2名が死亡し4名が安否不明、15県で100名以上の怪我人を出すなど、各地に大きな被害をもたらした台風10号。気象庁のこれまでにない注意喚起の呼びかけに多くの方が避難行動を取りましたが、予告されていた「特別警報」に至らなかったこと、予測より発達しなかったことについて一部で批判的な意見が聞かれ、気象予報士が謝罪するという「異常事態」も見られています。この状況に異を唱えるのは、「ニュースステーション」に気象予報士として出演していた健康社会学者の河合薫さん。河合さんは自身のメルマガ『デキる男は尻がイイ−河合薫の『社会の窓』』で今回、天気予報の役割が防災である以上、決して空振りを恐れてはいけないと強く主張しています。

「空振り」したっていいじゃない〜

気象庁が「特別警報」を予告し、最大級の警戒を求めた台風10号は各地に暴風や猛烈な雨をもたらし、停電や家屋の損壊に加え、避難所の窓ガラスが割れるなど、被害が相次ぎました。

私は1994年に気象予報士第一号となって以来、何度も気象庁が行う台風会見を見てきました。しかし、今回ほど切迫した緊急記者会見を見たのは初めてです。近年、自然災害が増え、たくさんの大切な命が奪われているので、おそらく気象庁のみなさんは「とにかく命を守ってほしい」という願いを込めて、早くから警戒を呼びかけたのだと思います。

九州の人たちも、ここ数年、さまざまな地域で台風の暴風や突風で屋根が飛ばされたり、電柱が倒れたり、河川が氾濫し家が流されたり、土砂崩れで家が潰れたりする被害をメディアを通じて見ていたので、気象庁の呼びかけを真摯に受け止め、積極的に避難しました。

その様子はメディアでもくりかえし伝えられていましたが、これだけの人たちが避難したのも初めてだったのではないでしょうか。

今回話題となった「特別警報」は、2013年8月30日から運用が始まりました。

1万8,000人以上の死者・行方不明者を出した東日本大震災における大津波 5,000人以上の死者・行方不明者を出した「伊勢湾台風」の高潮 紀伊半島に甚大な被害をもたらし、100人近い死者・行方不明者を出した「平成23年台風第12号」の大雨

などの気象現象が予想される場合に発令されます。

台風10号は、水温がかなり高い海域を北上することが予想されていたため、気象庁は「特別警報発令」の可能性が高いと判断したのです。

しかし、台風が通り過ぎてみれば予想したほど台風は発達せず、「特別警報」の発表には至りませんでした。というか、そもそも「予報」なので空振りはつきものです。「見逃し」は甚大な被害をもたらしますが、「空振り」は「思ったほどじゃなかったね」で終わるだけ。

天気予報の役割が「防災」であることを鑑みれば、空振りを恐れないことが基本なのです。

ところが、なんとテレビでは気象予報士の人が、「予想より発達しなかった理由」をばつが悪そうに説明したり、謝っていました。

これって…何なのでしょうか?

もちろん過剰に不安をあおるような「予報」はだすべきではありません。しかし、台風予報はほんの少しコースがずれるだけで、風の強さも雨の強さも大きく変わります。

そういったありとあらゆる可能性を、気象庁の人たちはスーパーコンピューターの予測、海外の気象庁の予測、実況、さらには、長年予報業務に携わる中で培われた暗黙知を駆使して、「そのとき最良だと思われる予報」を発表するのです。

もっとも、予想より発達しなかった可能性を考えることは重要だし、予報の空振り率の検証作業も必要でしょう。そういった積み重ねが、次の予測の精度向上にもつながっていくことも確かです。

でも、「予想より発達しなかった」からといって、なぜ、謝る必要があるのか。

私には全く理解できません。

この数年起きた気象災害の多くは、「出し遅れ」によるものなので、気象庁はあえて早くから「危険」を訴えた。そもそも最近は過去の経験やデータからは、予測できない気象現象が増えているのですから、「最悪の事態」を考えて当たり前なのです。

「特別警報」予告が見送りになったことで、一部の人たちから「予想が外れることがあることを、きちんと伝えた上で注意を促すべきでは?」という意見が出ていましたが、そういったエクスキューズが、避難の遅れにつながるのです。

昨年、各地に猛威を振るった台風19号を覚えていますか?

台風19号では、7県の59河川90カ所で堤防が決壊し、洪水や土砂に襲われ亡くなった人が続出しました。この台風が襲来する前、気象庁は「狩野川台風並み」と注意喚起していたので、本来であれば河川氾濫の怖さと被害に備えるべきでした。

ところが、その数週間前の台風15号が千葉県にもたらした被害の多くが暴風によるものだったことで、バイアスがかかった。長時間かつ広範囲にわたる停電や断水、なぎ倒された鉄柱や、倒壊したゴルフ練習場の鉄柱に押しつぶされた民家といった映像や情報が知らず知らずにインプットされていたため、「暴風」への警戒ばかりがテレビでもSNSでも先行しました。

バイアスの一つである、「想起ヒューリスティック(利用可能性ヒューリスティ
ック、想起しやすい情報を優先して判断してしまうこと)」の罠にはまってしまったのです。

その結果、警報の出し遅れが相次ぎ、被害は拡大しました。

「心はバイアスから逃れられない」という本質的特徴を、人はもっている。であるからして、「空振り」を決しておそれてはいけないのです。

そして、「私たち」も、「思ったほどじゃなかったね。よかったよかった」と受け止めるマインドを鍛えなくてはいけないのです。

みなさんの意見もお聞かせください。

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