儒教文化に根ざした家父長的な伝統儀礼を重んじる意識がまだまだ根強い印象のある韓国社会にも、徐々に変化の兆しが見え始めているようです。今回の無料メルマガ『キムチパワー』では韓国在住歴31年の日本人著者が、「韓国の正月での夫婦のしきたり」に対し沸き起こっているある議論を紹介。そこには家父長最優先の従来の帰省の風景に、バシッとモノ言う韓国女性達のパワフルな姿がありました。

直接話法でものを言う90年代生まれの女性たち

こちら韓国は、お正月は旧正月で行なう。この旧正月をソルという。今年のソルは1月25日。前後2日が休みとなるので代休を含めて24日から27日までが連休となる。元旦の1月1日は、年明けという意味でそれなりの挨拶をするのだけれど、日本でいうお正月の気分は、ソルのときにはじめて湧いてくる。だから、韓国には正月が2回あると言ってもいいわけ。

で、このほんとうの正月つまりソルが近づいてくると、いつも問題、話題になるのが、嫁さんたちの動線。今の50代以上の方々は、名節(ソルのような大きな年中行事。お盆に当たるチュソクなども名節だ)のときには嫁さんは例外なく夫の実家(これを媤家という。発音はシガ)に行って、掃除や料理作りなど女性の仕事をお手伝いすることが当然の決まり、不文律だった。でもここ最近、特に1990年代生まれの女性が結婚し嫁さんになる時代になって、その様相が少しづつ変わり始めている。新しい考えを持つ女性が増えているからだ。伝統的な家父長的文化に対して「そうじゃないでしょ」と直接話法で言い、ジェンダー意識も強い独立独歩型の女性が増えているからだ。これはとてもいいこと!筆者は男であるけれど、韓国の女性を心から応援したいと常々思っている。

実際のありさまをこちらのネットに載った記事などからご紹介したい。90年代生まれのベ・スジさん(仮名・30)は最近、夫と冷ややかな神経戦を繰り広げることになった。昨年12月に結婚したベさん夫婦にとって、今回のソル(=旧正月)は結婚後初めての名節だ。夫は結婚前「名節には公平に両家に一度ずつ行こう」と言った。しかし結婚後、突然「孝子病(ヒョウジャビョン)」の症状を見せ始めた。孝子病とは、結婚後急に自分の親に対して気を使うようになる男(夫)を指す単語だ。

夫はつい先日「うちの母一人で名節の労働をやるのはとても大変だったけど、これからは私たちが助けなければならないね」と言った。ベさんは夫の症状をバシッと直してやった。「死んだ先祖に礼を尽くすために生きている人々が腰が砕けるまで働く文化を変えることこそ、母を助けることよ」と。

2020年になって、1990〜1991年生まれの女性らが30代に入り、一部が結婚をし始め、1990年代生まれの女性らが初めて嫁や「嫁さん予備隊」となって正月を迎えることになった。2010年代半ばから吹き始めたフェミニズムのブームによって、ジェンダー意識が相対的に充満した1990年代生まれの女性らは、韓国の家父長主義的名節の慣習に、気苦労だけしているのではなく、直説話法で問題解決を試みる。

キム・ヒェナ(29)さんは最近、媤家の親たちから「それでも初めての名節なんだから、韓服着て来るんでしょ?」ということばを聞いた。あきれてものも言えなかったが、もっと悔しかったのはそのときの夫の沈黙だった。恋愛期間中は、名節のたびに誰の家に先に行くか相談して決めようよと約束したこともある。なのに、結婚後夫は「ソルの前日の午後にうちに行って1泊し、ソルの朝ご飯を食べて新年のあいさつをしてから午前10時ごろ、君(=妻)の実家に行こうよ」、「君(妻)の実家が地方だからそれでも、母が配慮してくれたんだよ」と恩着せがましくのたもうたのだった。キムさんは「結婚した周りの友達はほとんどが“名節の朝はダンナの家、午後は妻の実家”という動線だ」と言い、「私の両親の家に行くのになぜ“媤家の許可”が必要なのか理解できない」と話した。それだけ媤家の力関係が上という意識があるのである。これがまさに韓国の家父長的世界観だ。ベさんも「媤家が先とか親庭(チンジョン=妻の実家)が先とかいうのは、夫婦関係の不平等性を象徴する」と話した。

贈り物とジェサ(祭祀)もストレスだ。2020年の5月に結婚を控えているシム・ヒェジ(29)さんは、媤家にどんな贈り物を送るべきかこの1か月間ずっと悩んでいる。友達と相談もした。ある人は「イシモチ」を勧め、ある人は「カリグラフィーで書いた手紙とキキョウ精菓」を推薦した。これらは全部韓国の定番の名節プレゼントセットである。シムさんは「夫は、妻の実家のプレゼントになんかこれっぽっちも気にもかけていないけど、私は礼儀正しくセンスのある役割を強要されるミョヌリノリ(ミョヌリは嫁の意で、ノリは振る舞いほどの意。嫁としてのあるべき行動)をしている」と愚痴をこぼした。

キム・ソイ(29)さんはジェサ)の問題をめぐり、「10回以上も」夫と対話したけれどもまだ解決されていない。金さん夫婦は結婚前、家の中の家事を最小限にとどめようと話しあい、主に出前を頼んで食べる。料理は主人が担当している。だからかなり「できた」ダンナといっていいだろう。しかし名節の時は違った。「普段は自分の家でもほとんどしない家事を、なぜ媤家に行って1日中しなければならないのか、考えただけで頭が痛くなります。それに、好きな人も食べる人もいない食べ物(ジェサのときの伝統的料理。最近の女性らはあまり好きではないのだろうか)を習慣的に際限なく作り続けるというのも納得がいかないですよ。しかし夫は状況を傍観するだけです」。

90年代生まれの(予備)嫁さんたちに、「名節に一番聞きたくない言葉はなに?」を聞くと、一様に「子供作り計画はあるのか」という質問だという答えが返ってきた。ベさんは「たまに『それでも息子は一人いないとね』などと言われれるとどんな表情をしたらいいのか、もう気が遠くなるくらい」と話した。

西江(ソガン)大学のある教授(社会学)はこう語る。「90年代生まれの女性たちが不便な慣例や不当な慣習の当事者になり始め、そうした風習に強い疑問を持ち始めた」、「名節の葛藤は60年代生まれの母と90年代生まれの嫁の対立ではなく、家父長制の当事者である舅や夫たちの問題だ。名節の意味や機能に対して強い疑問を持つ若い女性たちが爆発的に登場しているので、『家父長』たちがどんな役割の変化をしなければならないか、深く省察しなければならない時期に来ている」と述べた。

永遠に続くと考えられていた儒教文化に根差した家父長的伝統文化は、それでもこのように少しずつでも変わりつつある。変わらない中心軸のような部分ももちろんあるかと思うけど、時代に合わせて変わっていくべき部分も多分にあろうかと思う。おもしろいのは、変化は決して強引になされるのではなく、力を抜いた状態でも人々の意識が変わることによって「自然に」変わっていくということ。90年代生まれの韓国女性らがどのようにこの世相を変えていってくれるのか。とてもわくわくしながらわたしは見ているのである。今回のコラムの中では、孝子病という単語に注目していただけるとうれしい。韓国独特のキーワードの中の一つといえる。

image by: Shutterstock.com

MAG2 NEWS