3月5日より全国公開の映画『野球少女』。かつて天才野球少女と騒がれた主人公・スイン(イ・ジュヨン)が、男性選手との力の差にもがきながら、それでもプロ入りのために挑戦を続けていく物語だ。魔球といわれるナックルボールを武器にするスインだが、日本の女性野球選手でナックルボーラーといえば、思い浮かぶのは何と言っても吉田えり選手。

かつて「ナックル姫」と呼ばれた吉田選手は現在、栃木県のエイジェック女子硬式野球部で選手兼コーチをつとめている彼女も同作品をひと足早く鑑賞し、自身と重ねたという。2020年末には肘を手術したということだが、そんな彼女に映画の話だけでなく、現在のコンディション、指導者としての難しさ、そして憧れのあの選手についても話を訊いた。

取材・文/田辺ユウキ

「監督として『女の子と、どう接したらいいんだろう』って」

──いよいよ球春到来ですが、吉田選手は現在、コンディションはいかがでしょうか。

2020年11月に肘の手術をしましたが、徐々に投げられるようになってきました。そろそろ実践に向けてキャッチャーに投げられるかな、という感じです。チームも練習試合が始まって、4月に予定されている『栃木さくらカップ2021』大会に向けて動いています。

──手術をしなければいけないくらい、肘の状態は良くなかったんですね。

はい、「後方インピンジメント」になってしまい、肘を伸ばすと、関節部分の骨と骨がぶつかるような状態で、ずっと痛みが走っていました。ひどくなると疲労骨折してしまい、治療に時間がかかるので思い切って初めて手術をしたんです。

小学2年生から野球をはじめて肘を使っていましたし、その蓄積もあるのかもしれません。手術前は痛いながらも何とか投げて思うピッチングができていなかったのですが、リハビリも順調なので受けてよかったなと思います。

──変化球を多投すると肘にも負担が大きいと言われていますよね。

そうですね。今までで一番大きな怪我が、ナックルをたくさん投げていた時期の第一肋骨骨折だったんです。肋骨を痛めてからは、ナックルを投げられない状態に。

変化球は腕をひねったりしますし、ナックルのように独特な握りの球種もある。そのなかで思い切り投げるので、確かにケガをする可能性は高いのかもしれません。術後経過も順調で、様子を見ながら今季はナックルに挑戦したいなと思っています。

──ナックルボールは昔から魔球と言われるほど、魅惑的な変化球です。ある番組でゲストのダルビッシュ有投手が変化球について語るなど、改めて「変化球は奥深い」と興味が高まりました。

そうですよね。私もウェイクフィールド選手のナックルボールを見たときは胸が高鳴ったのを覚えています。私は長いあいだ男子のなかで野球をやってきましたが、スイン選手と同じように、高校生の時にストレートでは勝負ができないと感じて、ナックルボールを追求するようになりました。

そういった点でも、ナックルボールにたどり着くまでのスイン投手の境遇にもとても共感し、応援したい気持ちでいっぱいに。私も、ボールを無回転で投げて変化させるまでが本当に難しくていろいろ試しました、苦笑。

──映画のなかでは、主人公スインが投げたナックルボールをみた男性選手たちがみんな驚きの顔を浮かべますね。

いいシーンですよね。私も初めて投げられたとき、すごくうれしかったことを覚えていますし、周囲がびっくりしていたのを覚えています。

ナックルボールって投げたあと、自分でもどの方向に変化するか分からない。カーブなどほかの変化球は曲がり幅を掴めるけど、ナックルはいつまでたっても、変化のイメージがつかめないんです。

キャッチャーが構えるところを狙って投げて、あとはお好きにどうぞ、お願いします!という感覚。キャッチャーもどこに来るかわからない、おもしろい球だと思います。

決して打てない球速じゃないのに、打てない。バッターからしたらおもしろくない、じれったい球。習得するのは難しいけれど男子に勝負する上で、スイン選手も、私もナックルボールが必須だったのだなと思います。

──映画のなかでは、主人公を指導する男性コーチの存在も大きいですね。吉田選手も現在、コーチとして選手を指導する立場でもありますが、いかがですか?

4年前、選手兼監督としてチームの立ち上げに関わったのですが、「女の子と、どう接したらいいんだろう」という部分から始まりました。男子のなかで野球をやっていたので、女の子との接し方が分からなかったんです。女の子との距離の詰め方は苦戦しました。

──なるほど。

2020年からは選手兼コーチになりましたが、指導する上で、自分で経験してきたことをなるべく押し付けないようにしています。「自分はこうやってきたから、これが良い」というわけではないという事を意識しながら、選手個々の引き出しを増やしてあげるイメージでコーチ業をしています。

野球って、選手ひとりひとりにいろんな感じ方があるスポーツ。選手に自分の指導が伝わっているかどうか、試行錯誤の毎日です。

「生涯現役選手でいたいし、ママになっても野球をしていたい」

──吉田選手は過去のインタビューで、2013年から2016年までの石川ミリオンスターズ在籍時「元NPBの指導者、先輩から学ぶべき点が多い」と発言していらっしゃいました。当時は、元埼玉西武ライオンズ選手で2017年に亡くなられた森慎二さん、メジャーリーグや千葉ロッテマリーンズで活躍したフリオ・フランコさんも、同チームで選手兼監督をつとめていましたね。

はい。森さん、フランコさんなどトップレベルで活躍してきた選手は、ここ一番の集中力が本当に高かった。それと、そのときの目つきがすごかったのをよく覚えています。近くで見ていたからこそ、それを肌で感じることができました。

フランコさんは人一倍練習や試合に対する姿勢にメリハリがあって、だれよりも集中力があって、本当にオーラがあったんです。日々の行動から学ばせてもらったなと思います。

──フランコさんは石川ミリオンスターズ在籍時、年齢が57歳だとされ、異例の高齢選手でした。『野球少女』のなかでも、スインらが現役にこだわる場面が出てきます。実際のプロ野球でも、戦力外通告をされて球団内での仕事を打診される場合があると思うのですが、仕事として安定するし、おいしい話に思えるんですが、選手側からは?

選手それぞれに考えはあるはずですが、私自身も肘を手術してまで現役続行にこだわりました。「なぜそこまでして野球をやるんだろう」と思うことが時々あります。

でも、シンプルに野球が好きなんです。だから長く現役でやりたい。スイン選手も、第一に野球が大好きなはず。あと「まだまだできる」「自分は終わっていない、やれる」って気持ちがありますね。わたしは生涯現役選手でいたいし、ママになっても野球をしていたいです。

──一方、選手としてはコロナ禍でプレーが続けられるかどうか、まだ不透明な部分も。アメリカでは2020年、メジャーリーグの試合数が大幅短縮となり、そこでの損失が今年の選手契約にも影響が出ました。ニューヨークヤンキースに在籍していた田中将大投手は、日本球界に復帰してプレーを続けることを決断。ただ、野球ファンとしては日本でまた田中投手のピッチングを見ることができるのはとても楽しみです。

そうですよね! 私も田中投手のプレーに注目しています。こういった状況ではありますが、機会があれば球場に足を運んで試合を観戦したいです。

──2009年1月には、田中選手とトークショーもおこなっていらっしゃいましたね。

そうなんです、17歳のときでした。当時、田中選手はグローブのなかに「気持ち」と書いていらっしゃったのですが、マウンドであれだけ気持ちを前に出せるのはすごく格好いい。

甲子園に出場されていたときから、マウンドでの迫力にあこがれています。私自身、ピッチャーとして、野球選手として、今年も田中選手のプレーを見てたくさん勉強し、今シーズンに活かしたいです。