近鉄奈良駅前「ひがしむき商店街」のお土産屋「福泉堂(ふくせんどう)」(奈良市)が10月31日、創業から63年の歴史に幕を下ろす。

駅から徒歩すぐに位置する「ひがしむき商店街」の入り口に並んでいた2軒のお土産屋。長年、修学旅行生や観光客のニーズに応え、ランドマーク的存在で地元民にも愛されてきたが、そのうちの1軒である同店が9月1日にSNSで閉店を発表。

「修学旅行の思い出が」「寂し過ぎる」「私が小さい頃からあった、いつも目にするなじみのお店がなくなるなんて・・・」と、かつて訪れた観光客、地元民からも惜しむ声が次々とあがっている。

昭和32年に先代が創業した「福泉堂」。店主の妻である横田ミヨシさん(70代)は、「主人も私も高齢で、続けていくのは大変かなと思って。新型コロナで状況が一変したことで気持ち的にまいってしまったのもあります。自分やみんなの身体がついていかなくなったのもあって・・・」と閉店を決めた理由を語る。

新型コロナウイルス感染拡大以前、全国各地がそうであったように周辺の商店街もインバウンドの観光客であふれていた。もちろん同店もインバウンド、なかでも中国人観光客が「爆買い」するためのニーズにあった商品を数多く取り扱っていたという。

スタッフの佐藤さんは、「英語やスマホ翻訳アプリで対応するのが当たり前の日常になっていたから、コロナになってみて初めて、インバウンドのお客さまがすごかったんだなと感じました」と振りかえる。

そんななか、同店が日本の観光客に向けて2018年から開始していたのはインスタグラムなどのSNS。新商品をこまめにアップし、丁寧なリプライを返すことでファンの心をつかんでいた。

「SNSを始めて、奈良ってこんなに愛されているんだ!と知りました。特に東京からはリピーターの方々が来てくれて」とSNS担当者(店主の親族)。静岡在住の熱烈な同店ファンであるフォロワーが、ミニサイズのお堂と仏像作品を制作し寄贈してくれたことも。

今回の閉店を知り東京から駆けつけた40代女性は、「よく奈良に訪れるので、いつも来ています。昔ながらの正統派のお土産屋で、おもちゃ箱をひっくり返したよう」と同店の魅力を語る。スタッフの秋澤さんは、リピーターの方には、「『お帰りなさい』って挨拶していて、とても喜ばれました。お土産屋なのにお客さんからお土産をもらうこともあって」と笑う。

インスタでは、現在ファンが「#それぞれの福泉堂」「#わたしたちは福泉堂派」というハッシュタグで投稿。共通の福泉堂のイラストとともに、それぞれの想いや思い出を語っている。さらに閉店日(10月31日)16時にお別れのため来店するのだという。いかに長年、奈良観光を支え、奈良ファンの観光客たちに愛され続けてきたかが分かるエピソードだ。

また、店主が幼稚園に行く子どもたちに「いってらっしゃい」と毎日声掛けし、「卒園時に『おじいちゃん、いつも声掛けしてくれてありがとう』と手紙やクッキーを持ってきてくれたことが店での一番の思い出」と話す横田さん。店主もそのお礼に筆箱をプレゼントするなど、地元の人々とも心温まる交流を生み出してきた。

現在は一部の商品を除いて、伝統工芸士が制作した仏像の面や一刀彫などが5〜7割引き、10月26日からは9割引き。また閉店が決まる前から企画していた「サンリオのキティとコラボした奈良と福泉堂バージョンの限定ミニエコバッグ」が、最終日に間に合わないことが判明。そのため急遽、SNSのダイレクトメールで予約を受け付け中で、現在完売間近だそう。

ミヨシさんと従業員の方々は、「寂しくなるね、懐かしいねと伝えに来てくれて、そんなにかわいがってもらえてたんやなぁと・・・みなさまに感謝しております。本当に残念ですが、良い感じで終えることができます。ファンの方や地元の方の人となりに私たちは恵まれていました」と想いを伝えてくれた。

営業時間は月火木曜は10時〜17時、金〜日曜は10時〜18時(水曜休)。

取材・文・写真/いずみゆか