8月末から9月にかけ連続して3つの台風に襲われた北朝鮮。東西の穀倉地帯も被害を受けたと伝えられ、恒常的な食糧難が更に深刻になるのではと危惧されています。メルマガ『宮塚利雄の朝鮮半島ゼミ「中朝国境から朝鮮半島を管見する!」』著者で北朝鮮研究の第一人者の宮塚利雄さんは、北朝鮮で生産されている米の品種の特色を紹介し、台風に襲われた時期の悪さを指摘。金正恩委員長の相次ぐ被災地視察は「強い危機感」の表れと解説しています。

単に北朝鮮の穀倉地帯を台風が通過しただけはない。今の時期に直撃したことに重要な意味がある

北朝鮮はわずか2週間の間に3回の台風に見舞われた。この50年間以上、北朝鮮は梅雨の時期から台風の時期までに大豪雨による「クンムルピヘ(大きな雨による被害)」発生とその対策を『労働新聞』などで何度も指摘してきたが、毎年、繰り返される豪雨による洪水被害を今年も防ぐことはできなかった。それどころか、今年のこの3回にわたる台風の被害は金正恩政権を揺るがしかねない事態となっている。

北朝鮮は例年、宿痾のごとき「食糧不足」に苛まれてきた。田植え(モネギ)が終わったと思ったら、しばらくして「水不足」による「旱害」被害が生じるのが例年のパターンであったが、今年はそれはなかった。しかし、ときならぬ(8、9月は台風シーズンであるが)台風8、9、10号が朝鮮半島を直撃してしまい。特に北朝鮮は穀倉地帯と言われる黄海南北道と東海岸にある咸鏡南北道と江原道の穀倉地帯を台風が通過した。

金正恩委員長は黄海南道で台風8号の被害状況を視察したとき、被害が予想より少なく幸いだとしつつも、「人民が苦しいとき、誠心誠意助けるのが党の最優先課題だ」と強調し、各部署を挙げて農地の復旧にあたるように指示したというが、被害地域をどれだけ視察したのか、日本製の車を自ら運転しての視察だったので、はたして「被害が予想より少なく幸いだ」などと言えるものだろうか。

金正恩委員長は、台風9号による被害を受けた日本海側の咸鏡南北道視察し、海岸沿いでの安全対策に不備があったことを厳しく指摘したとのことだが、9月8日の党中央軍事委員会の会議では、経済計画の全面見直しに言及しており、金正恩委員長の相次ぐ被災地視察は「強い危機感」の表れと見てもよいだろう。金正恩委員長は、9月12日にも豪雨による洪水被害を受けた黄海北道銀波郡大青里を視察している。

ところで、マスコミは「黄海南北道は穀倉地帯」などとオウム返しに報じているが、今なぜこの時期に洪水被害にあうと収穫に大きな影響を与えるのかということまでは説明していない。

戦前、朝鮮半島の米が皇室に献上されたことがあるが、そのときの米は確か黄海道産であった。この8月から9月にかけては稲作栽培ではもっとも重要な時期である。

北朝鮮の農作物を紹介した『農作物品種紹介集』(外国文図書出版社 主体99(2010)』には、穀物158品種、野菜作物118品種、工芸作物23品種紹介されているが、「水稲」を見ると、まず「品種名:<カンソン(降仙)1号」が紹介されている。

「種蒔き時期:3月23日 田植え時期:5月13日 発芽時期:8月10日 成熟時期:9月30日 穂の粒数:185粒 生育期間:180日 1000粒質量(?):27g 出尾(根)率(?)74 熟成率:87.2% 生育適産温度:10℃(以上※編集部補足)3400℃(※積算温度) 町歩当たり収穫高:10トン 生理的忍耐性:冷害忍耐性が強い 病害虫抵抗性:(略) 栽培地域:生育適産温度が3500℃になる西海(黄海)平野地帯および中、山間地帯などと咸興以南地帯」

他の品種も黄海南北道を栽培地域とするものが多く、東海(日本海)側の咸鏡南北道・江原道が栽培地の品種もいくつかある。つまり、水稲栽培にとって一番大事な「実がなって熟し始める」時期に水害にあってしまうので、水を被った稲は水が引いても「十分に熟すことができないので、不良米となり、良質な米を生産することができないのである」。稲作栽培では最後の段階で水害を受けるので、今年は例年以上の「食糧不足」事態が生じることは間違いない。

北朝鮮の最大の支援国である韓国と中国に北朝鮮への食糧支援の能力があるのか疑問である。一部には日本が備蓄米を北朝鮮援助に回すのではないかとの話もあるが、北朝鮮は日本から1995年に有償・無償50万トンのコメの援助を受けていながら、30万トンの有償分の代価を1円も払っていない国である(それでも利子の1回分だけは払ったようだが、その後は、なしのつぶてである。また、日本政府も日本国民もこのことについては関心がないのか話題にもならないようだが)。(宮塚コリア研究所代表 宮塚利雄)

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