菅新政権が発足しました。

今後どういう政策が実施され、私たちの生活はどうなっていくのか、新型コロナ対策や東京五輪・パラリンピックはどうなるのか等、永田町と霞が関の現状も踏まえながら、考えてみたいと思います。

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新型コロナ対策

菅総理は、新型コロナ対策については、安全運転で行かれると思います。本年1月以降のコロナを巡る紆余曲折(新興感染症ですから、それは仕方がないことです)等も踏まえながら、引き続き、専門家の意見を参考にしながら、社会・経済も守らなくてはならない、というバランスを考えていかれると思います。その際は、専門家に責任を負わせるのではなく、それを根拠に、自ら判断した、責任は政治が取る、という姿勢でお願いしたいと思います。そして、諸外国のリーダーと比べて少々足りないと言われてきた発信力やリスクコミュニケーションについて、改善を図っていただきたいと思います。

最近も、有望なワクチンの治験中断と再開がニュースになりましたが、これは通常の開発過程において当然想定される事態です。生命と健康に関わることですから、勇み足にならず、何事もエビデンスを基に考える姿勢が重要です。「正しくおそれて、正しく期待する」、新興感染症と向き合うに当たっては、これが肝要だと思います。政府もメディアも、最新の正しい情報を適切に発信すること、そして、地球規模のグローバルな視点を持って、途上国も含めた、世界全体のことを考えていただきたいと思います。

なお、現時点で見通せる政府の方針としては、以下のようなものがあります。(8月28日の政府対策本部)

・1日平均20万件の検査能力を確保

・自治体における病床や宿泊療養施設の整備+国からの財政支援

・医療機関の経営支援

・国際的な人の往来の段階的再開に向けて、成田・羽田・関西の3空港において、1万人超の検査能力の確保等

・新型コロナウイルス感染症が2類感染症以上の取扱いとなっていることについて、保険場や医療機関の負担軽減、病床の効率的な運用のため、政令改正も含めた運用見直し

 9月13日に、世界の新型コロナ新規感染者数は、過去最多(30万7930人)となりました。インド、米国、ブラジル等に加えて、いったん感染が落ち着いた欧州でも、再拡大が深刻になっています。残念ながら、安心できる状況では全くありません。

「感染の波は、いつでも、何度でも、繰り返しくる」と考えて、それを前提に、政府も国民も、対応を考えていくことが必要です。お一人おひとりが感染防止(手洗い、マスク、三密を避ける等)を常に心がけた上で、日常を送ってまいりましょう。

東京オリンピック・パラリンピックは、どうなる?

実は少し前までは、政府も民間も、本音は「来年の五輪はもうできない」という感じでしたし、正直わたしも難しいと思っていたのですが、最近ちょっと風向きが変わってきたように思います。世の中が「新型コロナとともに、何とか折り合いを付けながら、日常を生きていく」という流れになった中で、少なくとも、なんとかやれる方法はないか、とギリギリまで、最大限知恵を絞り合っていくということだと思います。(もちろん、感染状況等によっては、断念せざるを得ない可能性もあります。)

政府は、早速9月4日に、関係省庁を集めて、東京オリパラに向けたコロナ対策の会議を開催し、入国条件や受入体制などの感染防止策について、具体的な検討を始めました。観客数を減らす等の簡素化も含め、まずアスリートや各国のことを考え、商業主義と受け取られることのないよう、実現に向けて努力することが大事になってくると思います。

不妊治療の保険適用

不妊に悩んでいる方は本当に多く、ニーズは高いです。個人や家庭を経済的・精神的に救う、という意義だけでなく、少子化、人口減少対策としても非常に重要です。

ただ、どんなに高度な治療を適切に行っても、残念ながら妊娠・出産に至らないということも多く、また、一定の年齢を過ぎると成功率がぐんと下がるといった事実もあり、公的保険の性質上、公正で合理的な保険適用の基準が必要になります。そして、国民の税と保険料で成り立つ公的保険ですから、財政的な問題含め、緻密な制度設計が大切です。(高額の抗がん剤「オプジーボ」の保険適用の際も、同様の問題がありました。)

厚労省もなんとか実施する方向で考えていくでしょう。現在行われている不妊治療への公的支援事業(1回の治療につき15万円の助成、初回は30万円、スタート時の年齢が40歳未満は6回まで、40歳以上は3回まで。所得制限があり、夫婦合算の所得が730万円)をたたき台に、今後議論が進められていくと思います。

「縦割りを打破、既得権益を取り払い、悪しき前例主義を排し、規制改革を進める」

 理念としてはとても重要です。真に国と国民のためになることであれば、どんどん進めていただきたいと思います。しかし、例えば、規制の中には、例えば国民の生命を守るために、必要かつ合理的なものもたくさんあります。これまで築き上げられてきたものがすべてダメ、なのではなく、弊害になっているものがダメ、なのです。

査証(ビザ)発給要件緩和によるインバウンドは成功例です。しかし、物事は、何事も、成功と失敗、全体を見なければなりません。例えば、貸切バス事業の参入要件緩和や、建物の建築基準の緩和等は、人命を脅かす事態に直結するおそれがありました。同様に、安全性と有効性が求められる治療薬やワクチンも、必要なのは科学であり、政治でねじ曲げてよいものではありません。

やるべきこと、やらざるべきことを検討し、議論を重ね、やった方が国民のためになることをやる。大事なのは「改革すること」それ自体ではなく、「なにを改革するかの中身、そして結果として国民が幸せになること」です。

「政策の方向性に反対する幹部は、異動させる」

「縦割りを打破」とも関わりますが、これはかなりキケンです。

菅総理は、非常に強い信念を持っておられるので、役人が自分の意にそぐわないことを言うと、「言い訳」をしているようにしか聞こえないのだと思います。しかし、決して言い訳ではなく、専門性と矜持から、その案の(見えにくいかもしれない)構造的欠陥や国民に生じる不利益などを懸念して指摘していることもあるはずです。

経済、財政・金融、社会保障、国防・安全保障、外交、農林水産業、商工業、教育、環境等々、一国の政策は極めて多岐に渡ります。たとえ、どんなに優秀で経験豊富な方であっても、こうしたすべての案件について、誰よりも理解し、考えがすべて正しい、ということは、あり得ません。大切なのは、深い理解力を持って、専門的なことを含め、幅広く忌憚のない意見を聞き、議論を重ね、そして、責任を持って判断していくことです。

例えば、官邸発案の「アベノマスク」。 「それってほんとに国民が求めてること??無駄じゃない??」と思った人は、もちろん大勢いました。しかし、言えなかったのです。「官邸が決めたことは、絶対に変えられない。そして、意見を言ったら大変な目に遭う。」―こうしたことがいろんな場面で続いていくとすれば、損害を被るのは国民です。合計380億円の公費は、もちろんすべて、国民の血税です。

自分と違う意見にも耳を傾けることは、自由と民主主義の根幹です。自分の意に沿うイエスマンばかりで物事を決め、国を動かそうとすれば、絶対的に権力は腐敗し、組織も委縮します。菅総理にそのつもりがなくても、です。行政が政治に、こぞって“忖度”をし始めたら、大変なことになります。公僕たる公務員に求められるのは、政治家や官邸に盲目的に忠実であることではなく、国のため国民のために真摯に励むことです。政策を担う公務員の劣化や士気の低下、志望者の低減が起こっていることは、実は国民にとっての不可逆的な損失です。

恐怖で人を動かすのではなく、尊敬と信頼で人が動くようにする。菅総理には、それができるはずです。

最後に一言

「国民はお客様ではなく、一人ひとりが、この国の未来に責任を持ち、ともに力を尽くしていく存在である。」新政権の誕生に当たり、このことを、今一度、かみしめたいと思います。

◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。