以前掲載の「窮鼠と化したか。南北共同事務所を爆破した北朝鮮の苦しい本音」でもお伝えしたとおり、ここに来てさらに理解に苦しむ言動を取り始めた北朝鮮。今、北朝鮮の政権中枢では一体何が起きているのでしょうか。今回の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、金正恩朝鮮労働党委員長の意図を推察するとともに、北朝鮮の「異常な行動の理由」の読み解きを試みています。

北朝鮮の終わりが近づいてきた

最近、北朝鮮がおかしな動きをしています。同国は6月16日、開城(ケソン)の南北共同連絡事務所を爆破しました。さらに、4つのアクションを起こすと警告しました。その4つとは。

〈1〉南北協力事業の金剛山(クムガンサン)観光地区と開城工業地区への部隊展開

 

〈2〉2018年9月の南北軍事分野合意に従って非武装地帯(DMZ)から撤去した軍の監視所を再び設置

 

〈3〉西南海(黄海)上を含む全ての前線に配置された砲兵部隊の態勢を強化し、軍事訓練を再開

 

〈4〉韓国にビラを散布するために前線の地域を開放

(読売新聞ONLINE 6月17日)

なぜ、北朝鮮はキレていたのでしょうか?

韓国の「脱北者団体」が、反北朝鮮、反金王朝のビラを大量にバラまいたからだといわれています。直接の理由はそうなのでしょう。これは短期的理由ですが、長期的理由もあることでしょう。その後、北朝鮮は24日、「軍事行動延期」を発表しました。ロイター6月24日。

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は、党の中央軍事委員会を主宰し、韓国に対する軍事行動計画の延期を決定した。朝鮮中央通信社(KCNA)が24日伝えた。一方、韓国の聯合ニュースは、北朝鮮軍が南北の軍事境界線付近に最近再設置した拡声器を撤去していると報じた。

「……一体何なんだ……」

北の行動が理解できない人も、多いことでしょう。今回は、これについて考えてみます。

金正恩の意図

ある国と指導者。欲しいものは、いろいろあります。いろいろありますが、「二つだけ選びやがれ!」と脅されたら、どんな指導者も、同じものを選ぶでしょう。一つは、「命=安全」です。誰でも、自分の命が大事ですね。もう一つは、「金=経済」です。これは「食」とも言い換えられます。国民を食わすことができない指導者は、悲惨な運命をたどることが多い。二つ重要なものがありますが、

命(安全) >>> 金(経済)

である。皆さんもそうでしょう。命があってこそ、金に意味がある。命がなければ、金に何か意味があるでしょうか?故金正日、金正恩親子の目標は、1に自分と国民の命を守ること2に金を稼ぐこと(経済成長すること)なのです。

北朝鮮のような貧乏国家が、自国の安全を確保する方法は、現状一つしかありません。そう、「核兵器を保有すること」です。金親子は、「イラクのフセインは、核兵器がなかったから殺された」と考えている。さらに、「リビアのカダフィは、核計画を放棄したから殺された」と考えている。この二人の独裁者の悲惨な末路は、金親子に、「必ず核兵器をゲットする」と決意させました。そして、北朝鮮は、核兵器保有国になったのです。これで、アメリカも、北朝鮮を攻撃することが困難になりました。

もし北が韓国に核を使えば、「100万人死ぬ」と予想されている。どんなアメリカ大統領でも、「100万人が死んだきっかけ」をつくりたくありません。北は、核兵器だけでなく、それを搭載するミサイルもゲットしました。金正恩の、「命を守る」「安全を確保する」という目標は達成されたのです。

しかし、その過程で、大きな問題が起こりました。国連安保理で、厳しい経済制裁を科されてしまった。2017年、北があまりにもアグレッシブだったので、本来は味方であるはずの中国、ロシアも、制裁に賛成せざるを得ない状況になった。金正恩、次のゲームは、何でしょうか?そう、「核兵器を保有したままで、

制裁解除 経済支援 体制保証

を勝ち取ること」です。つまり、「命を守る手段は確保したから、今度は金儲け」ということ(もちろん、交渉を開始するために、「完全非核化の準備がある」といいます。しかし、「命を守る唯一の手段」を手放したいはずがありません)。それで、金正恩は、トランプとの直接交渉に乗り出しました。米朝首脳会談は、これまで3回行われています。

2018年6月、シンガポールで。
2019年2月、ベトナムで。
2019年6月、板門店で。

しかし、トランプは、「まずは完全非核化。その後、制裁解除だ」という部分で譲りませんでした。なぜ?金正恩の父親・金正日が、何度もアメリカと世界をだましてきた。たとえば1994年、北朝鮮は核拡散防止条約(NPT)からの脱退を宣言しました。焦ったアメリカは、軽水炉と、毎年50万トンの食糧を提供することを約束した。北は、もらうものだけもらって、ちゃっかり核兵器開発をつづけていた。2003年、北は、またもやNPT脱退を宣言しました。2005年2月、核兵器保有を宣言。同年9月、北は、「すべての核兵器を廃棄する!」と宣言しました。しかし、これもウソでした。

金正恩は、「偉大な父」金正日を見習って、「ナイーブなアメリカをだませる」と思ったのでしょう。ですが、アメリカも、過去の失敗から学んでいたのです。結果、「非核化のフリをして、制裁解除を勝ち取り、経済支援も引き出す」という金の目論見は外れました。現状は?

北朝鮮は、核兵器を保有している 制裁がつづいていて、北朝鮮経済はボロボロになっている

ということでしょう。問題は、「北朝鮮経済は、どのくらいボロボロなのか?」ですね。

ボロボロの北朝鮮経済

中央日報6月25日に、興味深い記事が出ていました。北朝鮮経済が、相当厳しいという内容です。一部抜粋します。

北朝鮮の経済構造は毎年、無煙炭輸出10億〜13億ドル、衣類委託加工輸出7億ドル、海外派遣労働者賃金3億ドル、水産物輸出1億5,000万ドルなどで構成されている。こうして稼いだ外貨で生活必需品の輸入にともなう20〜30億ドルの貿易赤字を埋め合わせてきた。だがこうした金脈が完全に干上がってしまった。昨年12月には9万人の海外派遣労働者が送還された。北朝鮮は「研修」「留学」を名目にして再び中国やロシアなどに派遣したが、新型コロナウイルスはこうしたルートさえもふさいだ。新型コロナにともなう国境閉鎖により中国人観光客の足が途絶えたのも致命打だった。中国は120万人ほどの観光客を北朝鮮に送り、最大3億6,000万ドルの収入を与えてくれた。こうしたドル箱がすべて遮断され北朝鮮は禁断症状に苦しめられている。

「制裁効果=制裁の強度×時間」だ。国連安全保障理事会は2016年の4度目の核実験以降四重の制裁網を順に張っていった。対北朝鮮制裁もこの法則により時間が過ぎるほど北朝鮮の首を絞め上げている。すでに北朝鮮の輸出は壊滅的打撃を受けた。これに対し輸入は生存のために小麦粉、砂糖、食用油などの生活必需品を買い入れ続けるほかない。これにより対中貿易赤字は昨年23億7,000万ドルに増え北朝鮮が保有する外貨は枯渇している。
(同上)

つまり、長期化する制裁で、北朝鮮経済はかなり厳しかった。そこに「新型コロナ禍」が加わり、壊滅的状態になった。もちろん、この記事だけで、「絶対そうだ」とはいえないでしょう。しかし、ここに書ききれないさまざまな情報が、同じような結論を出しています。

最近の北の異常な行動の理由はなんだったのか?「韓国を脅迫することで、経済支援を引き出しかった」のでしょう。しかし、韓国が強気な態度だったので、脅しをやめた。つまり、トランプ政権のやり方は、「間違っていなかった」ということです。

北朝鮮の末路

これはどうなるか、正確に予測できる人は、世界に一人もいないでしょう。クーデターが起こるか、革命が起こるか。金の心が折れて、「完全非核化後の制裁解除」に同意するか?やぶれかぶれで、暴発するか?

現時点では、わかりません。

しかし、金王朝の終焉が迫っていることは、間違いない気がします。結局、拉致被害者が戻ってくるのは、「金王朝が崩壊した後」ということになるでしょう。

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