道を埋め尽くす観光客から異国の言葉が飛びかい、屋台から湯気やスパイスの香りがもうもうと立ち上る。SF映画『ブレードランナー』(1982年)の描いた混沌のサイバー未来図をかる〜く凌駕するカオスな大阪・道頓堀の街。よりにもよってそのまっただなかに、仏教の教えに基づく台湾の精進料理「素食」の店がオープンしている。

 素食とは中国精進料理で、動物性食物だけでなく「五葷(ごくん)」と呼ばれる匂いのきつい野菜───ネギ、ニンニク、ニラ、ラッキョウ、玉ねぎも使わない。その制約のなかで、肉や魚を植物性の素材でそっくりに作る「もどき」料理が入ることが、日本の精進料理と大きく違う。

 「それって精進と言いながら結局、肉が食べたいってこと?」というツッコミもあろうが、もどき料理は「肉をガマンする」というストレスなく、仏教の不殺生の教えを守れるありがたい料理と言えないか。台湾では街のいたるところに「素」と看板を揚げた素食の店があり、仏教徒やベジタリアンだけでなく、健康や環境を気遣う気持ちになった時も、気軽に精進料理が食べられる。いい話である。

 ストレスフリーな精進料理「台湾素食」を大阪で食べられる貴重なお店は「法華素食」と言う。カオスな道頓堀のなかでも、とりわけ強烈インパクトな「DOTONBORI MUSEUM」のある並木座ビル4階にあった。こじんまりと落ち着ける4階と屋上のふたつのフロアがあり、オーダーは券売機で食券を購入するシステム。セットメニューのほか丼、麺などの単品が選べる。中国人の家族連れが入れ替わり立ちかわり来店していて、なかなかの人気ぶりだ。

 注文したのは、台湾バーガー「割包」のセット(2350円)。花巻に挟んだトンポーローはとろっとした食感を、濃厚に味付けた車麩で表現。おかずは大豆ミートの肉だんご、もどき魚、エリンギの焼肉風。どれも「もどき」っぷりが楽しい。

 そのなかでも「これ、炭火焼鳥?」と箸が止まったのがヤマブシタケ。繊維が強いキノコで、台湾素食ではメインディッシュにされることが多い。乾燥品を数日かけてもどしながら味を染ませて下ごしらえ。さらにそれを炒めて焼き目をつけ、香ばしく仕上げてある。「精進」という言葉は工夫に通じるが、これは、まさしく工夫=精進な肉料理。肉感のあるおかず、抹茶シロップ添えのごま豆腐のデザート、精進だしのすまし汁。一品一品がユニークだ。

 食材も料理も本場の台湾そのものの素食。それもそのはず、店主の寄田要二さんは、台湾素食のトップシェフ・洪銀龍先生のレストラン「法華」の門を叩いて教えを請い、洪師から、ほかのどこにも与えられていない「支店」の許しを得た。「目指しているのは、台湾と日本の融合です」と言うように、本場レシピに日本的なアレンジも加えている。

 「たとえば台湾では香辛料の八角を多用しますが、日本では苦手な方も多いですから控えています。台湾の大豆ミートなどのもどき食材には添加物が入っていることが多いので、それもなるべく避け、自然な味を心がけています」。泥のなかに咲く蓮の花のごとく、道頓堀というカオスのなかで不殺生という仏教の清らかな教えを伝える素食レストラン。そのありがたさに、思わず合掌!

(まいどなニュース/Lmaga.jpニュース特約・沢田 眉香子)