新型コロナウイルス感染拡大防止のため、関西でも大半のライブハウスが休業を余儀なくされている。そんな状況下でも生の音楽を届けたいという思いから、ネットなどでは無観客ライブの配信が広がっているが、そんななかで音楽ファンを騒然とさせたのが、大阪のライブハウス「難波ベアーズ」(大阪市浪速区)でおこなわれた『コロナ調伏撲滅祈念、山本精一絶叫無観客ライブ』だ。

「難波ベアーズ」は大阪・難波の外れの雑居ビルの地下に1986年にオープン。100人も入ればギュウギュウの、いかにもアンダーグラウンドな雰囲気が漂う小バコながら、これまでにボアダムズ、少年ナイフ、非常階段、あふりらんぽ、オシリペンペンズ、あらかじめ決められた恋人たちへ・・・といった、いわゆるメジャーではないが、国内外でカルト的人気を獲得するミュージシャンを多数輩出。

日本のオルタナティブロックの聖地として、独自の音楽磁場を形成してきた。しかし、今年の2月中旬以降はコロナの影響で出演者からのキャンセルが続出。ほぼ開店休業状態にあったという。

そんななか、3月5日に突如ネットでアナウンスされたのが、同店店長でボアダムス、想い出波止場、羅針盤、ROVOといったバンドやソロで活動するミュージシャン・山本精一による絶叫無観客ライブ。

そこには「配信はありません! なお、ベアーズのドアは閉まっていますので、入場はできません」という注釈が付けられていた。無観客で配信なし・入場不可とは、それって誰も見ることも聴くこともできない、想像するよりほかないヴァーチャルライブってこと?!

まるで中国神話の麒麟のような・・・こんな非常時にこんなトリッキーなことをやらかしてくれるとは、山本精一の音楽と人となりを知る人ならば、さすが、と唸らされずにいられない。そんな彼は、音楽がいまだかつてない危機に晒された現在の状況をどう感じているのだろうか? 現在ベアーズは休業中のため、電話で話を聞いた。

「僕の音楽は脳内ミュージックやしバーチャルで全然オッケー」

──件の「無観客ライブ」は、どういう経緯で?

経緯もなにも、たんなる思い付きですよ。ちょうど3月5日に今後のことを話し合うためにスタッフで集まったんやけど、もうキャンセル続きで頭に来てね。誰に対してじゃなく。コロナ自体は、あいつらはたんに生きてるだけなんで、別に悪いわけでもないし、政府に対する違和感は別に今に始まったことじゃないからね。ただ、なんかめっちゃ腹が立って、突然やろうと思ったから、配信の準備も出来なかっただけ。

──とはいえ、その「後売りチケット」をドネーショングッズとして販売してしまうことも含めて、鮮やかすぎます。

あれも(音楽レーベルの)Less Than TVの谷口順くんがSNSで「チケットがあったら欲しい」みたいに書いてたのに乗っかっただけで。もともと僕の音楽は自分の脳内で完結してる「脳内ミュージック」やし、特にライブが好きというわけでもないから、バーチャルで全然オッケーなんですよ。それはずっと前から同じ。だから厳密に言うと「無観客」じゃない。自分が観客です。

──いま、ライブハウスに限らず、あらゆるイベントが中止になって、リリースも延期になるなど、音楽やエンタテインメントがいまだかつてない状況に追い込まれているわけですが、山本さん自身、このような現状に危機感は感じてます?

僕個人としては、ライブがことごとく中止になって、ひたすら金がなくなってどうしようって感じやけど、アーティストめいた高尚なことは全然考えてへんかな。今までこんなに長い間休んだりすることはなかったから、レコーディングしたり、普段は読めない長編小説とか哲学書を読んだり。もともと引きこもりやから、わりと朗らかに過ごしてますね。

──そうなんですね。

ただ、ベアーズの店長という立場で考えると、家賃も払わなあかんし、従業員にも最低限の保証をしてあげないといけない。僕としてもベアーズがなくなると食い扶持に困るんで、ああやってドネーションを考えたわけです。

──食い扶持はもちろんですが、ベアーズはたんなるライブハウスとも違う。ある種の精神的支柱ともいえる場所ですから、失くしてはいけませんね。

まあ、ほかにはない特殊なハコですからね。出演する連中も見に来る連中も変なやつばっかりやけど、客観的に僕もこういう場所はあったほうがええなと思います。

「生きるのに必要ないもんって本来ないと思ってる」

──いま、不要不急の外出自粛が叫ばれているわけですが、それによって音楽とか生活に必ずしも必要ではないものを糾弾するムードが高まってるのが怖いですよね。「娯楽は敵だ」みたいな。

今現在、自粛が必要というのはもちろん前提として言うんやけど、そうやね。何を娯楽と考えるかは人それぞれやけど、俺は生きるのに必要ないもんって本来ないと思う。いまパチンコ屋が叩かれてるけど、パチンコが何より大事という人もいるやろうし、店の人間だけでなく、客のなかにはあれで食ってる人らもいるからね。その人らにしたらパチンコは仕事なわけで、不要不急じゃない。

──はい。

音楽もそう。音楽とか芸術は精神の食べ物やから、不要なものでは決してないし、アーティストなんかほかの仕事はできない人が多いんで、今の状況が続いたら、そのままのたれ死んでしまうで。僕もそうやからね。僕も音楽以外は何もできないポンコツですから、エンタテインメント全部がダメってなったら、生きていけないですよ。でも、なんか国に金出せ金出せっていうのもちがうんやないかとも思うし。自分らでやれる限りはやっていきたいですね。

──ライブハウスだけでなく、アートやエンタテインメントの存在自体が危機に晒されてると。

ライブハウスが無くなるようなことが起こった時点で、もう終わりやんね。現に今も、宝塚もアート作家の個展も阿波踊りもダメってなってるし、このまま行くとメジャーとかマイナー関係なく、エンタテインメント全部がダメになる。だから、完全終息を待つとか言わず、どっかの時点で折り合いをつけてやっていくしかないですよ。

──そうですね。

「経済か命か」っていう二元論じゃなく、どっちも生かす道をなんとか探っていかないと。かなり困難な道やと思うけど。でないと、こっちだって死んでしまうし、これからは犯罪めっちゃ増えるよ。そういう社会がいいのかどうか。

──犯罪を未然に防いで、人間の精神的豊かさを守る意味でも、まずはドネーションで支え合っていきたいですね。

ベアーズのドネーショングッズに関しては、スタッフや周りのバンドの人らが動いてくれて。おかげさまでびっくりするぐらい反響があったんですけど、それでも保って5カ月ぐらいかな。それ以上、自粛が続いたらマジでヤバいですね。オムニバスもすごいメンツが参加してて、ドネーション関係なく、普通にレアで価値があると思うので。ぜひ聴いてみてください。

オムニバスCD『日本解放』は、GEZANによるレーベル「十三月」より販売。GEZANをはじめ、想い出波止場2020 AGAIN with DJおじいさん、MASONNA、渚にて、OOIOO、ゑでぃまぁこん、青葉市子などベアーズに縁のあるアーティストが多数参加している。価格は2750円、ステッカー付ドネーションプランが5500円。

ほか、永久フリーパス(20万円)、山本精一 手書き護符(2000円)など4種類のドネーショングッズがベアーズの公式サイトで販売中。

取材・文/井口啓子