートに端末を持ち込むことができるスポーツ。選手もデータの活用に積極的なので、その意味では、スポーツアナリストとしてやりがいを感じますね。

エビデンスを客観的にわかりやすく伝えるのが使命

Photo: ヨコヤマコム

—— 一方で、人を数値化して答えを導き出すことに、難しさを感じることはありませんか?

渡辺氏:スポーツアナリストの仕事は、数字を使って選手を評価するのがミッションなのでかなり神経を使います。ただ、監督やコーチの評価と違うのは、エビデンスとなるデータがあることです。

たとえば、「今日の試合どうだった?」「ミスが多かったですよね」というやりとりがあったとします。何気ない会話ですが、チーム、選手たちは世界と戦っているので、漠然としたイメージだけではなく「今日みたいなミスを何本減らさないとメダルには届かないよ」とより具体的に課題を意識させなければいけません。

そのときに客観的なデータがあり、スポーツアナリストが分析して、「1セットでミスをこれだけ減らさないとメダル獲得は難しい」と、より具体的な数字でわかりやすく提示することで、現状の課題をきちんと把握でき、目標設定を理解してもらえるわけです。

また、試合の先発メンバーを決める場面でも、ビジネスシーンと同じように、過去の実績や直近の成績、最近の各チームの動向を踏まえて、対戦相手の傾向を説明します。そして、「だからこそ、この選手を使うべきではないかと」と極めて客観的な立場でリストアップします。そこに主観的な感覚を交えてしまうとスポーツアナリストの価値がありませんからね。

もちろん、その前提として、監督や選手を含めチーム全員との信頼関係があることは言うまでもありません。

スポーツアナリストを目指したいあなたへ

—— 最後に、スポーツアナリストという仕事の魅力と、今後について教えてください。

渡辺氏:ロンドンオリンピックで28年ぶりに銅メダルを獲った瞬間、選手やチームスタッフのみんなと喜びを分かち合えたときは特別な感情を抱きました。スポーツは目の前で勝者と敗者が決まる厳しい世界です。だからこそ勝利にこだわり、選手はコートで、スポーツアナリストはデータ分析を武器に全身全霊をかけて立ち向かっていける。そこが魅力かもしれませんね。

また、日本におけるスポーツアナリストの今後は、映像解析やセンシングなど、テクノロジーの進化が著しいので、単なる専門家ではなく、専門領域が高度に細分化された分業体制になっていくと思います。

たとえば、サッカーやラグビーでは、どの選手がいつ・どこからどこへ・時速何kmで走ったのかをトラッキングして座標データが取得でき、野球でもセンサーやレーダーを用いて球の回転などさまざまなデータが蓄積できるようになってきました。

そうなると、映像を含めた膨大なデータを、スポーツアナリストがいかに指導者や選手のために的確に翻訳して届けるかが、今以上に重要になります。そのためにも、スポーツアナリストの人材育成や職能を高めて、職域を拡大していく必要があると思っています。

渡辺啓太さんが代表理事を務める(社)日本スポーツアナリスト協会では、2017年12月2日に毎年恒例となったイベント「スポーツアナリティクスジャパン2017」を日本科学未来館で開催します。

スポーツアナリスト、スポーツアナリティクスが、日本のスポーツ界にどのような変革をもたらしてくれるのか、会場でぜひチェックしてみましょう!

スポーツアナリティクスジャパン2017

(社)日本スポーツアナリスト協会

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