2019年秋、大阪市の市営住宅に住む知的障害のある30代の男性が自ら命を絶ちました。前日、この男性は住民間で当番(班長)をくじ引きで決める際、知的障害や精神障害があるため引き受けられないと答えたところ、「しょうがいがある」等と紙に書かされた上、その紙を他の住民に見せるとも言われたようです。

これまでの報道によると、実際に男性が書かされた内容は、こんな感じです。

   ◇   ◇

○ 1たい1ではおはなしできます
× おかねのけいさんはできません
× ごみのぶんべつができません
○ せんたくはできますほすこともできます
○ くやくしょびょういんにはいけます
× かんじやかたかなはにがてです
× よるはくすりをのまないとねむれません

   ◇   ◇

障害がある男性は便箋にこれを書いた翌日に自ら命を絶ちました。この時男性が実際に書いた、たどたどしい、ひらがなの文字を見ると胸が痛くなります。

悲劇の裏にある現実とは

男性の心の痛みを思うと共に、ネット上では「これを書かせた奴の本名を出せ」と批判がでていますが、一概に自治会の運営者を責めきれないとも私は思うのです。

自治会の係や役員はかなり手がかかり、みんな嫌がります。しかし集合住宅の管理、特に市営のような公立住宅では居住者による協力が必要なのでしょう。無理にでも引き受けてもらっている現実がある以上、どんな理由があるにせよ「例外」にはしづらい。そのため、周囲から文句がでた場合を考え、こうした「証明書」が必要と判断し、嫌がらせではなく、ほかの住民を納得させるための苦肉の策だったのかもしれません。

一方的に責めることができない上で、残念なのは、「ちょっとやり過ぎじゃない?」と誰かひとりでも声をあげることはできなかったのかという事です。

他の住民の理解を得るために思いついたことであっても、その場にいた誰かが「ちょっと待って、これはどうなの?」と疑問視すれば「うん、やり過ぎじゃない?」と続く人もいたかもしれません。

このような内容を書かせることをよしとしてしまう「場の雰囲気」こそが一番の問題なのです。

同じようなことはPTAでも起きている

複雑な気持ちでニュースを見ながら、私が反射的に思ったのは「PTAでも同じようなことが起きている」という点です。

PTAの役員決めなどでも、様々な事情のため引き受けられない人がいます。他人には決して言いたくないプライベートを明かし「どうしてもできません」と免除してもらったという話を何度か耳にしています。そこまで赤裸々に話したにもかかわらず「それでは役員免除にはなりません」と断言され、係を強制されたというケースもありました。

くじや順番で決める際は、当然ながら「決める時のルール」があります。例えばPTAならば「妊婦さんは免除」や「一度役員をしたことがある人は免除」等です。

それぞれの事情を考慮していたら、きりがないので誰もが納得する選出方法やルールを適応するのは理解ができますが、そもそもくじ引きや強制的な当番制にしなくては「やる人がいない」ことをやる意味があるのだろうかと思います。

具体的な解決策として、外部に運営を託す、なるべく運営人数を減らし負担を少なくして誰にでもできるようにする、など工夫する方法はまだまだあると思います。

閉鎖的になるコミュニティの怖さ

PTAができない理由をみんなの前で発表させられること、知られたくない痛みを大勢の前で話すことは、大変な苦痛です。

「障害のある家族がいることについてなぜ言わなくてはならないのか」
「母子家庭で元夫からの仕送りもなく、夜も働いていることまで、みんなの前で言わないといけないのか」

病名やできない理由を赤裸々に公表しない限りは辞退できない係決め。どんどん閉鎖的になるコミュニティに恐ろしさを感じます。

今わたしたちが考えたいこと

コミュニティ内で「するべきこと」があり、それが「できない」時に、できない理由を特定の人に最低限話さないといけないことはわかります。

しかし、冒頭の男性はまるで自白をするかのごとく、自分のできないことを書かなくてはなりませんでした。特に「×」のあとにできないことを羅列していくのは、自分を否定する行為のようでとても傷ついたことでしょう。誰かにそっと話す、相談するのとは違います。

まるで罪を告白させるかのような乱暴なやり方です。障害をもっていることは罪ではありません。

仕事や役割を調整することは特別扱いではなく、必要不可欠な「合理的配慮」です。ですが、世の中には合理的配慮なんて吹き飛ぶような、狭く閉鎖的なコミュニティがあちこちに今もあるのが現実です。

周囲の人間は、下手に意見をして「だったらアナタがやってよ」と言われると面倒だと口をつぐみ、黙って見守ります。ひとりひとりが悪いのではなく、全体的になんとなく残酷になっていく、その空気感が恐ろしいと思いませんか。

PTAにせよ、自治会にせよ、コミュニティという狭い共同体の見えない圧力。身近なところにある怖さ。

他人をつるし上げるような行為を無意識に集団で行ってしまうことを、それを「平等」とか「団結」という言葉に変え解釈してしまうことを、今いちど考えるべきだと思います。

◆くま ゆうこ デジタルハラスメント対策専門家。株式会社マモル代表取締役社長。自身の強みであるWebマーケティングのノウハウを活かし、 いじめや組織のハラスメントを未然に防ぐシステム「マモレポ」を開発する傍ら、学校コンサルティング、いじめ・ハラスメントのセミナー登壇、執筆を行う。