日本だけではなく、世界中で新型コロナウイルスが経済活動に大きな影響を及ぼしています。休業要請や外出自粛が叫ばれる中、倒産にまで追い込まれる企業がいる一方で、この時期に売上を伸ばす企業もあるのです。今回はその中からドラッグ業界をピックアップ。株式アナリストとして個別銘柄・市況の分析を行う馬渕磨理子さんが、コロナ状況下におけるドラッグストア業界の動向を追っていきます。

プロフィール:馬渕 磨理子(まぶち・まりこ)
京都大学公共政策大学院、修士過程を修了。フィスコ企業リサーチレポーターとして、個別銘柄の分析を行う。認定テクニカルアナリスト(CMTA®)。全国各地で登壇、日経CNBC出演、プレジデント、SPA!など多数メディア掲載の実績を持つ。また、ベンチャー企業でマーケティング・未上場企業のアナリスト業務を担当するパラレルキャリア。大学時代は国際政治学を専攻し、ミス同志社を受賞。
Twitter https://twitter.com/marikomabuchi

コロナは特需となったのか? 打撃となったのか?

新型コロナウイルスがドラッグストア企業の業績に大きな影響を及ぼしています。ドラッグストアはコロナによる『特需・打撃』どちらにも直面している業界といえるでしょう。

新型コロナの感染拡大により、マスクや除菌関連商品、トイレロールやティッシュペーパーなどの販売が大きく伸長しているので、ドラッグストアには業績堅調なイメージがあるかもしれませんが、今までドラッグストア業界を支えてきたインバウンド需要が大きく落ち込んでいるのです。さらに、新型コロナウイルスの影響により、臨時休業や開店時期を延期するケースも出ています。

ドラッグストアと聞いて、真っ先に浮かぶお店はなんでしょうか。都心部に住む方なら、「マツモトキヨシ」を挙げる人は少なくないでしょう。しかし、ドラッグストア業界売上1位がマツモトキヨシかというと、そうではありません。マツモトキヨシは、1994年度から2015年度まで20年以上にわたって業界の売り上げ首位を走り続けてきましたが、その座を譲っています。

2020年4月時点では1位がウエルシアホールディングス、2位はツルハホールディングスとなっています。現在マツモトキヨシは業界5位に甘んじていますが、7位のココカラファインと2021年10月に経営統合の予定。これによって売上高1兆円越えとなり、再び業界トップに躍り出ることになるとみられています。

しかし、そこへやってきたのが新型コロナウイルスによる大打撃。業界再編で王者に返り咲くと予想されるマツモトキヨシですが、マイナスの影響を大きく受けています。

ドラッグストア業界の既存店売上高比較

コロナの影響が出始める以前の1月と、コロナの影響が出始めた2月〜3月の既存店売上高を比較します。(対前年同月比)

●ウエルシアホールディングス:調剤特化
1月 +4.1%(物販は+2.3%、調剤は+12.7%)
2月 +20.6%(物販は+20.8%、調剤は+19.4%)
3月 +6.1%  (物販は+4.4%、調剤は+13.7%)

●ツルハホールディングス:食品を強化?
1月  -0.3%
2月  +7.1%
3月  +14.5%

●ココカラファイン:化粧品+調剤特化
1月 +1.4%
2月 +9.9%
3月 -6.9%

●マツモトキヨシ:化粧品特化
1月  +3.4%
2月  +8.0%
3月  -10.6%

ウエルシアホールディングス、ツルハホールディングスは2月〜3月、新型コロナウイルスの影響でマスクをはじめ医薬品や日用品などの売れ行きが好調です。一方、インバウンドの売上高が大きいマツモトキヨシの2月度の既存店売上高は8.0%増にとどまっています。新型コロナウイルスによる出入国制限等の影響により、免税全店の売上高が50%強減少しています。

特需・打撃ともに、コロナの影響を受けている波乱のドラッグストア業界はこの先どうなるのでしょうか?各ドラッグストアの特徴を見ていきましょう。

調剤に特徴を持つ「ウエルシア」

ウエルシアはイオンから50%超えの出資を受けている、イオン系のドラッグストアです。同社の特徴は調剤の売上が17%、医薬品が21%、食品が22%の割合を占めており、食品を強みとしながら、調剤を扱う点が特徴です。肉、お酒、食品の品揃えは、スーパーやコンビニエンスストアと遜色はありません。

しかし、スーパーとコンビニとの違いは、市販の医薬品だけでなく病院の処方箋も受け付ける調剤併設薬局がウエルシアにあることです。業界再編前の現在、1位であるウエルシアですが、マツモトキヨシとココカラファインの経営統合により、売上高に差を付けられることになります。当然、ウエルシアも次なるM&Aの戦略を考えていることが予想されるので、今後の動向に注目です。

馬渕図①_ウエルシア

食品の割合が多い「ツルハホールディングス」

北海道を地盤とするツルハホールディングスは、巧みなM&Aにより南下し、北海道から九州まで全国に2082店舗(2019年5月期末時点)を展開しています。セグメント別の売上高の割合を見てみると、日用雑貨>食品>医薬品>化粧品 とバランス良いポートフォリオになっています。

今後の方針として、ドラッグストアや調剤薬局以外の食品スーパーをM&Aする可能性もあるとしています。「良い立地に店舗を展開する食品スーパーを買収する」可能性にも言及していることから、生鮮食品と総菜を扱うドラッグストアの可能性もあるかもしれません。ツルハホールディングスの売上高のセグメント割合を見ても、日用雑貨や食品の存在感が高く、今後、ツルハホールディングスはより一層、食品部門を強化した食品特化型の特色を持つドラッグストアの道を歩む可能性があります。巧みなM&Aを得意とする同社ですが、こちらも、次なるM&A先が気になります。

馬渕図②_ツルハ

化粧品が40%を占める「マツモトキヨシ」

マツモトキヨシはプライベートブランド開発を行い、差別化を行ってきました。それがはっきりとセグメント別売上高に反映。化粧品が40%を占めています。この部分を支えてきたのがインバウンド需要です。今回のコロナショックにより、この部分に影響がダイレクトに出ているのです。

馬渕図③_マツキヨ

マツモトキヨシのプライベートブランドは、包装デザインや機能を重視した医薬品や日用品の「matsukiyo」、化粧品「アルジェラン」など、ラインナップを拡充させてきました。今や、同社のプライベートブランドの売上高構成比率は11%にまで成長しています。対する、ウエルシアHDのプライベートブランドは5.6%、ツルハHDは6.4%です。

そして、特に驚いたのは、その品質です。matsukiyoが開発した保湿クリーム「ヒルメナイド油性クリーム」は、皮膚科で処方してもらえる「ヒルロイド」と同成分が含まれています。ヒルロイドは美容目的で一度に50本以上処方されるケースもあり、現在、厚労省が保険適用外の検討をしているほど人気ぶり。このヒルロイドと同じ成分のものを、マツモトキヨシはプライベートブランドとして開発しているのです。

その背景にあるのは、アジアからの訪日客も含めた延べ6千万人超の顧客データを徹底的に分析していること。今後、このインバウンド需要の落ち込みがどの程度回復するかがカギとなりそうです。

「モテる」ココカラファインの特徴

ここ数年、ドラッグストア業界では業界5位のマツモトキヨシと業界6位スギHDのココカラファインをめぐる争奪戦が話題になりましたが、軍配はマツキヨHDにあがりました。今後はその影響が大きく出てくるでしょう。では、なぜココカラファインはこんなに「モテる」のでしょうか。

馬渕図④_ココカラ

理由は大きく3つあります。

1つ目は、調剤薬局の店舗比率。
ココカラファインは、ドラッグストアの中でも調剤の比率が高いことで知られています。一方、マツモトキヨシは、プライベートブランド開発にあたり、二千数百万人の会員情報を活用していることでも有名です。マツモトキヨシは、自社が持つ顧客データと、ココカラファインの調剤を組み合わせてシナジーを起こそうとしているのです。

2つ目は、展開エリア。
ココカラファインは関西地方に強く、マツモトキヨシは関東が地盤。互いに補完し合える関係です。これならカニバリズムが起きません。西のココカラ、東のマツキヨ。マツキヨが成長を狙うならばどうしても欲しかった理由がわかるでしょう。

3つ目は、総合力強化。
マツモトキヨシは、プライベートブランド商品の取り扱いを自店舗に限らず、食品スーパーなど300店に供給しています。ドラッグストア業界において、今後生き残る道は、総合力を身につけるか、特化型になるかですが、マツモトキヨシは総合力を高める方向で進んでいます。

調剤薬局もでき、プライベートブランドで差別化ができ、食品分野へも進出する。このように総合的に戦える手段を持てば、店舗の大型化も進めやすくなります。これを備えているのがココカラファインだったのです。マツキヨはここから、売上高1兆円企業となり、販売力を加速させることになるでしょう。

ドラッグストアは3強時代へ

マツモトキヨシ無事に王者に返り咲くことができるのでしょうか?まさに3強の時代に突入のドラッグストア業界。市場規模7兆円を超え、戦国時代のドラッグストア業界を生き抜くのは、どの企業なのか?そして、新型コロナウイルスによる大打撃に打ち勝つのはどこなのか?それを今後もきちんと見守っていきたいと思います。

image by: 著者提供

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