日本の「子育て」が変わってきている。細田守監督が描いたイマドキ家族の日常

『サマーウォーズ』『バケモノの子』の細田守監督が手がける、3年ぶりの新作映画『未来のミライ』が7月20日より公開。近年、家族をモチーフにした作品が多い細田監督ですが、今回はなんと4歳の男の子が主人公という冒険的な作品。変わりつつある「日本人の育児」にも触れられたこの異色の新作アニメについてMAG2 NEWSが細田監督を直撃取材してきました。なんでも監督自身も二児の父親でその苦労も作品に反映されているのだとか。

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『未来のミライ』は横浜市磯子区付近の住宅地で暮らす一家の物語。甘えん坊のくんちゃん(声・上白石萌歌)に、妹が誕生。最初は大喜びのくんちゃんでしたが、両親の愛情を奪われたと思い、戸惑いの日々。そんなところに、未来からやってきたという妹・ミライちゃんと出会い、時を超えた不思議な冒険へ…。主題歌は、山下達郎。完成前から世界公開が決まり、今年5月のカンヌ国際映画祭監督週間にも選出された話題のアニメーション作品です。

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──私には5歳下の弟がいるのですが、弟が生まれた時は、くんちゃんと同じような思いを持ちました。ただ、今は監督と同年代で、ひとり娘がいますので、ついつい親の目線で見てしまいます。おとうさんが涙ぐむシーンにグッときてしまいました。映画は、家と庭という小さな場所を舞台に、時間軸を旅するという仕立てが面白かったですが、物語の着想はどこから得たのでしょうか?

細田監督:いま、うちの子供は5歳の男の子と2歳の女の子なんですけども、下の女の子が生まれた時に、上の子は妹に親の愛を奪われたような気持ちになったんです。やっぱり、人間にとって愛というのは大事なんだな、愛を失った人間は床にひっくり返るものなんだな、と思ったんです。これが人間の本質なんですよ。子供を通して、人間なり、人生なりが描けると思ったんです。

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──未来から妹がやってくる、という設定はどこからうまれたのでしょうか?

細田監督:うちの息子が「夢で、大きくなった“妹”に会ったよ」と言ったんです。男親としては、成長した娘に会いたいな、どんな女性に育つんだろうと思うわけです。でも、子供の夢の中には入っていけないので、映画の中でこんな感じかなと描いてみました。妻に「大きくなった娘を見たいよね?」と聞いたら、「いや、私はゆっくりでいいよ」と言われてしまいました(苦笑)。これも映画のセリフとしてそのまま取り入れました(笑)。

──しかし、4歳の子供を主人公にする、というのは冒険ですよね。

細田監督:そうですね。カンヌに行ったときに、「発達心理学とか児童心理学の本を読んだり、そういう人の監修を受けたりしましたか?」と聞かれたんですが、そんなことはしていません。自分の子供を育てていますからね。

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──「好きくない」とか、くんちゃんのセリフがリアルですね。あるシーンで、散らかっている方が面白いから、とおもちゃ箱をひっくり返して部屋をグチャグチャにします。あれは実体験ですか?

細田監督:そうです(笑)。たとえば、休みの日には朝から延々と電車のおもちゃを敷き詰めて、グッチャグチャにして、そのまま寝るわけです。夜、夫婦でそれを片付けていました(笑)。毎日、作っては壊し、作っては壊すの、繰り返しなんですよ。叱って、社会性を獲得させるというのも大事なことかもしれませんが、子供らしいことを否定していくのは、もったいないような気もするんです。どうせ、大きくなったら、ちゃんと片付けるわけですから。子供の時くらい、散らかしてもいいんじゃないかな。そういうことは一瞬だとすれば、子供らしさがすごく愛しく思えてしまうんです。あとあと、この瞬間が幸せな時間になるのかな、と思うと、あんまり強く言えない。どうですか?(笑)

──ハハハ。うちの娘は大学生ですが、確かに、小学校に上がる前くらいが一番かわいい時期でしたね(笑)。星野源さんが声を演じた“おとうさん” は監督の姿が投影されていると思っていいですか?

細田監督:人によっては、「情けない」「頼りがいがない」と見えるかもしれませんが、昭和の時代の“お父さん然”とはしたくなかったんです。僕は1967年生まれ、ちょうど50ですけども、子供の頃というのは、家とか家族が決まった形というのがあって、お父さんが働いていて、お母さんが家事をやって、きょうだいは2人以上いて…といった感じでした。僕はひとりっ子だったのですが、当時は「ひとりっ子、変わっている」といじめられたりもしたんですよ。でも今ではひとりっ子は珍しくなくなりました。こんな感じで家族の形はどんどん変わってきています。だから、決まったお父さん像もないと思うんです。それから、今のお父さんは、「役割を演じる」というある種の束縛から解放されている気もします。一方、「仕事をしている自分」「お父さんでいる自分」「夫でいる自分」で揺れ動いています。そんな「おとうさん」を星野さんがうまく演じてくれました。今のお父さんの生活感や存在感みたいなものを表しているので、ビックリしました。星野さんって子供いたっけ? と思うくらい。実際はいなんですけども。すごい表現者だなと。

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──奥さんから「カッコだけじゃなくて、ちゃんとやってもらわないと」と言われた時のリアクションとか、最高です(笑)。あのセリフは身につまされます(笑)。でも、映画のおとうさんは家事をこなしている方だと思いますよ。

細田監督:今はよくやっていると言われるけども、もう2、3年経ったら当たり前になっていくかもしれません。僕が6年前に『おおかみこどもの雨と雪』を作った時は、抱っこ紐をつけたお父さんはあまり見なかったんですけども、今ではいろんなところで見ます。それに昔はよく出ていた「イクメン」という言葉もそういえば聞かなくなりましたね。そんなことを見越して、少し多めに(家事を)やらせているところもあります。

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──物語の舞台は横浜・磯子区だそうですが、この場所も大事な意味があるんですよね?

細田監督:はい。横浜というのは、日本で真っ先に近代化していった場所です。終戦戦後から1年経った1946年、国道16号が海岸線を走っていて、そこを埋め立てし、重工業地帯や湾岸道路ができて、重工業地帯に勤めている人の住宅が磯子の崖の上にできたんです。そういう歴史を踏まえた上で、新しい家族像を描くときにこんなにふさわしい場所はないと思いました。くんちゃんが自転車の練習をする場所は、根岸競馬場の跡地。日本で最初の競馬場で、その建物が今も見ることができる。そういう点でも面白い場所なんです。

──くんちゃんのおとうさんは建築家という設定ですが、家のデザインも素敵でした。家族が増えたことで、家を建て替えたというのも面白いですね。

細田監督:家族観が変化している姿を描くのに、家が伝統的なものではおかしいと思ったんです。3LDKの建売じゃなくて、特別な家が必要だと感じました。普通、家のデザインは美術監督にお願いするんですけども、今回は実際の建築家の谷尻誠さんにお願いしました。谷尻さんとは、家族の問題意識、家族構成に合うように話し合いを重ねながら、自分が施主となってデザインを作っていただきました。現場では「段差の家」と呼んでいますが、仕切りがなく、段差によって家の機能を分けています。それが大きく見ると階段のように見え、坂道の多い横浜にもぴったり来る。実際に建てることもできるんですけども、それには同じ傾斜の土地を見つけなければいけないんです。それが難しいかも(笑)。

──映画では、鉄道が登場するシーンが多数出てきますが、これは監督のお父様が地方鉄道の職員だったことが関係しているのでしょうか?

細田監督:子供の頃は普通に電車のおもちゃで遊んでいましたけども、僕は鉄道ファンではないんです。この映画で、鉄道の描写がとても多いのは、子供の影響です。電車の本をねだられて買い、読み聞かせをしていると、自然と型番にも詳しくなるんです(笑)。京浜東北線は209系だな、とかね。あと、昭和の京浜東北線、山の手線の車両はどんどん地方に行くんですよ。こないだまで、大阪の環状線を走っていたのは、古い103系だったけかな? 203系だったかな? そんなことが、子供向けの本に書いてあるんです(笑)。これを話し始めると、映画の話ができずにこの話だけで終わってしまいますね(笑)。

取材・文/平辻哲也
撮影/松浦文生

 

細田守(HOSODA MAMORU)
1967年生まれ、富山県出身。1991年に東映動画(現・東映アニメーション)に入社。アニメーターを経て、1997年にTVアニメ「ゲゲゲの鬼太郎 (第4期)」で演出家に。1999年に『劇場版デジモンアドベンチャー』で映画監督デビュー。その後、フリーとなり、2006年の『時をかける少女』が記録的なロングラン。2009年に監督自身初となるオリジナル作品『サマーウォーズ』を発表。2011年に自身のアニメーション映画制作会社「スタジオ地図」を設立し、『おおかみこどもの雨と雪』(12)、『バケモノの子』(15)と3年おきに話題作を送り出し、国内外で高い評価を得ている。最新作『未来のミライ』は第71回カンヌ国際映画祭・監督週間に選出された。

 

Information

『未来のミライ』
7月20日(金)より、全国東宝系にて公開

監督・脚本・原作:細田守
声の出演:上白石萌歌、黒木華、星野源、麻生久美子ほか
配給:東宝
(C)2018 スタジオ地図

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