日本企業のムダな「業務引き継ぎ」が国を滅ぼしかねない真の理由

職場での年度替わりの「恒例行事」といえば、業務の引き継ぎ。重要な仕事のひとつと考える組織人も数多存在しますが、どうやらムダだらけにして日本特有の「ガラパゴス的業務」のようです。米国在住の作家・冷泉彰彦さんは自身のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』で、なぜ業務引き継ぎがムダなのか、そしてその問題点はどこにあるのかを記しています。

「業務引き継ぎ」が問題だらけという件

年度替わりの時期、多くの職場で「業務引き継ぎ」が行われていると思います。日本の企業や官庁では、「人事異動」が付き物であり、まさに当たり前の光景となっているのではないかと思います。

ですが、この「業務引き継ぎ」というのは、問題だらけなのです。と言いますか、日本の組織の非効率性、生産性の低さを象徴しているだけでなく、日本の組織が抱えている問題を浮き彫りにしているからです。

1.引き継ぎはどのぐらいムダか?

引き継ぎという仕事は、イメージは悪くありません。前任者は必死になって仕事を後任に引き継ぐし、後任は必死になって覚えようとするし、普通の管理職や経営者から見れば「おー、真面目にやっているな」という印象を持つでしょう。

ですが、冷静に考えてみてください。例えば、総務部で資材管理をしている人が、人事部の採用担当係長に「栄転」するとします。この人のことを仮にAさんとしましょう。その場合、Aさんはまず後任に対して、資材管理の仕事を引き継ぎます。恐らく、業務マニュアルはあるでしょうが、そのマニュアルに書いていることも全部説明するでしょうし、それ以外の説明、そして場合によっては実地での資材についての説明などもするでしょう。

資材管理の仕事を後任に引き継いだAさんは、今度は新しく担当する「人事採用」について前任者から引き継ぎを受けます。採用業務というのは、外で見ていると面接官として権力もあり、花形業務のように見えますが、実際は膨大なES(エントリーシート)データと格闘したり、最終の採用決定にあたっては役員クラスの判断を調整したり、結構大変な仕事です。ですから、ここでもマニュアルではダメで、説明や場合によっては模擬面接の練習など時間をかけた引き継ぎがされるでしょう。

そうした引き継ぎの光景は、とにかく「真面目」に見えます。必死になって誠実にやっているように見えます。ですが、よく考えると「何も生まない」のです。例えば、引き継ぎに3日かかるとします。その3日間は前任者も新任の人も、お互いに「まともな仕事は全くできない」のです。ということは、実働で6日分の壮大なムダになるのです。

しかもAさんの場合は、自分の旧業務を新任に引き継ぎ、さらに自分の新業務を前任者から引き継いだわけですから、2回の引き継ぎを行う、つまりその2回の引き継ぎで、給料の高い中堅社員が延べ12日分も「まともな仕事はしていない」ということになります。

更に言えば、いくら新任が有能だからといって、全くの未経験者に引き継ぐ場合は、どうしても業務の質や効率は低下します。つまり、引き継ぎということは、それだけで壮大なムダなのです。

2.仕事が客観化されていないという問題

そもそも、どうして引き継ぎという作業が生じるのでしょうか?それは、業務マニュアルがキチンと整備されていないからです。本来、あらゆる実務の仕事の進め方というのは、マニュアル化されているべきです。

マニュアル化されていなくては、例えば有給休暇を取る際に、誰かに業務を代わってもらうこともできないわけです。反対に、マニュアル化がされていれば、引き継ぎの作業は極めてスムーズになるはずで、まずはマニュアルを読んで、どうしても理解できない点を確認することで終わるはずです。

現代でもそうだと思うのですが、少なくとも仕事というのは、マニュアルに基づいて行い、同時にマニュアルを最新の条件、つまり社会の環境、外部環境、技術革新、制度改正などに合わせて、逐次アップデートすることも入っているはずです。マニュアルに基づいて仕事をしながら、マニュアルを更新するというのは業務を進めていく両輪だと思うのです。

ですが、往々にしてマニュアルのアップデートというのはおろそかになりがちです。そうなると、引き継ぎの際に、マニュアルと現実とに乖離が起きてしまい、その部分に関しては口頭であれこれと注意事項を伝えなくてはなりません。

これは避けるべきことですが、仮にその前任者に大きなスキル不足や取り組み姿勢の問題が「ない」にも関わらず、マニュアルのアップデート、つまり仕事の客観化ができていないのであれば、それは職場や外部環境に問題があると考えるべきです。

3.引き継ぎの中身が問題

では、マニュアルが最新の状態になっていれば、何も問題がないかというと、そうではないケースもあります。引き継ぎというのは、本来は業務マニュアルを渡して、そこに現在進行形の問題についての説明を加えれば済むはずです。ですが、実際はそうではありません。マニュアルに書いていないこと、書けないことがある場合、その説明に時間がかかるという問題があります。

もしも、この「マニュアルに書けないこと」というのがあるのであれば、これは大きな問題です。何が問題かというと、2点、つまり「反社会的なこと」と「改革や改善に逆行すること」だからです。

日本の企業は相当に規模の大きい会社でも、様々な脱法行為を働いています。例えば、今はかなり難しくなりましたが、つい数年前までは「1ヶ月30時間を超えたら、働いても残業手当の申請は自粛」などという話は、ザラにあったわけです。また経営者の報酬を決めるのは、「本当は社外役員による報酬委員会」のはずなのですが、経営者自身が「来年のオレの報酬はこんな金額になってもおかしくないだろ」みたいなことを事務方に言ってくると、事務の方が色々根回して頭下げたりみたいなこともあるわけです。

もっと言えば、反社会勢力の発行する雑誌に広告を出すよう脅されて、それが切れないとか、社員に慰労会の大盤振る舞いをしておいて、税務調査が怖いので色々偽装をするとか、コンプライアンス重視という掛け声の裏で、結構反社会的なこと、あんまり胸を張っては言えないこと、を抱えているのです。

非上場のオーナー企業で、オーナー一族には管理部門がコッソリ便宜を図っていたりというような話も、担当から担当にコッソリと引き継がれます。そうした部分というのは、業務マニュアルには書けません。ですから口頭での「引き継ぎ」になるわけです。

反社会的ではなくても、例えば「この資材管理システムは、データーベースを2種類持っていて非効率」だが、それは昔からの経緯で、「F社とN社とのしがらみ」があるので、一本化できないなどという、トホホな話もあります。このような事例の場合は業務引き継ぎの中で「2種類のデータベースがあって面倒だけど、昔からの経緯があるので諦めなさい」みたいな話が引き継がれるわけです。

あるいは、2種類のデータベースを運用する場合に、トラブルにならないための微妙な運用のさじ加減みたいな点を、必死になって引き継ぎ、それを覚えるというようなこともあるはずです。

ということは、引き継ぎの中身というのは「反社会的と言われても仕方がないので、マニュアルに書けない」実務について、コッソリと口頭で延々とそれを継承する、とか、「あまりに古臭くて改善すべき」だが「しがらみがあるので改善は無理、だからこうしなさい」といった内容、つまり「反社会的で、反改革であるような業務姿勢」を「続ける」ためのコミュニケーションをやっているわけです。

こうなると、引き継ぎということ自体が、会社が良い方向に変わるチャンスを潰している、あるいは会社の良くない「闇」の部分を、口頭でコッソリそのまま変えずに伝えるというようなことをやっていることになります。

いずれにしても、この年度替わりの季節、多くの官庁や企業で「業務の引き継ぎ」が行われていると思います。一見すると、重要な仕事に見えますが、そこに仕事の進め方の問題点が浮き彫りになっている、その点を見逃してはダメだと思います。

ちなみに、欧米やアジアの企業では、多くの場合、業務引き継ぎは行いません。理由としては「辞める人間にマトモな引き継ぎは期待しない」とか、「新任者には、自分の知識と経験による自由裁量が期待されているから」ということがあります。

重要なのは後者で、スキルや経験を評価されて転職し、あるポジションに就いた場合には、そのスキルや経験を生かした業務が期待されるのであって、そのポジションの前任者からの引き継ぎなどは、むしろ必要ないという考え方を取る会社が多いのです。

この点から考えても、日本の組織が「真面目に業務引き継ぎをやっている」というのは、それ自体が結構ガラパゴスなのかもしれません。

image by: Shutterstock.com

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