群青色の宇宙空間に星雲が広がり、星々が白く輝く。澄み切った夜空を写し取ったようなタイルの写真がツイッターに投稿され、「神秘的」と話題を集めている。もともとは京都市内の古い邸宅に使われていたが、投稿主が入手するまで長らく人目につくことはなかったという。その美しさが見いだされたのは、いくつかの偶然が重なった結果だった。

 投稿主は建築史家の本間智希さん(33)=京都市伏見区。日本の文化的景観を大学で研究する傍ら、解体される古い家屋から職人の手仕事が息づいた建材や道具、暮らしていた人の思い出を伝える物品を見つけ出して保全する活動に携わっており、趣味でタイルも収集している。

 本間さんは、星空のようなタイルとの出会いをこう振り返る。「4年前、京都市上京区にあった昭和7年建築の住宅『田中邸』が解体されると聞き、現場を訪れた時に偶然見つけたんです」

 田中邸を設計したのは建築家の藤井厚二。大正から昭和初期にかけて数々の住宅を手掛け、作品の一つで自宅の「聴竹居」(京都府大山崎町)は、国の重要文化財に指定されているほどの人物だ。本間さんは、名建築家の手による建物を解体前に見ておこうと、田中邸に足を運んだという。

 解体現場には、塀の上部に載せる「笠木(かさぎ)」として使われていたタイルが取り外され、地面に置かれていた。そのまま廃棄されると聞き、しのびなく思った本間さんは、現場責任者に掛け合い、十数枚を自宅に引き取った。緑色の釉薬(ゆうやく)を塗ったタイルが大半を占める中に、26センチ四方の藍色のタイルが1点だけあったが、くすんだ風合いだったため、本間さんもそれほど気に留めていなかったという。

 転機は今年3月の雨が降った日のこと。屋外に並べてあったタイルに見入っていた妻が、本間さんにこう声を掛けた。

 「青っぽいタイルが一番きれいね」

 本間さんが見に行くと、雨にぬれたタイルの色合いが鮮やかで奥行きのある群青へと変化していた。目を奪われた本間さんはツイッター@tmkhnm18に写真を投稿し、こうつづった。

 「一体どういう釉薬で焼いたら、こんな表情になるのだろう。宇宙のような深さ」

 投稿はたちまち注目を集め、2万件を超える「いいね」がついた。コメントを寄せた中には、日本に3つしかない国宝の茶わん「曜変天目」になぞらえる人もいた。

 神秘的なタイルはどのような経緯で作られたのか。本間さんはこう推理する。

 「藤井は聴竹居の敷地に窯を設け、自ら焼き物を作っていた。そこには、後にモザイクタイルの先駆者となる陶工の山内逸三も出入りしていたそうです。私が入手したタイルも山内が手掛けたのかもしれません。でも、塀の上にあったので、その美しさに気付いていた人はほとんどいなかったのではないでしょうか」

 このタイルのように、古い建物には、本来の価値に気付かれないまま眠っている工芸品や建材があり、解体とともに廃棄されてしまうことがしばしばあるという。本間さんは古い家屋の所有者に「解体して廃棄する前に一声掛けてほしい」と呼び掛けている。連絡先はtomoki.honma@gmail.com

(まいどなニュース/京都新聞・高野 英明)