4月から拠点を大阪から東京へ移したお笑いコンビ、トット。実力は早くから高く評価されており、その漫才は、登場人物の考え方が過剰化したり、表と裏のギャップがどんどん広がっていったり、日常的なシチュエーションのなかでキャラクターをユニークに転がして笑いをあつめている。

また、ツッコミ担当の多田智佑は天然キャラとして、ボケ担当の桑原雅人はボイスパーカッションなど、それぞれの持ち味もクローズアップされつつある。今回はそんなトットに、これまでたどってきた道のりを中心に話を訊いた。

取材・文/田辺ユウキ 写真/南平泰秀

「若手時代は先輩が怖くて劇場に近づきたくなかった」(多田)

──結成当初は『湊町リバープレイス』の広場や川沿いなどで漫才の練習をしていらっしゃったんですよね。

多田「2012年、2013年くらいまではあそこで練習をしていました。そういえばウーマンラッシュアワーさんも長い間あの場所でやっていらっしゃって、『このキャリアでもここで練習してはるんや』と印象に残っています」

桑原「劇場で漫才をするためのオーディションがあるんですけど、それに合格するまでは、当時はみんな『湊町リバープレイス』や『なんぱパークス』あたりでやっていたんですよね。合格してからも劇場にすぐ入り浸るのは無理。それに受かっても3カ月くらいで落ちるコンビが多いから。先輩も『こいつらはどうなんやろう』とこちらを伺ってくる雰囲気がありました」

多田「当時の劇場って緊張感もすごくあったし、怖かったもんね。『お前ら、誰やねん』って感じだった。出番がある日以外、極力は劇場に近づきたくなかったです」

──今だから言えると思いますけど、トットのおふたりから見て一番怖かった先輩芸人さんってどなたですか。

多田「モンスターエンジンの大林さんです! いや、大林さんは普通に振るまっていたんだと思うけど、僕らにはすごく怖く見えました」

桑原「でも、確かに大林さんも『締めていかないとだめだ』という感じを持っていらっしゃったはず。だって、若手っていろんなやつがいるし。礼儀も全然ダメで。ここはプロの場所だよ、という無言のメッセージが大林さんから流れていました。あと、スーパーマラドーナの武智さんはやっぱり最初は怖かった」

多田「それを言うなら、かまいたちの濱家さんも。この3人は怖かったですよ。でも、賞レースに出はじめたくらいから、周りの見る目が変わってきた。営業なども増えて、先輩のみなさんとお仕事をご一緒する機会も多くなり、自然と距離が近づいていきました」

桑原「ネタもちゃんと見てくれるから、そこで『あ、こいつらはちゃんと漫才ができるな』と認めてもらえたのかもしれません」

「桑原が頑張っているのを『いけいけ!』って応援したい」(多田)

──2016年の『NHK新人お笑い大賞』を獲ってから、自分たちを取り巻く環境も特に変わったのではないですか。

多田「そうですね。あの時期から、お笑いだけでご飯が食べられるようになったんです。バイトをやらずに生活できるようになりました」

桑原「大阪であれば10年以内に何か賞を獲るかどうか、これがはっきりした線引きになる。『NHK新人お笑い大賞』はすごく自信になったし、反応が変わったように感じました。そしてここまでやってくることができた。リバープレイスで練習していた当時の連中も、今では解散していたり、吉本から別の事務所へ移籍していたり。ほとんどいなくなってしまった」

──トットはそんななか勝ち残り、ついに4月から東京へ活動拠点を移されますよね。ただ、2018年8月にYouTubeで配信された「なんばグランド花月チャンネル」のなかで、多田さんは「東京のお笑い番組はおもしろい人がいっぱいいるから出たくない」とおっしゃっているんですよ。

桑原「多田ちゃんはそれ、よく言っている。芸人がお笑い番組に出えへんってどういうことやねん」

多田「ザ・戦場みたいなところが苦手だから。むしろ、桑原がそういうなかで頑張っているのを見て『いけいけ!』って応援していたい」

──そんななか、お笑い番組で「この人は恐ろしいくらいおもしろい」と感じたのはどなたですか。

多田「やっぱり明石家さんまさんです。『痛快!明石家電視台』(MBS)に出演したとき、生のさんまさんがスタジオに出てこられた瞬間、めっちゃテンションが上がりました。いつも挨拶のとき、お客さんと一緒に『パン、パパパン』と手拍子するじゃないですか。あのとき、テンションがマックスでしたね」

桑原「いやいや、ちょっと待って。そこから番組が始まるねんで。何でそこでマックスを迎えてんねん(笑)。でも確かに、出演している芸人さんがみんな爪痕を残そうとしているなか、こいつだけはずっとさんまさんを見ているだけだった」

多田「さんまさんと目が合って、めっちゃうれしかった」

桑原「僕もお仕事を初めてご一緒したときは、『さんまさんって実在したんだ』と不思議な感覚になりました。多田ちゃんの天然エピソードをたくさん喋って、ウケて、『まだあるやろう?』とグイグイときてくださったとき、『よし、いける』と手応えを感じました。さんまさんから『お前ら、もっといけ』というメッセージを感じましたね」

多田「桑原がウケたから『いける』となって、僕も喋ったら、さんまさんから『それはいらんねん』と言われて。『お笑いってムズッ!』と思いましたね」

「最初は、多田ちゃんの天然キャラは嫌だったんですよ」(桑原)

──ハハハ(笑)。でも昨今、多田さんの天然キャラのイメージが確かに付いてきました。

多田「実はすごく恥ずかしいんです。でも僕のエピソードをしゃべるために、みなさんが時間を取ってくれるので、『ありがとうございます』という気持ち。だって桑原もそうだけど、ボケ担当の人って自分のボケをやりたいものですよね。それなのに僕のエピソードのために時間をつかってくれるから」

桑原「出会った頃の高校時代はこんな感じじゃなかったんですよ。もっとちゃんとしていた気がした。だけど芸人になってから、変なものがいろいろ出てきました。周りの芸人仲間が『多田はちょっとおかしいぞ』となって、僕も気づき始めたんです」

多田「地元の友だちにも、『お前のあの天然キャラって何? そんなやつじゃなかったやん』と言われて。でも、仲がいい友だちもみんなおバカな人ばかりなんですよ。当時は同じような天然が集まっていたから、自分のキャラが埋もれていただけだったんです」

桑原「だって一回、タバコを吸いながら缶コーヒーをひと口だけ飲んで、その吸殻をコーヒーのなかに入れたことがあって。僕は『えっ?』と驚いたら、多田ちゃんはそのままコーヒーを飲んで『ブーッ!』と吐き出して。『タバコが入ってる!』って僕の方を見て、『お前がやったんか』と怒り出したんですよ。もうね、『この人はひとりで何やってるの?』という感じですよ」

──すごいですね、それ。でも桑原さんとしては、多田さんのそういう天然キャラに救われることもあるんじゃないですか。

桑原「かなりありますね。多田ちゃんのエピソードにツッコミをいれながら、自分もボケに持っていけたりするんで。でも最初は、多田ちゃんの天然キャラは嫌だったんですよ」

──それはなぜですか。

桑原「僕がボケて、こいつがツッコミをいれるのがトットの漫才のスタイルなのに、そのイメージが変わってしまうから。マネージャーとも『多田さんの天然を推すのはやめませんか。そもそも多田はツッコミ。その場の笑いは起きるけど、長い目で見たとき、天然キャラが定着すると漫才に支障をきたすかもしれない』と話し合いをしたことがありました。

僕もその意見に納得したんですけど、多田ちゃんは僕らのそういう考えも跳ね除けるくらいミスをしまくるんで、『ああ、こいつを押さえつけるのは無理や』とあきらめました。都会に解き放たれたゴリラみたいなものなので」

多田「なんやねん、その例えは・・・」

桑原「こちらが制御しようとすると無理が生じる。だから、それも生かしながら漫才をやっていくことにしました。そうしたら良いところが出てくるようになって。多田ちゃんがすごく楽しそうにしゃべるようになった」

多田「俺はお前の甥っ子か。楽しそうにしゃべるって、どういう意味やねん」

「多田ちゃんにはのびのびとやってもらおうって決めた」(桑原)

桑原「もうね、ボケもツッコミも全部自分がやろうと思っていて。多田ちゃんにはのびのびとやってもらおうって決めたんです。役割としては僕がボケとツッコミの担当。で、こいつは『多田』ですね。イメージとして一番近いのは、オードリーの春日さん。春日さんってもはや『春日』というジャンルじゃないですか。ボケやツッコミという役割を超越している。多田ちゃんにはそこを目指して欲しいんです」

多田「え、じゃあこれから『トゥース』って言っていくの?」

──多田さん、それガチで言ってます?

桑原「多田ちゃん、違う、違う! 『トゥース』は春日さんのものやから。お前がやったら、それは多田じゃないやん。なんで急に自分のものみたいにやりだすねん。東京へ行っていきなり『トゥース』とか言い出したら、みんなびっくりするやろ。堂々とパクりすぎていて逆におもしろいけど!」

多田「あ、そっか・・・」

──多田さん、すごいですね・・・。ちなみにこれからトットが東京で活動するにあたって大きく打ち出していくものって何になりますか。

桑原「漫才はこれからもきっちりやっていきますし、でも、熱湯風呂でもどんなことでもやりますよ」

多田「あと、これは自分で言うことでもないですけど、やっぱり僕の容姿ですかね」

桑原「えっ? 容姿? 満を持して東京へ行くというこのタイミングの取材で、まさかの容姿推し・・・」

多田「すみません、今の答えはなかったことにしてほしいです・・・」

──多田さんは吉本きっての男前芸人としても知られていますし。

桑原「そうですね。東京では多田ちゃんのビジュアル売りでいきます。で、3冊目の写真集もまた出します。多田ちゃんのやりたいようにやっていこうと思います。いや、容姿って言ったときはさすがにボケかなって思ったけど、マジなトーンやったし、ほんまにびっくりした」

多田「ちょっと忘れてください、ほんまに・・・(苦笑)。すみません。東京でも漫才をしっかり頑張っていきます!」