「悪循環を避けるにはロックダウンしかない理由」、「緊急事態宣言も強制力なし。台湾式リーダーシップを」など、感染症対策に関し、一貫した主張を続ける危機管理の専門家で軍事アナリストの小川和久さん。主宰するメルマガ『NEWSを疑え!』で、読売新聞に掲載された学者2人のロックダウンへの認識不足を正します。今回の日本の取り組みでは終息に導けなかった事実と、徹底したロックダウンで感染を抑え込んだ台湾の取り組みを教訓に、次なる感染症への備えとして、ロックダウンの目的と位置づけを明確にする必要があると訴えています。

一般論でロックダウンを語るな

4月30日付の読売新聞朝刊の「論点スペシャル」に、コロナ対策について3人の論者のコメントが掲載されました。篠田英朗氏(東京外国語大学教授)、細谷雄一氏(慶應義塾大学教授)、野口元郎氏(弁護士)という顔ぶれで、いずれも日本を代表する知識人です。

楽しみにしながら読み進んだのですが、細谷氏のところでロックダウン(都市封鎖など)について整理が必要な見解にぶつかってしまいました。細谷氏は言います。

「“劇薬”であるロックダウンは短期的収束のケースには向いているが、長期化すると経済は疲弊し、自由を求める市民の反動が起きる」   「法制上、ロックダウンができない我が国の自主的行動変容を求めるやり方は、生ぬるく見えるが、比較的問題は少なく、持続可能なコロナ対策と言える」

篠田氏も似たような見解を示しています。

「欧米をまねてロックダウンすべきだと批判する声もあるが、日本は日本のやり方でやってきた。世界最高水準とはとても言えないが、死者数などを欧米に比べ相当に抑え込んでいる。卑下するよりも、特性をいかすことを考えた方がいい。   日本モデルの最大の課題は、その特徴を把握する『意識化』がされていないことだ。せめて政治家はモデルの強みと弱みをきちんと認識し、地道に努力している人々を戦略的に支援してほしい」

以上の見解は、ロックダウンを事態終息への取り組みの中に適切に位置づけていない点で、日本政府の対応や国民一般の認識と同様の一般論でしかありません。

なんのためのロックダウンなのでしょうか。目的ははっきりしています。終息が遅れるほどに医療崩壊が起き、経済活動の低迷により財政逼迫につながり、補償どころではなくなる恐れがあるからですが、それだけではありません。国民の生命に関わる危機はコロナだけではないからです。いつ大規模災害が起きるかもしれず、日本周辺海域で小規模な武力衝突が起きる可能性も皆無ではありません。感染拡大のうえに緊急事態が重なったら、目も当てられないことは言うまでもないことです。

このように考えれば、国民に不自由な生活を強いたり、経済活動を休止させたりする期間を極力短くし、一気に感染を抑制していく取り組みがロックダウンなのだと理解できるでしょう。

むろん、都市封鎖と言っても生活必需品の買い出しや散歩、ジョギング、在宅勤務できない業務の通勤などは許可証によって認められますし、重要インフラや物流なども確保されます。これを徹底すれば、それこそ1〜2か月ほどで収束の兆しを掴み、段階的にではあっても経済活動を再開することが可能になるでしょう。そのためには一定の罰則を設けることも避けられません。

実を言えば、5月5日の時点で感染者438人、死者6人とコロナの抑制に成功している台湾は、言葉こそ使っていないものの、国全体をロックダウン同様にして大きな成果を挙げているのです。

いち早く外国からの入国を遮断し、帰国者や感染者の自宅隔離のケースについては携帯電話のGPS機能を使って管理し、違反者には日本円で360万円の罰金を科しています。違反者が公共交通機関を利用した場合は720万円の罰金というのですから、違反者が出ないのも道理です。

台湾政府のナンバー2である陳建仁副総統は、公衆衛生学の専門家として重症急性呼吸器症候群(SARS)に対処した経験者です。そこまで徹底しないと、医療崩壊を防ぎ、速やかに国民の自由を回復し、経済活動を再開することは難しいとの認識から、上記のような基本方針を打ち出したのです。

細谷、篠田両氏が言うように、日本独自のやり方を追求するのはよいことです。しかし、それは日本方式のロックダウンから始めるべきものです。感染拡大を断ち切らなければ、どんな妙薬も効果を発揮しないことを忘れてはなりません。

3人の論者のうちで野口氏だけは、基本的に私と同じ見解を示しています。

「新型コロナウイルスは、我々が考えているよりはるかに危険で深刻かもしれない。医療現場から日々発せられる悲鳴にも似た警告を聞くと、これは人類にとって未曽有の危機である。拡大を防ぎ、早急に封じ込めるためには、一定の時間、全国民ができることを全てやることが必須であろう。そのためには、強制力をもってでも執行(エンフォース)するという不退転の決意を政府が国民に示すことが必要ではないか」

いま必要なのは、これまでの取り組みから教訓を学び取り、ロックダウンについても目的と位置づけを明確にする中で、次なる感染の拡大や新たな感染症への対策を向上させていくことだと思います。(小川和久)

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