昨年12月、「京の台所」と言われる錦市場(京都市中京区)で1軒の老舗総菜店が135年の歴史に幕を下ろしました。しかし今秋、その総菜店の味が京都市左京区のスーパーのおかずとして販売されるようになったといいます。さらに、10月30、31日には「復活祭」を開くとか。復活の経緯をスーパーの社長に尋ねました。

 昨年閉店したのは井上佃煮(つくだに)店。1884(明治17)年創業の老舗です。家庭的な「万願寺とうがらし昆布」や「ちりめん山椒(さんしょう)」といったおかずやつくだ煮から、若者向けにカスタードクリーム入りの「ハリネズミドーナツ」や「チョコレートコロッケ」も提供していました。

 しかし、井上佃煮店は昨年12月、商売を取り巻く環境の変化などから廃業しました。

 廃業決定を聞き、「閉店するってどういうこと?」「理由は?」「お客さんが待ってるんでしょ」と、井上佃煮店の社長を質問攻めにした人がいました。それが高品質な具材や食品を販売するスーパー「フレンドフーズ」(京都市左京区)の藤田俊社長(39)でした。

 フレンドフーズは、井上佃煮店と30年来の交流があり、年末に販売するおせち用の食品を井上佃煮店から購入し、販売していました。「嫌いな人はいないのではないかと思うくらい、シンプルな味なんです。甘めでどこか懐かしさを感じる」。藤田社長は、井上佃煮店の味を高く評価していました。

 井上佃煮店の魅力はそれだけではありませんでした。「働いている人がいいんです。お客さんは店員に会いに来るのを楽しみにしていたんです」。藤田社長はそう言います。

 藤田社長の説得交渉もむなしく、井上佃煮店は閉店してしまいました。冷蔵庫も、レシピさえも、処分されてしまったそうです。

 しかし、藤田社長はあきらめませんでした。とうとう井上佃煮店社長の梅村猛さんに「人と場所を提供するから、スーパーで作ってほしい」と切り出しました。そんな猛アタックのかいもあり、梅村さんと家族の計3人がフレンドフーズの従業員として今年9月17日から働くことになりました。

 出社初日。梅村さんは、慣れないスーパーの調理場で、いきなり5種類ほどの総菜を作り上げたそうです。「調理場にあるもので作った。食材や調理器具を前にするとエンジンが掛かった」。錦市場時代のレシピは失われましたが、長年鍋の前に立っていた梅村さんの頭の中には、作り方や味付けがしっかり刻み込まれていました。

 それからも、ほかのフレンドフーズの従業員を指導しながら、梅村さんは総菜を作り続けています。今では「里いもほっこり煮」や「じゃことうがらし」など10種類弱が「創業明治十七年 錦小路井上」のプレートとともにスーパーの総菜コーナーに並んでいます。

 藤田社長は、梅村さんらの入社から1カ月半後にあたる10月30、31日を「井上佃煮店復活祭」の日と銘打ち、大々的に売り出すことに決めました。復活祭の日は10品目以上の総菜が店頭に並ぶ予定です。錦市場で人気だった「ハリネズミドーナツ」も販売を検討中とのこと。

 藤田社長は「老舗の味をなくさないようにと、考えながら動いてきた。しつこく梅村さんを説得したので、スーパーでの再開にこぎつけられたのでは」と振り返ります。

 復活祭の後は、販売時間を遅めにずらし、夕方の時間帯に購入してもらえるようにするそうです。京都の夕げの食卓を老舗の味がにぎわせる日々がこれからも続きそうです。

(まいどなニュース/京都新聞・浅井 佳穂)