日本で「動く映像」の歴史がはじまって約120年。はじめは活動写真と呼ばれた映画、そしてテレビへと、映像業界も歴史を重ねてきた。そこで交わされる言葉は伝統的に継承されてきたり、時代の流れとともに新しく生まれたりして、バリエーションに富んでいる。かつて映像業界に携わっていたIさんに聞いた。

映画の撮影でおなじみの「カチンコ」は、なぜ叩くのか?

用語というよりは用具の名称だが、映画の撮影で監督の「よーい、スタート!」という掛け声とともに、助監督がカチン!と鳴らすアレのことを「カチンコ」という。

「拍子木みたいな棒に小さな黒板がついていて、どのシーンの何カットで何テイクかという情報が書かれています。あとで編集するときに撮影した内容を把握したり、頭出しをしたりする作業が楽になるんです」

わざわざカチン!と音を鳴らすのも理由がある。

「編集するとき、画像と音を同期させるためです」

ちなみに、編集作業でよく「つまむ」という言葉が使われる。台本に書いてあるから撮影はしたものの、あとから「やっぱり要らなかった」ということがある。あるいはバラエティー番組のロケで、映ってはいけないものが映りこんでしまったときに、その部分をカットすることもある。フィルムや収録テープを、あたかもつまんで排除している様子から、不要なシーンをカットすることを「つまむ」といっている。

「はしあげ」は「シズル感」を出すために

グルメ番組を見ていると、どの局もほぼ同じ演出をしていることに気づくはず。箸、スプーン、フォークなどで食材をもち上げて、いかにもおいしそうに見せるカットを撮っている。

「あれは『はしあげ』といって、料理をおいしそうに見せる演出です」

簡単にやっているように見えるが、見た目以上に難しいらしい。ためしに食材をもち上げて、一定時間キープしてみるといい。手がプルプル震えてきて、おいしそうに見せるどころではなくなってくる。放送用の映像でプルプル震えていたら絵にならないから、意外に高度なテクニックが求められるのだ。

「おいしそうな感じ」のことを「シズル感」という。たとえば、お肉が鉄板の上でジュージューと音をたて焼けている「おいしそう」なイメージ。鉄板の上で焼けている肉の映像を流すだけだと、シズル感は出ない。観ている人に、いかに「おいしそう」と思わせるか、作り手は涙ぐましい努力をしている。

ちなみに「シズル」は英語の「Sizzle」で、「シューシューいう」「怒ってカッカッしている」という意味。

撮影スケジュールが押して撮って出しになる

撮影したばかりの映像を、ほとんど編集せずに放送することを「撮って出し」という。とくにニュース番組で、取材してきた素材を編集する時間的な余裕がないときに、しばしば撮って出しになることがある。

これが転じて、ドラマでも撮って出しになってしまうことがあるようで。

「撮影スケジュールが押して、放送の前日になっても撮影が終わらない危機的な状況が時々起こります」

ドラマはニュース素材みたいに、まさか撮影しっぱなしの映像を放送するわけにいかないから、スタッフは徹夜で編集、音入れをして完パケ(放送できる状態に仕上げたVTR)をつくって、放送時間までに間に合わせなければならない。

業界ふう「数字の数え方」

最後は余談的に、業界独特の数字の読み方をご紹介しよう。

業界人の飲み会で「今日の会費はツェーマンで」っていわれると、一般人には何のことかさっぱり分からない。もともとは演奏家の隠語で、数字を音に置き換えて表現していたことに由来するという。

1万……ツェーマン
2万……デーマン
3万……イーマン
4万……エフマン
5万……ゲーマン
6万……エーマン
7万……ハーマン
8万……オクターブ
9万……ナイン

1―7はそれぞれ、C(ド)、D(レ)、E(ミ)、F(ファ)、G(ソ)、A(ラ)、B(シ)のアルファベットをドイツ語で読んでいる。「8」は8音でオクターブ。なぜか「9」だけが英語だ。

(まいどなニュース特約・平藤 清刀)