アメリカによる革命防衛隊司令官殺害の報復として、イラクの米軍駐留基地にミサイル攻撃を行ったイラン。トランプ大統領の対応を、世界が固唾を飲んで見守りましたが、開戦という最悪の事態は免れたようです。しかし「状況は予断を許さない」とするのは、国際関係ジャーナリストの北野幸伯さん。北野さんは自身の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』で今回、そう判断する理由を冷静な筆致で記しています。

イランが米軍基地をミサイル攻撃!どうなる?

1月3日、米軍は、イランのソレイマニ司令官を殺害しました。これに対してイランは1月7日、イラク国内の米軍基地をミサイル攻撃しました。

米国防総省「ミサイル、十数発以上」 死傷者有無は不明 大規模衝突の懸念も

毎日新聞 1/8(水)11:04配信

 

米国防総省は7日、イラク国内で米軍と有志連合が駐留する複数の基地に向け、現地時間8日午前1時半(日本時間同7時半)に「イランから十数発以上の弾道ミサイルが発射された」と発表した。死傷者の有無は不明。被害状況の把握を進めているとしている。国営イラン放送もイラン革命防衛隊が声明を発表し、ソレイマニ司令官殺害に対する報復として、米軍基地へのミサイル攻撃を実施したと報じた。

もう少し具体的に。

米国防総省によると、ミサイル攻撃の標的となったのはイラク西部のアサド空軍基地や北部アルビルの基地。直近の情勢を受けて基地内は「高いレベルの警戒態勢が敷かれていた」としている。
(同上)

この攻撃について、面白い事実があります。イランは、「この攻撃で米国のテロリストが少なくとも80人死んだ」と発表しました。一方でアメリカは、「死者はゼロだった!」と発表した。イランについてはわかるでしょう?イランは、国民に、「ソレイマニ司令官の報復を立派にやった!」と見せかける必要がある。

わかりづらいのはアメリカです。イランがわざわざ「80人殺した!」と宣言している。もしトランプがイランと戦争をしたいなら、こんな都合のいいシチュエーションはありません。「リメンバー・イラク!!!」といって大騒ぎすれば、あまり抵抗もなく、速やかにイラン戦争を開始できるでしょう?ところがアメリカは、「死者はゼロ」といって、穏やかに対応している。これは何でしょうか?

「トランプが追い詰め核保有宣言。イランの北朝鮮化で近づく終末」にも書きました。トランプはあまり考えずにイラン核合意を離脱した。しかし、戦争は望んでいないのです。その証拠に昨年9月、トランプは、イランとの和解案を作成していた。「トランプが追い詰め核保有宣言。イランの北朝鮮化で近づく終末」から引用してみましょう。

トランプは、昨年9月に、これと同様の提案をイランにする準備をしていました。

 

米、原油禁輸で適用除外検討 対イラン、核で譲歩狙う

共同 2019年9/14(土)17:57配信

 

【ワシントン共同】トランプ米政権が、イラン産原油の禁輸措置について一部の国・地域の適用除外を復活させる案の検討を始めたことが13日分かった。米政府関係者が共同通信に明らかにした。離脱したイラン核合意に代わる新たな合意を目指す米政権は、イラン経済の生命線である原油への締め付けを緩め、核・ミサイル問題で譲歩を引き出す狙いとみられる。

 

ところが、この情報が出た翌日、サウジアラビアの石油施設が攻撃され、この話は消えた。トランプは、平和を願っているが、そうさせない勢力がいる。

同盟国サウジの石油施設が攻撃された。イエメンのフーシ派が、犯行声明を出した。ところがアメリカ政府は、「これはイランの仕業だ!」と宣言した。つまり、イランは、アメリカの同盟国を攻撃し、経済基盤の中枢を破壊した。これは、完全に「集団自衛権行使案件」で、アメリカが望めば即座にイラン戦争を始めることができた。しかし、トランプは、イラン戦争をはじめませんでした。

今回の件。「米軍基地に弾道ミサイルが撃ち込まれた」。衝撃的な事件といえるでしょう。しかし、トランプの反応は、非常に抑制的でした。

トランプ氏、対イラン戦争回避の姿勢 基地攻撃で死者出ず

1/9(木)1:40配信

 

【AFP=時事】(更新)イランがイラクの米軍駐留基地をミサイルで攻撃したことを受けて、ドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領は8日、ホワイトハウス(White House)で演説し、攻撃により米国人やイラク人の死者は出ず、イランは「身を引いているようだ」と述べて、同国との戦争を回避する姿勢を示した。

トランプ氏は「わが国の兵士は全員無事であり、われわれの軍事基地における被害は最小限にとどまった。われらが偉大なる米軍は、何に対しても備えができている」と述べた。また「イランは身を引いているようだ。これは全当事者にとって良いことであり、世界にとって非常に良いことだ。米国人やイラク人の命は失われなかった」と話した。トランプ氏は、イランに対して直ちに「厳しい追加制裁」を科すと表明したが、7日のミサイル攻撃に対する報復の可能性については言及しなかった。
(同上)

米軍基地へのミサイル攻撃に対し、直接的な報復はしないようです。これは、「驚くべき反応」といえるでしょう。

ブッシュ(子)時代とトランプ時代の違い

ブッシュ(子)の時代、アメリカは、「2016年に自国の石油が枯渇する」という予測に怯えていました。それで、ウソをついても、中東支配を進めなければならなかった。ところが、今は全然状況が違います。トランプは、こんなこともいいました。

トランプ氏は、自身の経済政策により中東の石油への米国の依存度が低下し、中東での米政府の「戦略上の優先事項」が変わったと説明。
(同上)

いつものように「自画自賛」(ウソ)していますが。ですが、「戦略上の優先順位が変わった」ことは間違いありません。トランプのおかげで変わったのではなく、オバマ時代の「シェール革命」で変わったのです。これで、アメリカは世界一の産油国、産ガス国になり、もはや石油枯渇を心配する必要がなくなった。結果、アメリカにとって「資源がたっぷりある」中東は、もはや戦略上の「最重要地域」ではなくなった。だから、「イランと戦争するなんて、命と金の無駄」ということなのでしょう

問題は、解任されたボルトンさんに代表されるネオコンが、イランとの戦争を欲している。この辺の駆け引きがあるので、どっちに転ぶのか読みづらくなっています。

ソレイマニ殺害の本当の悪影響

今回の危機は、戦争したくないトランプの決断で、沈静化しそうになってきました。しかし、ソレイマニ殺害の本当の悪影響は残ります。それは、イランが、「核合意をもはや守らない!」と宣言したこと。ウラン濃縮濃度も、「イランの好きなようにやる!」と宣言した。これはつまり、「核兵器開発に邁進する」と解釈されても仕方ありません。

アメリカは、いつまでもこれを放置して、イランが北朝鮮のような核保有国になるのを許してしまうのでしょうか?それとも、核施設を空爆して、イランの核兵器保有を止めるのでしょうか?

危機は、まだまだつづいていきます。

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