「一口」…この名字、読めますか? 姓氏研究家・森岡浩氏が日本人の難読名字を紹介します。

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この名字、漢字の読み方通りに「いっこう」「かずぐち」とも読むが、あっと驚く読み方をするものもある。それが「いもあらい」である。

ただし、「聞いたことある」という人も多いだろう。というのも意外と地名などで各地にあるからだ。一番有名なのは東京・九段の一口坂(現在バス停としては「ひとくちざか」)。坂の名は近くにある一口(いもあらい)稲荷に因んでいる。

この稲荷の名称は、太田道灌が娘の疱瘡の治癒を祈願して、山城国一口(いもあらい)の稲荷を勧請して建立したことに因むという。

名字としての「一口」も、この山城国久世郡一口(京都府久世郡久御山町)に因んでおり、現在も京都府向日市周辺にある。面白いのはこの一口地名、もともとは普通に「芋洗」と書いていたという。ところがいつのまにか「一口」と書くようになり、江戸時代にはもっぱら「一口」という表記に変わっていたようだ。

その理由は、ここは三方が沼地で一方にしか出入り口がなかったことで、そこから「一口」と書くようになったらしい。しかし、なぜここが「いもあらい」という地名になったかについては諸説ありはっきりしない。

◆森岡 浩 姓氏研究家。1961年高知県生まれ。早稲田大学政経学部卒。学生時代から独学で名字を研究、文献だけにとらわれず、地名学、民俗学などを幅広く取り入れながら、実証的な研究を続ける。NHK「日本人のおなまえっ!」にコメンテーターとして出演中。著書は「47都道府県名字百科」「全国名字大事典」「日本名門名家大事典」など多数。