新型コロナウイルスの感染拡大に伴う休校が続く。再開も不透明な状況で、学校の9月入学&新学期案も浮上している。「夜回り先生」こと教育家の水谷修氏は日本における4月入学制度の歴史を踏まえた上で、今年9月からの制度変更で懸念される問題点を指摘した。

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 新型コロナウィルスの感染拡大の中で、3月2日に政府が、全国の学校に休校要請してから2カ月の月日が過ぎました。いまだ、学校教育を全国で一斉に再開する状況にはありません。当然のことですが、この5月に留まらず、6月以降まで休校が続けば、もはや、夏期、冬期、春期の休業期間や土曜を授業日として、学習保証することも不可能となります。

 そのような中、一部の知事たちが、この機会に、日本の教育制度を変更し、世界の主要国の多くが実施している9月入学に変更することを提案しています。しかし、これには多くの課題と問題があります。

 実は、日本も明治時代に西洋から教育制度を導入したときは、9月入学でした。ところが、1886年に、暦上の一年(1月から12月まで)とは別の、年度(4月から3月)を会計年度として設定し、政府の活動や経済活動をこの年度によって行うことにし、それに併せて学校も4月入学となりました。それを、現在も踏襲しています。

 この、年度の設定には、理由があります。当時の政府の財源は、国民の多数を占める農家からの税金でした。農家は、秋(9月頃)に収穫した米を納税しました。当然、納税の時期は、10月から11月、それを元に予算編成をすることは、12月では間に合わなかったからです。

 実は、学校の9月入学への変更については、これまで何度も多くの場で検討されてきました。国際社会のグローバル化の中で、日本のみが4月入学の制度を取っていることによって、日本からの、また日本への留学生たちに不利益をもたらすからです。私も、いずれは、9月入学へと変更すべきだと考えています。

 ただし、それには、条件があります。それは、会計年度を、9月から8月に、あるいは、暦時上の1年、つまり1月から12月に変更することです。もし、それをせずに拙速に、9月入学を導入すると、日本に「3つの1年」ができてしまいます。暦上の1年と、年度、そして学校での1年です。これが、日本の社会にいかに大きな混乱と、生徒たちへの不利益をもたらすかは、自明です。

 また、この変更には、各学校現場の周到な準備が必要です。ちょうど今、教育の空白期間ができた。それをきっかけに、今年の9月から新学期を始め、そして体制を変えようといわれても、それに対応することはほぼ不可能です。

 どんな学校も、きちんと1年間の年度計画を立てて、教育や学校運営を行っていきます。それは、そのままスライドして実施できないものもたくさんあります。また、就職問題もあります。現行では、4月に採用している新卒採用を9月に変えてもらわなければなりません。すべての企業が、簡単に対応することができるのでしょうか。それに加えて、本来ならば、来年4月から就職するはずの生徒たちの就職が5カ月遅れることで、各家庭の負担が増加します。それをだれが保証するのでしょうか。ここでは、限られた字数でしか書けませんが、これ以外にも多くの問題があります。

 ぜひ、9月入学について言及した知事の方々は、その発言の前に、現場の教員や教育の専門家からきちんと意見を聞いて欲しかったと考えます。現場をそして教育制度を知りもしない無責任な発言で、子どもたちや国民を、こんな時期に惑わさないで欲しいと考えます。その前にやることはたくさんあるはずです。