今月中旬、関西地方のある会社の会議室に10人の従業員が集まった。この会社では今月、発熱などを訴えていた社員が、保健所のPCR検査で新型コロナウィルス陽性に。今回呼ばれた従業員は、マスクをしていたもののその社員とあいさつを交わした人や、会ってはいないが同じ事務所を利用していた人たち。いわゆる“濃厚接触者”とは見なされないが、「本人や取引先の不安を考えれば、一刻も早く、広く検査をしたかった」(関係者)といい、利用したのが民間医療機関が行う「プール方式」での唾液PCR検査だった。

 「プール方式」は複数人から採取した検体を混ぜて検査する手法で、個別検査よりも費用が安く、判定時間も短くなるとして中韓、米・ニューヨークなどで採用され、「精度は個別検査と変わらない」という東京大学先端科学技術研究センターの実証研究結果も。東京都世田谷区は区が行う検査への導入を目指しているが、国は否定的な姿勢を崩していない。

1回5万円、最大5人 1人あたりの費用は個別検査の3分の1に

 だが「第3波」が広がり、風邪症状を呈する人も増える中、職場や家族内で、できるだけ安価に素早く検査をしたいというニーズは急激に高まっており、自費でのプール方式唾液PCR検査に乗り出す民間医療機関も出て来ている。神戸市中央区の神戸国際医療連携クリニック(KICC)もその一つ。同クリニックでは6月から自費での唾液PCR検査を導入し、行政検査や渡航前検査なども担う。だがネックは1回2.7万円という高額な費用。検査後に感染する可能性もあり、介護や保育関係者、重症化リスクの高い家族と同居する人、接客機会の多い企業・店舗の従業員らが「不安を覚えた時に検査を」というには重い負担だった。

 そこで、独自にこれまで陽性判定された検体を5倍に薄め、陰性の検体と混ぜて結果を検証。精度が100%だったことを受け、10月下旬、こうした人たちを対象としたプール方式の唾液PCR検査の導入に踏み切った。1検体に5人まで可能で、費用は1回5万円。家族5人が1人ずつ受ける3分の1で済み、結果は原則、翌日には分かるという。

 方法も簡単だ。綿棒を舌の上に乗せて口に含み、3分ほど待って試験薬の中に入れる。鼻咽頭拭い液を使うより医療従事者らへの危険性は少なく、量も少量で済む。それを専用カートリッジに4滴垂らし、機械に挿入して1時間。45回細胞分裂をさせてウイルスを増幅させ、少量のウイルスでも陽性判定が出る。11月中はモニター期間として念のため、同じ検体を民間検査機関でも検査するという。

「クラスター出せない」…切実な思い、フォローアップ検査も

 冒頭の会社もインターネットで同クリニックを知り、検査を申し込んだ。プール方式での検査結果は、全員陰性。さらにこの会社では、感染直後でウイルス量が少なく偽陰性になった場合に備え、4〜5日間の健康観察の後、フォローアップ検査として、同じメンバーで再びプール方式での検査を行った。

 もちろん、濃厚接触とみられる従業員は個別のPCR検査を受けているが、同社は「保健所に頼むと濃厚接触者の確定を待って、検査は各自の居住地の自治体で、となる。会社としては取引先との信頼関係、従業員と家族のためにも全ての仕事を止めてでも検査を徹底しよう−という方針でしたが、とても待っていられなかった。最初の感染は仕方ないにしても、クラスターだけは避けたい。本当に助かった」と喜ぶ。

 同クリニックによると、感染拡大に伴い、個別・プール方式ともに検査の問い合わせ・申し込みは急増。予防として定期的に全従業員にプール検査を行っている会社もあるが、これまでにプール方式で陽性者は出ていないという。福島和人院長は「偽陰性が混入する可能性といっても抗原検査に比べても格段に精度は高い。これだけ感染が拡大し、無症状の人も多い。経済を回すためにも、医療崩壊を食い止めるためにも、少しでも不安があれば『プール方式+健康観察+フォローアップ検査または症状が出たら個別検査』というやり方でクラスターを未然に封じ込めることが有効なのでは」と指摘している。

(まいどなニュース・広畑 千春)