一人暮らしで犬を飼う――結構、ハードルが高いものです。猫やウサギと違い、散歩が必要というのが最大のネックでしょうか。自宅で仕事をしていたり、同伴出勤が可能なら別ですが、長時間勤務や不規則な勤務を強いられる場合、どんなに犬が好きでも思いとどまる人が多いかもしれません。

 それでも「一人と一匹」暮らしを決断し、充実した毎日を送っている男性が神戸にいます。田中直樹さん、47歳。相棒はビーン君、推定9歳の元保護犬です。大きさにもよりますが、犬の9歳は人間でいうと40代から50代。田中さんは譲渡を受ける際、「オッサン2人で仲良くやっていきたい」と言ったそうです。

 ビーン君は沖縄・那覇市で保護され、現地の保護団体『Smile Paws』に引き取られました。白い毛が多く痩せた外見から当初は老犬と見られ、看取りボランティアの家に行く予定だったとか。しかし、歯の状態や体力からしてもう少し若いのでは…となり、沖縄の犬を迎えて関西を中心に譲渡につなげている個人ボランティア『Ycdなんくる倶楽部』の田中奈緒子さんのもとにやってきたのです。

「白髪が出そうにない場所にも白い部分があったので、生まれつきの模様ではないかと。痩せていたのは栄養失調だったようで、預かりボランティアさんが栄養価の高いものを与えてくれて、運動もするようになったら筋肉がついて体重も増えました」(田中奈さん)

 田中奈さんたちは「絶滅に瀕する琉球犬の保存と、沖縄の在来犬の血を引く犬たちを本当の家族につなぐことを目指して」活動していますが、写真を見て分かる通り、ビーン君に琉球犬の血は入っていなさそうです。田中奈さんたちの見立てでは、「ボストンテリアとチワワと、他にも何か入っている感じ」。何とも味のある顔をしていて、『Mr.ビーン』でおなじみの俳優に似ていることからビーン君と名付けられました。

 保護した当初からオスワリやマテができて、散歩中の引っ張りや拾い食いもなし。愛嬌もあることから「譲渡会の目玉になるのでは?」と期待されていましたが、なかなかいいご縁がなく、あっという間に3カ月が過ぎてしまいました。そんなビーン君のことを里親募集サイトでずっと見ていたのが、現在の飼い主である田中さんです。小さい頃から実家で犬を飼っており、いつかは自分でと思っていたそうですが、単身で留守番時間も長くなるため踏み出せずにいました。

「犬は無理だと思ってウサギを飼っていたんです。でも神戸に転勤してきたら、職場環境が変わって留守番時間を短くできそうだった。今しかない!と思いましたね」(田中さん)

 それでも子犬は難しいと判断し、成犬を迎えられる保護犬をと考えました。ただ、単身者に譲ってくれる団体や個人はなかなかありません。「単身者応募可」という条件を入れた途端、検索件数は激減します。そんな中、目に留まったのがビーン君でした。

「一目惚れでしたね。小さめの中型までという条件にもピッタリでした」(田中さん)

 ただ、即決はできず。「本当に責任を持って飼えるのか?」と自問自答を繰り返し、サイトを開いてビーン君が残っていることを確認しては、「今日もダメだったのか」と残念がったり、「決まらなくてよかった」とホッとしたり…。そうして3カ月が過ぎた頃、思い切って譲渡会に足を運びました。

「写真よりかわいかったし、その時点ではもう決めていたので、悩むことはありませんでした。留守番時間が長めなことも、『この子なら大丈夫でしょう』と言ってもらえたので」(田中さん)

 大阪にお兄さん夫婦がいて、もしものときはビーン君を託せる状況だったのも譲渡につながったのかもしれません。

 一緒に暮らし始めて9カ月余り。田中さんにはうれしい変化があったようです。

「気持ちに余裕ができて、人に優しくなれた気がします。職場の人間関係も、犬を飼っているパートさんと犬の話題でコミュニケーションが取れたり。あと、健康診断でいつも2項目くらい“要経過観察”になっていたのが、去年は全部A判定でした」(田中さん)

 動物と暮らすメリットは計り知れません。もちろん、一人で飼うには覚悟と、さまざまな事態を想定した備えが必要です。例えば田中さんは、緊急時にビーン君が部屋に取り残されないよう、職場の誰もが目につくところに自宅の鍵を置いているそうです。キーホルダーに「ドッグフードは冷蔵庫の横」と書き添えて。

 “オッサン2人”の共同生活は始まったばかり。これからどんな未来が待っているのでしょうか。

(まいどなニュース特約・岡部 充代)