本格的な夏を迎えて涼しい、着け心地が良いなど用途に応じたマスクが販売される中、「歌えるマスク」が登場した。通常のマスクに対し、呼吸も十分にでき音声も明瞭という。制作したのはプロで活動する東京混声合唱団(以下、東混)。先月27日から予約受付を開始し、全国から申し込みが殺到しているという。合唱団事務局に話を聞いた。

■安全に歌うために…東混の取り組み

新型コロナウイルスの影響で、東混は5月16日開催予定だった『コン・コン・コンサート2020』を7月31日に延期にした。

「その時、7月の演奏会にはマスクを着用して臨むと決めました」と語るのは、東混事務局長の村上満志さん。ところがマスク製造会社に片っ端から連絡するも話はまとまらない。アパレル会社にも打診するうち、ついに衣装の製作会社が引き受けてくれた。

歌えるマスクの必須条件は、あごの引っかかりをなくすこと。一般的なマスクはあごにかかることによって顔に密着するが、口を大きく開ける歌唱では邪魔になる。また、大きく呼吸できるよう口元にフィットし過ぎないデザインでなければならない。イスラム圏でみられるような顔に付けるベールをヒントに、約2カ月で完成した「歌えるマスク」は、専門家によって声量や響きにほぼ影響がないことも確認された。

同時に、自分たちと同様に困っている合唱人へも販売をしようとホームページで予約を開始。約1週間で2000枚を超える注文が来ているそう。「予想をはるかに超える数に驚いています。大量生産できないので、手元に届くのに時間がかかるがご了承いただきたい」と話す。

■ 歌うために作られていることを実感

「歌えるマスク」を入手した、神戸市のある合唱団の団長に使用感を聞いてみた。

「口を動かしやすいことに感動しました。また、呼吸のたびに口に布がまとわりつく嫌な感触がないので、ストレスなく歌に集中できます」。裏地も肌に優しく長時間装着でき、顔から胸にかけて広く覆うから飛沫の低減も期待できる。「アマチュアを含め合唱人のことを十分意識して作られている。プロアマ問わず、コロナ禍を一緒に乗り越えようよ!という思いと共感(ハーモニー)を、ダイレクトに感じました」。

東混の練習では、団員は「歌えるマスク」を付け、30分に1回休憩を取る間に窓を開け放す。「感染予防のため十分な換気を行います。また密を避け消毒も欠かしません。マスクをしているからといって、安心は禁物です」と語る村上さん。

今回のコンサートでもお客さまに心から音楽を楽しんでもらうため、団員同士の間隔を空けて「歌えるマスク」を着用。さらにお客さまから「密になっている」と違和感を持たれないか、細部まで気を配ったという。

村上さんは「歌えるマスクは100%感染を防ぐものではありません。しっかりガイドラインを守り、あくまで歌いやすいマスクとしてご利用ください」と繰り返した。

東京混声合唱団は1956(昭和31)年に東京藝術大学の卒業生らによって創設された、数少ないプロの合唱団。彼らの勇気と取り組みが合唱界の希望となるか。

(まいどなニュース特約・國松 珠実)