東日本大震災では、人間だけでなく、多くの犬や猫、家畜などの動物も被災した。原発の放射能で汚染された地域には、飼い主に見捨てられた動物が数多くいた。猫のゴエモンくんはボス猫として君臨していたが、年老いてボスの座を奪われ、ボランティアに保護された。

東日本大震災で被災した動物たち

2011年3月11日、東日本大震災は未曽有の被害をもたらした。福島第一原子力発電所が爆発、放射能が漏れ出し多くの地域が汚染された。福島県飯館村もそのひとつ、避難勧告が出て、住人は否応なしに住み慣れた土地を追いやられた。被害を被ったのは人間だけではない。ペットとして飼われていた犬や猫、家畜が、被災地域に取り残された。福島県で取材したフォトジャーナリストの児玉小枝さんによると、県民の中には「犬は呼び鈴」であって、家族ではないので連れて行かなかったと言う人もいたという。

飯館村にはボランティアが入り、エサや水を与えて動物たちの命をつないでいた。猫は十数匹取り残されていて、なかでも存在感を感じさせたのがボス猫のゴエモンくんだった。最初は被災した人を手助けするために神戸市の日比輝雄さんは、福島県に移住して犬や猫を救うためのボランティアに没頭した。

猫のゴエモンくんは、年老いた三毛猫「お富士さん」とえさ場を仕切り、鋭い眼光を光らせて生きていた。TNRした後も、2匹は連れ合いのように一緒にいた。

ボス猫、新参猫に脚を噛まれる

お富士さんの老化が目立ってきて、そろそろ保護しようとしていた矢先、お富士さんは姿を消したという。日比さんたちボランティアは、ゴエモンくんがお富士さんの二の舞にならないよう、保護する決心をした。2015年1月22日、捕獲予定日にゴエモンくんが脚を引きずって歩いていたので捕獲し、動物病院に搬送したという。新しく来た猫に脚を噛まれたようだった。

茨城県に住む大橋さんの実家は米屋をしていたが、原発事故の風評被害で米が売れなくなり、福島県や宮城県の人に米を寄付した。それがきっかけで日比さんが猫たちの様子を綴るブログを見るようになったのだが、汚染された地域に取り残されている犬や猫を見るにつけ胸が痛んだ。

「個人で猫の保護活動をしていたので、1匹でも2匹でも助けたいと思い、日比さんに連絡を取り、ゴエモンくんを引き取りたいと言いました」

ゴエモンくんは10歳前後で歯もほとんどなく、猫エイズ陽性だった。保護された翌日にゴエモンくんを譲渡してもらう予定だったが、その日は動物病院で預かってもらうことになり、翌日、知り合いのカメラマンが福島県でゴエモンくんを預かって、大橋さんのところに届けてくれた。

猫に恩返しがしたい

ゴエモンくんは、身体が大きい割には弱々しい感じだった。長く外で生活していたので、なぜ大橋さんのところにいるのか分からないようだったという。

ゴエモンくんを猫エイズの猫たちが暮す部屋に入れると、すぐに仲良くなった。薬も素直に飲んでくれたという。甘えん坊で、人のそばにいるのが好き。大橋さんの布団の中に入ってきた。

大橋さんは、福島県から他の猫も引き取ったが、彼らは猫エイズや白血病にかかっていることが多かったという。17匹のうち、ノンキャリアの猫は5匹くらいだった。実家の米屋は明治生まれの祖父が開業したのだが、猫が納屋の米をねずみから守ってくれていたそうだ。大橋さんは、長きに渡り米を守ってくれた猫に恩返しがしたいのだという。

ゴエモンくんは大橋さんと5年7カ月間暮らし、多発性リンパ腫のため2020年8月22日、大橋さんの腕の中で空に旅立った。

(まいどなニュース特約・渡辺 陽)