米国は、国際基軸通貨国である。その底知れぬ力を見落とすと、中国は「秒殺」の運命を辿る。香港金融市場が、現在の地位を失えば、中国経済も道連れとなるのだ。米国は、この現実をしっかりと把握して手を打っている。(『勝又壽良の経済時評』勝又壽良)

※本記事は有料メルマガ『勝又壽良の経済時評』2020年6月8日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にご購読をどうぞ。当月配信済みのバックナンバーもすぐ読めます。

他国を煽って「愛国心」を高める中国

中国は、大きな転換点を迎えている。世界各国へ孔子学院をつくって、表向きでは中国文化と中国語の普及を図るソフトパワーの強化に努めてきた。その孔子学院が、実は裏の顔を持っていたのである。中国人留学生の監視と、スパイ活動という実態が明らかにされている。ソフトパワーの強化が本旨でなく、ハードパワーの強化につなげる目的であったのだ。

ソフトパワーとは、国家が軍事力や経済力などの対外的な強制力によらず、その国の有する文化や政治的価値観、政策の魅力などに対する支持や理解、共感を得ることだ。国際社会からの信頼や、発言力を獲得し得る力とされている。この対極には、ハードパワーがある。

胡錦濤政権までは正直正銘、ソフトパワーに相当の力を入れていた。だが、2012年の習近平政権登場とともに、ハードパワーが前面に出ている。中国のソフトパワーは、ハードパワーを補強する手段に降格された。

今回の新型コロナウイルスによるパンデミックは、中国の地を表わすきっかけになった。対外的に高圧的な態度を「全開」させている。中国外交部報道官の攻撃的発言は、「戦狼」と揶揄されるほど、他国に不快感を与えている。

外交部報道官の任務は、あえて敵をつくらず、中国の意図を伝えるのが仕事である。それが、逆の行動を取り他国の顰蹙(ひんしゅく)を買っているのはなぜか。中国国内に鬱積する経済的な不満を外に逸らす目的であろう。高圧的発言は、「愛国心」を高める効用が期待できるのだ。

中国経済は、それほど追い詰められている。

習氏は最悪事態を想定の「底線思考」

習近平氏は4月8日、中国共産党の最高指導部の会議で、「我々は複雑で厳しい国際的な感染状況と世界経済の情勢に直面しており『底線思考』を堅持しなければならない」と訴えたという。「底線思考」とは、最悪の事態も想定して行動するという意味とされる。

具体的には、「軍事力の強化」と「国内失業者に雇用の場を与える」ことだ。

この2つの道は、日本が昭和初期に経験した昭和恐慌(1927〜31年)への対応と同じことに気付く。軍事力の強化を背景に、満州(中国東北部)を侵略し傀儡政権樹立と重工業発展策を展開した。国内も軍需工業のテコ入れを図った。こうして、日本経済は1936年(昭和11年)に愁眉を開いたのである。だがそれは、太平洋戦争への一里塚になった。

中国は、明治維新以降の日本の「隆盛」をつぶさに研究している。昭和初期に取った日本の対応を参考にしているとみて間違いないだろう。日本は満州撤兵を要求され、国際連盟(国連の前身)を脱退するという孤立政策に陥った。今様に言う「ソフトパワー」を失ったのである。

現在の中国は、まさに外交部報道官の「戦狼」発言によって敵をつくる点で、戦前の日本と同じ誤りに陥っている。いずれも国内不満の発散が目的である。

中国のソフトパワーはすでに、大きく傷ついている。国際世論における中国のイメージは、コロナ禍で損なわれたのだ。

中国ファーウェイ(華為)の次世代通信網「5G」は、コロナ禍による信頼失墜の飛び火で、ヨーロッパ諸国で導入拒否の動きが強まっている。英国では、G7を中心に「10ヶ国連合」(D10)でファーウェイ製品導入を拒否する動きまで広がっている。

中国がどのように言い繕っても、世界の人々がパンデミックを引き起こした中国への怒りを消すことは不可能だろう。国際世論の場で、中国の罪を問うべきだという指摘も出ている。これは、中国の目指したソフトパワーを根こそぎ捨て去る意味だ。

こうしてコロナ禍が、中国の力と威信を低下させている。コロナ後、中国経済が新たな発展の道を辿る、そういう夢は100%消え失せたと見るべきだ。

ロックダウン末端経済を疲弊さす

中国全人代(国会)では、香港に「国家安全法」を適用することを決めた。

「一国二制度」で保証されてきた香港の高度の自治が失われることを意味する。中国が、中英協定に基づく香港返還の目玉である「一国二制度」を破棄した。それは、「破棄せざるを得なかった」という意味に解すべきだ。

コロナ禍によるロックダウン(都市封鎖)によって、中国経済は文化大革命(1966〜76年)後の疲弊した経済と同じ状況に落ち込んでいる。2005年以降、都市美観を損ねる理由で禁止した露店が、失業対策で奨励されているほどである。

この事実こそ、ロックダウン政策が中国経済の末端を破壊した証拠である。

失業者続出の中で、当局にとって否定したはずの露店復活策に出たのは、失業者による暴発を警戒しているためだ。共産主義は失業と無縁と豪語してきた手前、失業者による「仕事寄こせデモ」が始まったら手に負えない始末になろう。

香港での民主化デモを取り締まって、本土へ波及させないためには、香港国家安全法適用が不可欠に違いない。中国共産党の権威を守るため、香港を犠牲にする。そういう選択しかなかったと見る。

中国と米国、ロックダウンでより窒息したのはどっちだ?

中国と米国を比べて、ロックダウンによる経済活動の窒息度合いはどうなっているか。

中国は、政治的にコロナ感染源の汚名を薄めるべく徹底したものだった。その典型例は、武漢市に見られるように、「ネズミ1匹」通さない厳重ぶりだった。これが、他都市の封鎖でも行なわれたのである。経済活動は、根こそぎ止まったのだ。

米国でも、ロックダウンは行なわれたが、各州の自由裁量に任された。防疫対策と経済活動のバランスが取られたのである。例えば、感染死亡者がピークを過ぎると、封鎖を緩めて経済活動を始めた。

米国の5月の失業率が、エコノミストによる事前予測を覆して、さらなる悪化に歯止めを掛け水面下ながら改善を見たのである。新規雇用者が前月比250万人も増えた結果である。これは、4月の失業原因で「一時的」が多数で、「恒久的」を大幅に上回っていた背景によるものだ。緊急避難の一時的な失業が多数であった。

中国の防疫対策は、中国共産党の権威を守る目的が第一である。米国のような経済活動を視野に入れた防疫対策でなかったのだ。これが、中国経済の基盤を徹底的に破壊した。

共産党の権威=政治先行が、経済活動を死滅同然まで追い込んだと言える。

米中デカップリングの現実味とは

先の全人代では、恒例の今年の経済成長目標値が発表されなかった。

発表できないほど、「コロナ禍」に痛めつけられている結果だ。今年はせいぜい、1〜2%成長という低成長予測がされている。コロナ禍だけでない。米中冷戦で米中デカップリング論が現実の日程に上がってきた結果である。

本欄は、早くからその可能性を取り上げている。コロナ禍に対する中国の無責任な態度と逆に攻撃的姿勢が、米中分断をプッシュさせる動因だ。米国による、中国経済を追い詰めるという信号弾になった。

米国は、対日警戒体制を具体化させるべく、1910〜11年に「オレンジ作戦」と銘打って日本包囲網に着手した。今回の対中警戒体制では、米国が主導する新しい経済同盟構想「経済繁栄ネットワーク」(EPN)構想に着手している。主要メンバーは、日・米・豪・印のほかに、韓国や台湾へ呼びかける。技術的に一頭他を抜く国が連合して世界のサプライチェーンのハブを形成しようというものだ。

オーストラリアとインドは、先ごろ対中国を念頭に経済と安保の両面で定期協議をすることで合意した。インドは、米主導の「インド太平洋戦略」構想への参加を意思表示したことになる。豪印関係は、従来の戦略パートナーシップから包括的戦略パートナーシップに格上げすると決めた。相互後方支援協定の締結でも合意した。この協定で両国の軍隊が、互いの艦船や航空機に燃料補給したり、整備施設を利用したりできるようになる。中国は、国内不満を逸らす目的で豪印との関係を悪化させている。そのしっぺ返しを受けた形だ。

中国は、安全保障政策をめぐる周辺国との対立が、のっぴきならぬものになってきた。

米国は、安保政策だけで日米豪印を連合させるのではない。「経済繁栄ネットワーク」(EPN)構想によって、韓国や台湾をこれに参加させ米中デカップリングの受け皿にさせる方針だ。中国を共同安保で取り囲むだけでなく、経済でもEPN構想を展開し、中国を米国市場から切断させるのが大きな目的である。

着々と米国に追い詰められる中国

米国は、日米開戦前に石油や鉄くずの対日輸入封鎖をすべく、「ABCDライン」を敷いていた。Aは米国、Bは英国,Cは中国、Dはオランダである。このABCDラインが、日本を米英開戦に踏み切らせたという説もある。だが、日本側は長期戦を意図していなかった。緒戦の勝利で米英と和平へ持ち込む戦術であった。これが、見事に外れて敗戦を喫したのだ。

中国は、どういう戦術を取るのか。米国市場から切り離される中国経済は、ドル資金の入手方法が極端に細くなる。米ドルが国際基軸通貨である以上、中国にとっては死活問題になるのだ。

人民元は、ローカルカレンシーに過ぎない。ドルの威力の前では、足元にも及ばないのだ。中国外交には、そこまでの計算をしているとは思えない。旧日本軍が、ABCDライン突破で編み出した開戦は、中国に適用できない事情があるのだ。

中国の共産党専制主義が、開戦という最悪事態を選択すれば、国内の不平不満派を立ち上がらせる危険性がある。日本の旧天皇制と中国共産党への忠誠度では、月とスッポンの違いがある。共産党員のために命を捧げる、中国国民がどれだけいるだろうか。党員ですら疑問である。第一次世界大戦で、ドイツ・オーストリア・ロシアの3皇帝が崩壊した事実を思い起こすべきだ。過酷な支配階級の中国共産党は、国民から怨嗟の的である。

中国は、米国から経済封鎖を受けても、簡単に戦争へ訴えられない事情がある。国内で武装蜂起の危険性があるからだ。

そうなると、中国経済はジリ貧状態に陥るだろう。これだけでない。米国は、香港への国家安全法適用に抗議して、米国による特恵廃止の意向を表明した。これにより、香港の持つ金融機能が大幅に制約されるのである。

中国は、香港金融市場をフル活用してドルを調達してきた。この隠れた現実が、中国の外貨準備高を3兆ドルと世界最高水準に押し上げている背景である。

中国は、この高い外貨準備高を自慢の種にして発展途上国を畏怖させてきた。このマジックは、香港金融市場の地位低下で失うリスクが高まる。中国の大言壮語は、消えるほかない。「一帯一路」プロジェクトも、ドル資金調達に問題が起これば立ち消えだ。

香港金融市場が、現在の地位を失えば、中国経済も道連れとなるのだ。米国は、この現実をしっかりと把握して手を打っている。

香港金融市場で息つく中国の素顔

米国は、国際基軸通貨国である。その底知れぬ力を見落とすと、中国は「秒殺」の運命を辿る。中国民族派は、それを完全に忘れている。国内の経済活性派を無視していることの落し穴である。

香港金融市場は、米国と中国の両経済をつなぐ上で重要な役割を果たしている。それは、香港ドルが米ドルとペッグ制(固定相場)で繋がっているためである。

香港ドルは、1米ドルに対して7.75〜7.85香港ドルという狭い許容変動幅が設定されている。香港金融管理局(HKMA)は、このレンジ内に値動きが収まるように売買を行う。ペッグ制を維持するため、香港の政策金利は米国の政策金利に連動している。香港ドルがレンジ内で上下するのは、香港と米国の市場金利に差があるからだ。国家安全法制導入に関連し、香港から資金流出懸念が出ているにもかかわらず、現状では香港ドルが堅調を保っている。

米中関係が緊張した場合、米国は香港の銀行によるドルの入手を制限し、その結果としてペッグ制が幕を下ろすのではないかとの不安が出ている。

これに対して、HKMAは、十分な外貨準備高(約4400億米ドル)を持っているのでペッグ制を維持できると楽観している。だが、米国が香港への特恵を外せば、いつまでもペッグ制が継続できるか疑問である。香港の経済地盤(中継貿易)が沈下すれば、自動的に金融的な地位を失うだろう。

米国は、既述の通り「経済繁栄ネットワーク」(EPN)構想に着手している。中国の持つサプライチェーンのハブ的役割を外す目的である。それが実現すれば、中国の経済的な地位は低下するので、自動的に香港の役割も低下するであろう。

こうしてペッグ制維持は難しい問題になろう。香港金融管理当局の観測は、10年単位で見れば実現できなくなろう。

ここで中国が、香港金融市場をいかに利用しているかを見ておきたい。

<中国の外国直接投資:FDI(2018年)>
・対内直接投資:総額1,380億ドル(うち香港900億ドル)
・対外直接投資:総額1,430億ドル(うち香港870億ドル)

<人民元が取引される場所(2019年4月)>
香港:30%
中国:28%
英国:16%
シンガポール:12%
米国:8.3%

<人民元が使われる場所(2020年4月)>
香港:72%
英国:6.0%
シンガポール:4.3%
米国:3.2%
台湾:2.6%
(資料:『ウォール・ストリート・ジャーナル』6月1日付)

前記のデータを見れば一目瞭然、香港の役割が極めて大きいことが分かる。

対内直接投資は、香港が65.3%、対外直接投資は同60.8%も占めている。香港というスクリーンを経て、中国の海外直接投資が行なわれている。香港という関所を通す意味は、中国政府が厳格な資本規制を敷いている中にあって、緩衝財としての意味であろう。香港の外為市場は、世界有数の規模を誇る。米ドルの取引高は第3位だ。

人民元が、取引される場所のトップは香港である。中国を抜いている。人民元が使われる場所のトップは、香港の72%である。

これから分かることは、人民元がローカルカレンシーであることだ。香港市場によってその輝きを維持している形である。香港市場が沈下すれば、人民元も同じ運命を辿りそうだ。

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『勝又壽良の経済時評』(2020年6月8日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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