「鹿紙(しかがみ)」が話題だ。

奈良県内の企業3社が共同開発した、米ぬかを配合した特殊な紙。それを使った、鹿のイラストがデザインされた紙袋が制作された。A4サイズで、観光の土産物入れや奈良で開催するイベントに使用されるなど、少しずつ広まりをみせている。

 開発まで8カ月!奈良の鹿を救う鹿紙とは

 広大な奈良公園に生息する「奈良の鹿」は、昔から神の使いとして親しまれている。その鹿が近年、ポイ捨てされたポリ袋を食べ、それが原因で死亡する事故が増えている。昨年度は死因不明の鹿25頭のうち、16頭の胃からポリ袋が見つかった。エサと、エサが入ったポリ袋の区別がつかないため、口に入れ飲み込んでしまうのだ。

何とかしたいと立ち上がったのが、奈良県内にある化粧品企画業の「ならイズム」、紙器製造業「ナカムラ」、印刷デザイン業「文洋堂」の3社。もし誤飲しても、鹿への健康被害が最小限に抑えられる紙を実現するため、再生パルプに米ぬかを配合するなど材料にこだわりながら、8カ月間かけて完成させたのが「鹿紙」だ。

それを用いて作られた紙袋は、現在1枚110円(税込)で販売。値段は通常のポリ袋の数倍で、マチがないから厚みのある物は入れにくいが、今は認知度アップを目指し奮闘中。広く知られることで仕入れ先や協賛企業が増えれば、価格を抑えられ形状の改善もできる。

奈良市観光協会は会員向けに配布する資料入れに、鹿紙の袋300枚を発注。

「奈良公園の鹿は、国の天然記念物に指定されている野生動物です。会員を通じて鹿紙を広く知ってもらい、鹿と共存した観光地づくりを行っていきたい」と、事務局広報の胎中さんも期待を寄せる。

 「奈良のため、鹿のため」、環境にも高い意識を持ちたい

「鹿紙は、鹿の餌ではありません。もし誤って食べたとしても鹿への負担が少ない紙です」と語るのは、開発企業の1つ、紙器製造業「ナカムラ」の中村社長だ。

米ぬかを配合したのは、誤飲した場合の負担を軽くするほかに奈良県産の米、ヒノヒカリの精米時に出る米ぬかを使用。循環型社会を目指す目的もある。

変えたいのはゴミに対する人の意識という中村さんは、以前見た、ある訪日外国人の姿が忘れられないという。

その人は、鹿にビニール袋を取られたのにそのままにしていた日本人に一言注意らしきことをし、急いで鹿がくわえていたビニール袋を取り返すと、自分の子どもに何かを懸命に教えていた。

「奈良公園は、昔から人と鹿が共存する空間です。世界でも数少ない大切な場所だからこそ、価値があります。その外国の方は、この特別な空間で互いに支障なく暮らしていけるルールを、子どもにも鹿にもきちっと教え込んでいるようでした」

鹿がポリ袋を食べてしまうなら、そうならないよう人間が積極的に行動を起こさなければならない。世界に誇る観光地である奈良を、環境にも配慮した奈良にしたいと話す中村さん。

「奈良のため、鹿のため」に開発した鹿紙をきっかけに共感の輪を広げ、人の意識が高められたらと願う。

(まいどなニュース特約・國松 珠実)