大阪「あべの」の漢字表記は一般的に「阿倍野」。だが一部に「阿部野」と表記される場所もある。「べ」の表記に「倍」と「部」がある理由を調べてみた。

「安倍晴明神社」と「阿部野神社」も「べ」が違う?

大阪市阿倍野区は、地名表示や道路の案内標識などの「あべの」の表記は「阿倍野」と表記されている。また「阿倍野区役所」「阿倍野警察署」「阿倍野図書館」などの公的機関も、「べ」は「倍」の字で表記される。ほかにも、平安時代の陰陽師で有名な安倍晴明を祀る「安倍晴明神社」も「倍」である。

「べ」を「部」と表記しているところを探してみると、「阿部野神社」があった。隣接する「阿部野学園幼稚園」も「部」になっている。

余談ながら「あべのハルカス」のようにひらがなで表記されたり、「あべのキューズモール」の壁面に「abeno CUES TOWN」のようにローマ字で表記されたりしている例もある。

「大阪の新しいランドマーク「あべのハルカス」と新しいまちづくり。地域委員会講演会レポート」の「あべのハルカス 〜新しい情報発信拠点を目指して〜」と題された講演録に「あべのハルカス」という名称に決まった経緯が語られているが、ひらがなで表記されることになった理由には触れられていない。

行政が運営する機関や施設は「阿倍野」の表記で統一

阿倍野区のホームページによると、古くから「阿倍野」「安倍野」「阿部野」などの表記が混在しており、どれが正しいとか間違っているというわけではなかったようだ。

昭和18年に住吉区から分区して、新しい区の名称を「あべの」とするにあたって、区役所の土地台帳や戸籍原簿がいずれも「阿倍野」と表記されていた。そのため、行政区としての名称が「阿倍野区」になり、その後は「阿倍野」表記が主流になっていった。

そういった経緯があって、区役所、警察署、図書館など行政が運営する機関や施設は「阿倍野」の表記で統一されている。ちなみに阿倍野警察署は、開設当初は「阿部野」と表記していたが、後に「阿倍野」に改められた。

駅名に「倍」と「部」があるのはナゼ?

次に気になるのが、駅名である。阿倍野区にはJR阪和線、近鉄南大阪線、大阪メトロ谷町線、阪堺電気鉄道(通称「阪堺電車」)上町線の4路線が走っていて、JR阪和線を除く3路線に「あべの」が付く駅がある。

区名と同じ「倍」の字を使っているのは大阪メトロ谷町線「阿倍野」、阪堺電気鉄道上町線「阿倍野」で、「部」の字を使っているのが近鉄南大阪線「大阪阿部野橋」だ。

天王寺駅前交差点(北詰)から近鉄前交差点(南詰)にかけて架かり、JR関西本線、環状線を跨ぐ跨線橋でもある「阿倍野橋」が近鉄の駅名の由来だと思われるが、実際の橋は「倍」の字で表示されているのだ。

なぜ駅名は「部」なのか? 近鉄の広報部に問い合わせてみたところ「弊社にも詳しい資料が残っていないため、正確なところはわかりかねますが……」と前置きしたうえで、おおむね次のような経緯があったという認識らしい。

大正12年4月13日に「大阪天王寺駅」として開業したが、すでに存在していた省線(現JR西日本)「天王寺駅」と区分するため、開業の翌年には現在の駅名に変更された。

「阿部野」は室町以降に字(あざ)名として多く使われており、当時も駅の所在地が天王寺村大字阿部野だったので、字名を駅名に使ったといわれている。ただし、真相は分からないとのこと。

このように「阿倍野」も「阿部野」も古くからある表記で、どちらの表記を採用するにも、それぞれに理由があったのだ。

(まいどなニュース特約・平藤 清刀)